幕間 王様の悪だくみ3
「準備の方は進んでおるか?」
謁見の間。普段、多くの兵士達で埋まる空間には、王様と側近の家臣の二人しかいなかった。
「はい、滞りなく進んでおります。陛下」
「そうか」
いやらしい笑みを浮かべ密談する二人。
「それにしても、奴が此処まで粘るとは予想外だった」
「はい。騎士団長の訓練もそうですが、魔術師団長の教育も我々が理解できる範疇を超えています」
「腐っても勇者だと納得するしかないな」
当初の目的では、元いた世界で平和ボケした少年を厳しい訓練で使い物にならなくするつもりだったのだが、青葉春人は予想外の健闘を見せ、訓練を乗り切ってしまった。
その為、青葉春人を排除する、新たな計画を進めているのだ。
「しかし、訓練で想定以上の結果を出しているのですから、わざわざ排除せず、このまま勇者として徴用してはいかがでしょうか?」
「馬鹿を言うな。あんな品性の欠片もない者を国の代表ともいえる勇者になどしたら、我が国にとって末代までの恥になる」
「確かに、あれを表舞台に立たせるのは問題がありますね」
二人の頭の中で、両隣に女性を侍らせ高笑いを上げる残念な少年の姿が浮かんだ。
「それだけは何としても阻止しなければならん!」
「陛下のおっしゃる通りです!」
決意を新たにする二人。
「計画通り、まずは奴を国外に出す」
「はい。その後は、大々的に勇者を宣伝し、勇者は四人であると世界に認知させます」
「うむ。後から、誰が何と言おうと訂正できない様、勇者は四人である確固たる事実を作る。その上で、奴が命を落とせばなおよい。まさに完璧な計画じゃ」
「陛下はなかなかの悪ですね」
「いやいや、其方も相当な悪じゃよ」
謁見の間に、王様と側近の家臣の不気味な笑い声が木霊する。
「しかし、国外追放でなく、ただ出すだけでよいのか? むしろ暗殺のほうが現実的ではないか?」
「もし暗殺ということになれば騎士団長が黙っていないでしょう。ただでさえ、陛下の言動や行動は目を付けられていますから、我が国で謀反が起こるきっかけになりかねません」
「謀反だと!」
思わず玉座から立ち上がる王様。
「落ち着いてください。あくまで例え話です」
「うむ。そうか」
「国外追放も同様ですが、我々が勝手に連れてきた者に対して不敬を働けば、攻め込まれる隙になりかねません。まして、力をつけた今、他の四人の勇者が反抗などすれば元も子もありません。勇者の召喚自体無駄だったことになります。ですので、あくまで穏便に進めなくてはなりません」
「なるほどのう」
頻りに頷く王様。
「それで、奴を送る場所は決まったのか?」
「はい。初代勇者が生まれた地にして、我が国の領内で最も魔族との争いがあった街。始まりの街がよろしいかと」
「あそこか。しかし、魔族と争いがあったのはずいぶん前の話だ。危険な地域なら他にいくらでもあるだろう。なぜ始まりの街を選んだ?」
「僭越ながら、陛下のご子息であられる第一王子から助言をいただきまして」
「なに、シリウスからか?」
側近の家臣の言葉に、目を丸くする王様。
「はい。病床に伏せる身でありますが類まれな慧眼をお持ちのご子息が、最近の陛下のご動向を心配し、少しでも陛下の身を守る助けにならないかと、国内で聞かれる魔族の情報を集めておられたのです」
「そうか、そうか」
考え深そうに頻りに頷く王様。
「そして、始まりの街で最近魔族の目撃情報が集中していることが分かったのです」
「なるほど、ならば決まりだな」
「……あの、陛下、本当によろしいのですか?」
何故か躊躇いを見せ始める側近の家臣。
「何が?」
「私からご提案しましたが、これではご子息がお決めになったようなもの。できれば陛下のお考えもお聞かせ願えないでしょうか?」
「馬鹿者!」
声を荒げる王様。
「愛する我が子が儂の為に考えたものを無下に出来るわけがないだろうが!」
「はい! 申し訳ありません‼」
平謝りに謝る側近の家臣。
「では、始まりの街で計画を進めさせていただきます」
「うむ、それでいいのだ」
偉そうに胸を張り、玉座に凭れる王を見ながら、側近の家臣は気付かれぬよう、血が滲む程拳を握った。