嫌っているものが共通していても、意外と仲良くなれる
「―――お~い、不良シスター久しぶり~……」
「あ゛あ゛ぁっ!?」
「チッ‼」
遠くの方からやって来る残念な少年の姿を視界に入れた瞬間、すぐさま威嚇する対象を変更するヤクザ風のシスター。
そして、ヤクザ風のシスターからは視線を外して、少しばかり俯きながらはっきりと周囲に聞こえるような舌打ちをする毒舌鬼メイド。
ただ話しかけただけなのにこの扱い。普段の態度や理由はどうあれ、少しばかり残念な少年に同情してしまうような内容である。
「テメェ、何しに来た!?」
「……え? 何でいきなりキレ気味なの?」
いつものように自分が何かを言う前からすでに憤慨しているヤクザ風のシスターのいつもと少し違う態度に、思わず戸惑いを見せる残念な少年。
「よくわかんないけど、ここに来るのに不良シスターの許可がいるの?」
「そういうことを言ってんじゃねぇっ‼」
あからさまにおどけた様子で尋ねる残念な少年に、怒りのボルテージを上げて叫ぶヤクザ風のシスター。
「も~、じゃあ何? ちゃんと主語を言ってくれないと分かんないだろ? ヤレヤレ、友達の少ない不良シスターは知らないのかもしれないけどさ。人とのコミュニケーションでは、ちゃんと結論から話すようにしないと伝わらないんだよ?」
「あ゛あ゛ぁっ!?」
肩をすくめて首を左右に振りながらウザい講釈を垂れる残念な少年。それを目の前にして、怒りのあまり般若のような形相になっているヤクザ風のシスター。
「ていうかさ、さっきまで二人とも何か見つめ合ってたけど、なにしてたの?」
怒りを露わにするヤクザ風のシスターの態度は気にせずに、残念な少年は不思議そうな顔をして庭の真ん中で佇んでいた二人に尋ねた。
「失礼ながら、瑣末な脳みそしか持ち合わせておられないご主人様に理解できるようお話しするのは、それだけで時間の無駄かと」
「テメェに関係ねえだろうが!」
残念な少年の投げかけた素朴な疑問に対して、まったく違うベクトルから辛辣な言葉を返す二人の美女。
「……そっか、不良シスターにようやく友達が出来たのか」
「…………は?」
しかし、そんな二人からの厳しい対応を気にした風もなく、残念な少年はあたかもハンカチで涙を拭うような仕草をしておかしなことを言い始める。
それに、呆れたような声を出すヤクザ風のシスター。
「いや~、遠くから見てたんだけどさ。お子ちゃまたちだけじゃなくて、いつの間に二人はそんな仲良くなったの?」
「……目が腐ってんじゃねぇのか、テメェ?」
「ご主人様が可笑しいのは、今に始まった事ではありません」
「……そういや、そうだったな……」
あまりにも脈絡のない話の流れに、ジトッと視線を残念な少年の方に向けるヤクザ風のシスター。
シスターの発言を耳にし、その横からさりげなく言葉を挟む毒舌鬼メイド。それをボソッと肯定するヤクザ風のシスター。
「…………」
「…………」
そして、残念な少年から視線を外し横目でメイドの方を見るヤクザ風のシスターと、なぜかシスターの方にわざわざ向き直っていた毒舌鬼メイドの視線がぶつかる。
最初、ヤクザ風のシスターが孤児達と毒舌鬼メイドが遊んでいた教会の中に入ってきた時と同じように、その場に沈黙が訪れる。
「…………くっく」
「……フフ」
しかし、そんな前と同じ状況になりながらも、前回のような重くて長い空気が発せられることはなく、見つめ合ったまま、なぜか小さな笑みを零す二人の美女。
「「あははははははっ!」」
そうして、口元を隠すようにして手をやった二人の美女は、そのまま大笑いを始める。
そんな二人の余りにも唐突な行動を見つめて、目をパチクリさせて惚けた顔をしている孤児達。
そして、そんな呆然としている子供達よりもマヌケな顔を晒し、二人の美女の傍で立ち尽くしている残念な少年。
この場にいた誰も予想していなかっただろう。まさか、なんとも不可思議な光景の繰り広げられた後で、つい先ほどまで睨みあっていた筈の銀髪のシスターと紫髪のメイドが本当の友人になってしまうという事を……