とある魔道具店での日常? パート1
「――――――というわけで、俺、ちょっとこれから航海に出てくるぜ!」
「「ちょっと待て! どういう事じゃっ‼」」
とある魔道具店の一室。どこかで見たことのあるようなリアクションを展開している二人の老人を見つめながら、残念な少年は元気よくサムズアップを決めた。
「お主、報連相という言葉を知っとるか? ちゃんと説明せい!」
興奮しているゴブリン爺ちゃんは、残念な少年に詰め寄る様にして尋ねた。
「ええぇ~、だから言ってんだろ? カジノで購入した毒舌鬼メイドを返品するために、ちょっと鬼ヶ島まで行って来るってさ?」
「そんな説明でわかるか!?」
「……やはりこやつは『天災』……いや『災厄』じゃ。目を離すと碌な事をしでかさん……」
肩をすくめてヤレヤレとでも言いたげなウザい態度をとっている残念な少年。それを前にして、更に怒りを露わにするゴブリン爺ちゃん。
それとは対照的に、普段なら真っ先に怒りを見せるであろう白髪オーガは意気消沈しており、ブツブツと小さい声で何か言っていた。
「まあ、とにかくそういうわけだから。俺、この街を離れることになった!」
「軽っ! なんじゃ、その軽いノリはっ!」
あっけらかんとした態度で語る残念な少年に、いつものように的確なツッコミを入れるゴブリン爺ちゃん。
「……お主、それなりにこの街に居ったんじゃから、もう少し感傷的になってもええんじゃないか?」
「え? もしかしてゴブリン爺ちゃん、俺がいなくなって寂しい?」
「いや、むしろいなくなってくれた方が、余計な心労が無くなって嬉しいが」
「チクショウ! このクソ豆爺がっ!」
「誰がクソ豆爺じゃ、コラッ‼」
まるで本物のお爺ちゃんと孫であるかのように愉快な会話を繰り広げている二人。
そんな二人を部屋の隅の方から静かに見つめていた紫色の髪をしたメイドは、周囲に気付かれない様ほんの少しだけ口角を上げていた。
そこに、一人の老婆が近づいてきて話しかけてくる。
「よかったら、お茶でもどうぞ」
「っ!…………はい、頂きます」
ティーカップの乗ったお盆を簡素なテーブルの上に置き、突然話しかけてきた皺くちゃの魔女に驚いて少しだけ肩を震わせた紫色の髪をしたメイドは、ハッとしてすぐに顔を逸らし自身の口角を確認すると、ゆっくりと向き直ってから老婆に恭しく返事をした。
「……美味しい」
「そう、それはよかった」
ソーサーに乗ったティーカップを受け取り、静かに口をつけた鬼メイドは、ため息を漏らすかのようにして感想を口にした。
それを聞いて、その内面の人の良さを表すかのように、なんとも優しそうな笑みを零す老婆。
「……あなたも、色々と苦労しているのでしょうけど。私達人というのは一人では生きていくことのできない存在だから、誰かに助けを求めることも必要なんだよ」
「……え?」
老婆の発した唐突な言葉に、目を丸くしてしまう鬼メイド。
「今は難しいのかもしれないけど、もしあなたが本当に幸せになりたいと心から思うのなら、たとえ裏切られて傷つくことになっても、いつか信用できる相手をみつけようと一生目を凝らし続けなさい。まあ、妙な年寄りの繰り言だとでも思って、覚えておいてね」
「…………はい」
落ち着いた雰囲気を纏いながら語る老婆の調子につられてか、いつものような毒舌を吐く様子を見せずに素直な返事をする鬼メイド。




