海に魚人が住んでいるのも、ある意味お約束
「……あのさ。そんなに困ってるんだったら、とっとと討伐しちゃえばいいんじゃないの? その化物?」
「は?」
「っ!」
どこか落ち込んだ雰囲気を出しているバンダナの船乗りの様子など無視し、残念な少年は思い付きをそのまま口にした。
その内容に、呆れたように口を半開きにするバンダナの男。
残念な少年の横で、紫色の髪をしたメイドは、何故か驚いたように少年の方に視線を向け、目を見張っていた。
「だって見た目からして魔物みたいだし、どう考えても人様に迷惑かけてるんだからさ。冒険者ギルドとかに依頼出せるんじゃないの?」
「……まぁ、坊主の言いたいことは分かる。ただな、その討伐依頼をするにしても問題があんだよ」
「問題?」
バンダナの男の言葉に、キョトンとした顔で首を傾げる残念な少年。
「そもそも冒険者って奴らは、所属している国や地域によって活動できる範囲ってのが決まってるんだがな。地上と違って海の上は特殊で、海上で起きた事なら俺達みたいなデカい組織に属してる船乗りくらいしか、干渉しちゃならねぇ決まりになってんだよ」
「どういうこと?」
「ようするに、たとえ恐ろしい魔物に襲われていようが、そこが海の上なら冒険者なんかの協力を得らえねぇんだよ」
「……ええぇ~、なに其の決まり。めんどくさ」
バンダナの男の発言を聞き、何故か子どものようにブーたれている残念な少年。
「何でそんなことになってんの?」
「それはな、海の所有権ってやつは基本的に俺達人族じゃなくて、そこを住処にしている魚人族が持ってるせいなんだよ」
「魚人族? う~わ、またなんか新しい単語出てきた!」
バンダナの船乗りの言葉を耳にして、物凄く嫌そうな顔をする残念な少年。
「で? その名前からして、人とお魚を足して二で割ったような感じの種族がどうしたの?」
「……ああ、一応そいつらが海の所有権を主張しちまってるせいで、その魚人族と契約をしている俺らみたいな船乗りを除いて、他の種族が海で勝手なまねをすることを禁止してんだよ」
「え? まさか、その勝手なまねっていうのは、海上での魔物の討伐とかも含まれるわけ?」
「……まあな」
残念な少年の勝手な決めつけに対してツッコミを挟むこともなく、目線を逸らし、頬を掻きながら答えるバンダナの男。
「…………ちっさ! え、なに? こんなだだっ広い大海原を住処にしてるくせに、その魚人族ってのは襲ってくる相手に反撃しただけでも海の上なら文句つけてくるくらいに、器のちっさい種族なわけ!」
罰の悪そうにしているバンダナの船乗りを前にして、持論を展開し始める残念な少年。もしも本人が聞いていたなら、間違いなく憤慨していた事だろう。そう思える程に失礼極まりない発言であった。
「おい、失礼なことを大声で言うんじゃねぇ! 誰かに聞かれたらどうすんだよ! ……それにな、坊主からしたら納得いかねぇのかもしれねぇが、そんな決まりが種族間できるまでには過去に色々とあんだよ」
「色々?」
「おう。例えば、奴隷市場での人魚の売買だとか、海の生態系が狂いかねない程の魚の乱獲、あとは単純に種族の差別問題とかだな。俺が生まれる前の話ではあるんだが、色々とあったんだよ。それらを取り締まるために出来た決まりなわけだ」
「……ふ~ん」
バンダナの男の説明を聞き終えて、どこか不満そうにしている残念な少年。状況を何となく理解はしても、納得はいっていない様である。
「お互いに上手くやっていくためには守らねぇといけない決まりなんだよ」
「……じゃあしょうがない。ようは、許可をもらってる船乗りだけで方をつければ問題はないわけだろ。つまり、オッサン達が化物と戦えばすべて解決するわけだな!」
「……え?」
「…………はぁ」
目の前にいるバンダナのオッサンを指差しながら高らかに宣言する残念な少年。それを、唖然として見守るバンダナの船乗り。
なんとも可笑しな光景の繰り広げられている横で、紫色の髪をしたメイドは、ジトッとした視線を残念な少年の方に向けながら、呆れたように小さくため息を吐いていた。