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残念な少年と船乗りを統べる色黒イケメン パート1


「――――――どうするかな~」


とある船着き場。先程、鬼ヶ島へ向かう船のない理由を知った残念な少年は、その原因である化物を討伐するようにとバンダナを頭に巻いた船乗りの男に進言したのだが、当然のように断られていた。


「……大体、たかがイカの化物が出たぐらいで大袈裟なんだよな。そんなのスルメにでもして食っちまえばいいのに!」

「…………はぁ」


自分勝手な独り言を吐露する残念な少年。それを聞いて小さくため息を吐いている紫色の髪をしたメイド。


「……しょうがない。一応、船はもらえたし、これで鬼ヶ島まで行くか!」

「…………正気ですか?」


高々と右手を振り上げて元気よく宣言する残念な少年に、毒舌メイドは冷ややかな視線を向けながら言った。


二人の目の前には、バンダナの船乗りから貸してもらえた小舟が浮かんでいた。その小さな船は、港に届く小さな波でさえ大きく揺れ動き、大海原に出ればすぐにでも沈没してしまう姿が容易に想像できてしまうような代物であった。


「チッチッチッ、わかってないな! 俺のいた国の昔話では、今にも沈没しそうなボロイ小舟に、幼い少年一人とイヌ、サル、キジという三匹の小動物のみで鬼ヶ島を目指して大海原へ漕ぎ出した猛者が存在したんだからな!」

「……頭大丈夫ですかその人?」


メチャクチャなことを言い始める残念な少年。少年の語る荒唐無稽な御伽噺を耳にして、ますますその視線の温度を下げる毒舌メイド。


「まぁ、それに比べれば、一応はちゃんとした船で、考える知能もある奴が二人いて航海できるんだから、全然楽だと思わないか?」

「……正直、こんなあり得ない考えに至れるご主人様の知能が、話に出てくる畜生三匹と同列かすら怪しいですね」

「…………」


何故か得意げに胸を張る残念な少年に、もう毒と言えるかどうかすら分からない、至極まっとうな考えを述べる毒舌メイド。


そうして海の方を眺めながら途方に暮れる二人に、ゆっくりとした足取りで人影が近づいていく。


「――――――君たちは、こんなところで何をしているんだい?」

「ん?」


声を掛けられて振り返る残念な少年。そこには、頭にターバンを巻きつけ、貴族という単語を彷彿とさせる煌びやかな赤い服を着こなした、健康的に日焼けした黒い肌の美丈夫が立っていた。


白い歯を覗かせる爽やかな笑顔を向けてくる色黒のイケメンを前にして、物凄く嫌そうな顔をする残念な少年。


「別に何してたっていいだろ?」

「まあ、そうなんだけどね。……ただ、こうして出会った後で心中なんかされてしまうと、こちらとしては、あまり気分の良いものじゃないからさ」

「心中?」


色黒のイケメンの発した言葉に、キョトンとした顔をする残念な少年。


「失礼ながら、その貧しい脳みそで何をどう解釈されたのかは全く理解できませんが、こんなのと一緒にあの世へ行くなどという異常ともいえる特殊な趣味を、こちらは一切持ち合わせておりません」

「言い方っ!」


流暢に紡がれるメイドの毒舌を前に、打ちひしがれる残念な少年。


四つん這いになるという何とも大袈裟なリアクションを取っている残念な少年の方を見つめて、戸惑いを見せ始める色黒のイケメン。


「……えっと、その小舟に乗って入水自殺をしに行くわけじゃないんだね?」

「何で俺が自殺なんかしなきゃいけないんだよ! 言っておくが、俺はこの世界で酒池肉林の日々を手にするまでは絶対に死ぬつもりはないからな!」

「……あ、そう」


力説する残念な少年の方を、ポカンとした顔で見つめる色黒のイケメン。


「いやいや、申し訳ない。この辺りでは見慣れない少年とメイドの二人組の噂を船乗りたちの間で耳にしてたから、てっきり人魚伝説につられてたまに来る、自殺志願者なのかと思ってしまったよ」

「……なんじゃそれ?」


朗らかな笑みを浮かべる色黒のイケメン。それに対して、訝し気な視線を向ける残念な少年。



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