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幕間 青い人魂と悪魔への鎮魂


「―――まさか、こんなところにあの頃の生き残りがいたとはな」


とある教会。周囲にめぼしい光源もなく、月明りもない真っ暗な夜闇の中で、教会の隣にポッカリと開いた穴の中にある歪な黒い鉄の扉の前に立った一人の男が、ポツリと声を漏らした。


「―――ホント、マヌケだよな。こんな近くにいたのに気付けないとは、笑い話にもなりゃしねぇ」


口角の端を少し上げて、その男はニヒルに笑った。


「―――無駄にプライドが高くて自分本位な考えしかできないような種族の生き残りが、まさか生霊になってまで忠義を尽くそうとするなんて、こっちは予想もしてなかったよ。……つっても、やり方はだいぶ間違えていたみたいだがな」


何もない真っ暗闇の中で、たった一人で佇んでいるその男は、まるで見えない誰かにでも語り掛けるように、ただ淡々と言葉を紡いでいく。


「―――今更だが、もうちっとばかし周囲への迷惑ってやつも考えるべきだったな。結果として、こんな僻地で封印されちまってるし、自分が王様になるだとか本来の目的を完全に見失って暴走しちまうし、最後には街の人間にも存在を感づかれて、その名前すらあがってこない様な、どこぞの無名の冒険者に討伐されちまったみてぇだしな」


尻を地面につけないようにその場で膝を曲げるだけで座りこみ、また、男は見えない誰かを諭すように語る。


「―――まあ、お前が気にしているかどうかは分かんねぇけど、心配するなよ。てめぇの起こしちまった問題の方は、同族(・・)のよしみで俺らが何とかしといたから。……だからさ、お前は安心して成仏しといてくれ」


ただ静かに黒い鉄の扉の方を真っ直ぐに見つめている男は、先程とはまた違った、内面の優しさを表すようななんとも柔らかい笑みを浮かべる。


「―――そっちで、仲間達と少しの間だけ待っといてくれや。近いうちに、俺らもそっちに―――」

「……おい、そこに誰かいるのか?」


その時、穴の中にいた男の声を遮るようにして、穴の周りを守る様にして聳え立つ囲いの壁の外にいた人物が声を上げる。


囲いの壁の一つに備え付けられていた戸を開けて、その人物、ランタンの灯りを片手に持った一人の衛兵が顔を出して穴の中を覗き込んできた。


「……変だな。確かに声がしたと思ったんだが……」


魔族による潜伏事件のあった現場という事もあって、その日たまたま警備にあたっていた衛兵の男は、人の気配を感じて確認してみたのだが、特に誰も見当たらないという現状に一人で首を傾げてしまう。


「ていうか、そろそろ交代の時間だってのに、あいつらは何してんだよ。俺一人をこんな不気味な場所に放置しといて、たかが便所にどんだけ時間かけてんだ。早くしねぇと、交代の奴らが着ちまうじゃねぇか」


言い知れぬ不気味な空気を感じ取ったのか、一人でいる不安な状況を紛らわすように空いた手の方で腕をさすりながら、用を足しに行った他の衛兵たちへの愚痴を零していた。


そうして気を取り直して、また元いた場所に衛兵の男が戻ろうとした時、ふと視界の端に映った謎の物体に気付き、彼は動きを止める。


「……ん? なんだ、あれ?」


その場で立ち止まり、穴の上から見下ろすような形で、黒い鉄の扉付近に浮かんでいた、その謎の物体を衛兵の男は見つめる。


まるで青白い人魂のようにも見えたそれをしばらく見つめていた衛兵は、自分の頭の中に『幽霊』という単語が浮かんだ瞬間、若干顔を青ざめさせてユラユラと揺れる謎の物体から視線を外すと、ギュッと目をつむり眉間を揉みほぐした。


そして、何度も深呼吸をして落ち着きを取り戻したのち、謎の物体の浮かんでいた場所に視線を戻したのだが、そこには、先程まであったはずの青白い人魂のようなものは影も形もなくなっていた。


「………………ははは、冗談だろ?」


乾いた笑いを漏らす衛兵の男。その後、ようやく便所から戻ってきた同僚と、ほぼ同時に交代のためにやって来た衛兵たちに安心した彼は、捲くし立てる様にしてその顛末を話した。


結局のところ、その場にいた者達には一人として信じてもらえなかったが、念のため、魔族による事件の関係者たちにも、その不気味な事件に関する報告が上がった。


目撃者である衛兵の同僚はもちろん、殆どの人間は質の悪い妄想か、何かを見間違えたのだろうと一笑に付すのみで終わり、本人もすっかり笑い話として忘れてしまう。






……そんな中、ギルドマスターのような一部の関係者だけは、そんなしょうもない事件に対して、何故かなんとも言い知れぬ不安を感じ、心の中に暗雲を立ち込めさせていた。




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