どこの世界でも、部下は上司の決定には抗えないらしい
「――――――というわけで、これから彼と共に化物の討伐に向かうことになった」
「よろしく」
「「「「……ちょっと待て、どういうことだよっ!?」」」」
とある船着き場。港に停泊している船の乗組員たちを一堂に集められている場所。
そこで、その上司でもある煌びやかな服を着た色黒の美丈夫の発した一言に対し、屈強な船乗りたちは一斉に声を上げた。
「何をどうしたらそんな話になるんすか! ちゃんと理由を説明してください!?」
その場にいた船乗りの一人が、色黒のイケメンとその横に立つ残念な少年に、素早く視線を走らせながら叫んだ。
その言い方にはかなりの動揺が含まれていたようで、受け取り方によっては、偉い立場にある自分達の上司に向けるにはいささか不味い言葉づかいではあったのだが、それを気にする者も、指摘できる者もその場にはいなかった。
「え? さっき説明した通りなんだけど?」
「あんなので理解できるわけ無いでしょうが!」
不思議そうに首を傾げる色黒のイケメンに対して、慌てた様子で声を上げる船乗りの男。
「……流石に『海を荒らす化物を打ち倒すことは、この大海原を生きる私達海の男に課せられて使命だ!』とか言われてもな……」
「……シッ、声がでけぇよ。どうせこれも、若頭の悪い癖なんだろうからよ……」
混乱したように騒がしくしている船乗りたちの中で、とある二人組は提督のしていた説明に関して、ヒソヒソと話していた。
「……ホントさ、絵物語なんかの影響なのか、現実に妙なロマンとか冒険心を持ち込まないでほしいよな。いっつも、巻き込まれちまう俺らの事も、いい加減に少しは考えてほしいぜ……」
「……ホント、そうだよな。この前なんか、どこから拾ってきたのか、ボロイ地図を広げて『宝探しをするぞ!』とか言って、どえらい航海をする羽目になったからな……」
「「…………はぁ~」」
上司でもある色黒のイケメンに聞こえないように、騒がしくしている船乗りたちの陰に隠れて内緒話を続ける二人の男。
ほぼ同時に二人がため息を吐いている時、すぐ近くにいた船乗りの一人が彼らに話しかける。
「……つってもよ。そんな夢を持ってる人だからこそ、俺らも文句言いながら、今もこうしてついてきてんじゃねぇの?……」
「「…………」」
盗み聞きをしていたのか、急に話しかけてきた船乗りの言葉に目を見合わせる二人の男。
どうやら、口では文句を言いながらも、上司に対してそれほど悪い感情を持っているわけではないらしい。