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サバイバルでは、自分の置かれている状況を確認するのが意外と大事


「おい、そっちはどうだ?」

「駄目だ、こっちの船も損傷がひどい」


とある海岸。青い海に白い砂浜という観光客ならばすぐにでも叫び出したくなるような美しいビーチにおいて、ガタイの良い厳つい顔のオッサン達は停泊しているところどころ損壊した数隻の船の周りを厳しい顔つきをしながら忙しなく見て回っていた。


「一応、どの船も致命的な個所にダメージがないから修繕さえすれば問題はなさそうなんだが、どんなに急いでもまた航行できるようになるまでには結構な時間がかかりそうだ」


手分けして船の状態を確認している厳つい顔をした船乗りの一人が声を上げる。


昨夜、暗い海の真ん中で巨大な触手による襲撃を受けた船乗りたちは、隙を見て何とか逃げ出した後、たまたま近くにあった陸地に損傷した船の状態を確認するとともに、船員の休息も兼ねて船を停泊させていた。


「―――つまり、あの急に発生した光はハルト君が起こしたわけだね」


そうして船乗りたちが忙しなく動いている中、岸に上陸する際に砂浜の上に乗り上げた小舟を座席代わりにして、残念な少年の対面に座っていた色黒の青年が言った。


「まぁ、うん。何というか、ちょっと実験をしたくなってつい」

「…………」

「理由はどうあれ、あの光のおかげで私たちは難を逃れることが出来た。本当にありがとう」


明後日の方向を向きながらバツの悪そうな態度をとっている残念な少年。そんな主に対して、小舟の横に立っていた鬼メイドは無言のまま冷ややかな視線を送っている。


そんな目の前で居心地の悪そうにしている相手に、色黒イケメンはさわやかな笑顔を浮かべた後にその場から立ち上がると、潔くお礼の言葉と共に頭を下げた。


「っ! ふっふっふっ、せいぜい感謝することだな」

「…………」


一瞬だけ驚いたように目を見開いた後、なぜか腕を組んでから偉そうに胸を張っている残念な少年。そんな主に「なんでそんな意味もなく威張れるわけ?」とでも言いたげな目を向ける鬼メイド。


そんなジトッとした視線を残念な少年の方に向けている鬼メイドに、色黒イケメンは向き直って話しかけた。


「君にも礼を言わせてほしい。偶然とはいえ、この近くにこんな島がある事を君が知っていなければ、あの損傷の酷い船では、私たちは航海の途中で遭難する可能性もあった。どうもありがとう」

「っ! い、いえ、お礼など結構ですから、どうか頭を上げてください!」


深々と頭を下げてお礼を言ってくる色黒イケメンを前に、普段のポーカーフェイスを崩して動揺を見せる鬼メイド。


現在、彼らの停泊している場所というのは、実は慌てて化物から逃げている途中、航路に迷っていた船員に鬼メイドが偶々いた海域の近くにある事を知らせた結果として行き着くことのできた島であった。


そもそも、なぜ化物から逃走している最中という現在地も確かめることのしづらい状況であったにも関わらず、鬼メイドはそんな島が近くにある事が分かったのか。その理由を簡単に言ってしまうと……


「まさか生まれ育った故郷というのが化物の発見された海域の近くにあったとはね。色々とバタバタしていたせいで、君たちをこの船に乗せる際の条件に、この島へ連れてくることが含まれていたのを失念していたよ。申し訳ない」


苦笑いを浮かべながら申し訳なさそうにしている色黒の青年。


実は、彼らが今停泊している島というのは、鬼メイドの故郷であると同時に、わざわざ船に乗ってまで残念な少年がある目的を達成するために目指していた場所でもあったのだ。


「いや、ホント、故郷とはいえ、よくこんなところに島がある事が分かったよな!」

「…………はぁ」


しかし、自分が船に乗っていた理由などすっかり忘れたかのように能天気な発言をする残念な少年。そんな主を前にして、呆れたようにため息を溢す鬼メイド。


「―――若頭、ちょいといいですかい?」


そうこうしていると、ふと近付いてきた一人の船乗りの男が色黒の青年に話しかける。


「どうした?」

「へい。一応、すべての船の確認は済みやしたぜ。不幸中の幸いか、使い物にならなくなるような致命的なダメージのある船はありやせんでした。ただ、やはりまた航行できるようになるまでには少々時間がかかりそうで」

「……そうか」

「それと、想定してたよりも船の損壊がひどいみたいで、備蓄してた資材だけだと修繕にはちょいと足りなくなりそうです」

「わかった。とりあえず、できる範囲から修繕を始めてくれ」

「へい!」


色黒イケメンの指示を受けて、気持ちの良い敬礼と共に離れていく船乗りの男。


その船乗りの男の姿が見えなくなった頃、周囲に気付かれない様に小さなため息を溢した色黒の青年は、そのまま小舟に座り込むと顎に手をやって考えこみ始めた。


「……礼を言った後で少々厚かましいとは思うのだけど、ちょっと頼みを聞いてもらえないかな?」

「なんでしょうか?」


少しの間だけ考えに耽っていた色黒の青年が徐に顔を上げると、どこかバツの悪そうな顔をしながら鬼メイドの方に視線を向ける。


「実は、船を修繕するための材料が足りなくなりそうでね。申し訳ないのだけど、残りの材料を集めるために君の故郷だというこの島の住人に協力を仰げないかな?」

「っ!? えっと、それは……」


色黒の青年の発した言葉に、なぜか言いよどむ鬼メイド。彼女の様子をうかがいながら、不思議そうに首を傾げる残念な少年。


「どうかしたかい?」

「……いえ、何でもありません。……おそらくこの島で船の資材を集めることは可能だと思います。ただ……」

「ただ?」

「この島の住人に俺達が会うとマズい事でもあるのか?」

「っ!?」


唐突に発せられた残念な少年の言葉に、核心を突かれてかバッと驚いた表情を見せて少年の方へ顔を向ける鬼メイド。


「そうなのかい?」

「……申し訳ありませんが、この島の住人に協力を仰ぐのは私にお任せいただけませんか?」


色黒の青年の問いに対して、返答を濁しつつ提案を投げかける鬼メイド。


「理由を聞いてもいいかな?」

「…………」

「……言い難いならいい。何か事情があるようだし、この件は君に任せるよ」

「……ありがとうございます」


聞き返すも答えを渋る鬼メイドに、困り顔を浮かべた色黒の青年は返事をする。


そして腰掛けていた小舟から降りた色黒の青年は、残念な少年と鬼メイドとの間で軽く言葉を交わした後、停泊している船の方へと向かって行った。


「さて、それじゃあ行くか!」

「は?」


両膝を手で叩いてから元気よく立ち上がる残念な少年。その少年の発言を耳にして、すぐさま困惑した表情をみせる鬼メイド。


「……それは、どういう意味でしょうか?」

「え? 意味も何も、付いて行く以外に解釈の仕方あるの?」

「話を聞いていましたか!?」


キョトンとした顔を見せる残念な少年を前にして、思わず声を荒げる鬼メイド。ここ最近、どちらかというと無口で無表情というキャラ付けだったのが、すっかり崩壊しているような気がする。


「だってさ、俺がここに居てもやることなくて暇じゃんか。だったら主らしく従者の手助けでもしようかなと思ってさ」

「……ご主人様は、今まさに私の邪魔をしている自覚はおありですか?」


ニコニコと何か楽しそうにしている残念な少年に対して、沸々の湧き上がる殺意を堪えるようにして鬼メイドは言葉を紡ぐ。


「え? 俺、何かやっちゃいましたか?」

「……失礼しました。そういえば、ご主人様に自覚がないのも、存在自体が邪魔である事も平常運転でしたね」

「言い方っ!」


どこぞの無自覚系主人公のようなセリフを吐く残念な少年。


それに先程までコロコロと表情の変わっていた顔から感情を消し、ポーカーフェイスに戻ってからいつも通りの毒舌を披露する鬼メイド。


「ていうか今思い出したけど、俺はそもそもお前を返品するためにこの島を目指してたんじゃんか! だったら、この島の住人と会わなきゃいけないだろうが!」

「…………本当に、今更ですね」


ビシッと人差し指を突き付ける残念な少年。そんな少年から視線を逸らして、遠くの方を見つめだす鬼メイド。


「というわけなので、俺に対してまったく優しくない異世界メイドの意見は却下します。よって、俺もこの島の住人との交渉の席には同行させてもらうので、よろしく」

「…………くっ」


腰に手を当ててから胸を張り、見ているだけで腹の立つなんともムカつく表情を浮かべる残念な少年。奴隷契約によって主には手が出せないという事実に歯を食いしばりながら、親の仇でも見るような憎々し気な視線を少年に向ける鬼メイド。


そんな奇妙な寸劇を繰り広げたのち、主である残念な少年と、従者である鬼メイドの二人は、諦めた様に何度もため息を漏らす鬼メイドの案内の元、島の住人のいる場所を目指して歩き始めた。



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