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残念な少年と海


――――――ザザーンッ……


波打ち際に立ちながら、顎に手をやり、ボラードに片足を乗せてポーズをとった残念な少年は、目の前に広がる海を見つめて口を開く。


「フッ……。風が、俺を読んでるぜ……」

「……残念ですが、どんな天変地異が起こったとしても、風がご主人様を呼ぶなどという、珍妙な事象が発生することはあり得ません」

「…………」


カッコつけている残念な少年の横に立ち、いつも通り無表情で辛辣な言葉をご主人様に投げかける紫色の髪をした見目麗しい鬼メイド。


その言葉の破壊力に、俯きながら沈黙してしまう残念な少年。


「……よし。とにかく、気を取り直して鬼ヶ島まで乗せてってくれる船を探そう!」

「……はい。畏まりました」


アルバの街にある港。多くの船や商人、船乗りたちの行きかう貿易や流通の拠点ともいえる場所にやって来た残念な少年は、鬼族の隠れ住んでいるという小さな島まで連れて行ってくれる船を探していた。


「というか、何で住処の場所を話す気になったの?」

「……別に、他意はありません」


残念な少年はふと疑問の思った事を投げかけるが、鬼のメイドはそっぽを向きながらすげなくあしらっている。


実は、教会にいる時、頑なに口を閉ざしていた鬼メイドが、何故か急に鬼族の隠れ住んでいる場所についてあっさりと話してきたために、残念な少年はその場所に行く手段を求めて港に来ていたのであった。


「……まぁいいや。場所さえわかればこっちのものだし、船ぐらいすぐに見つけてやるぜ!」

「…………」


アニメやマンガなどといった創作物ではフラグでも立ちそうなセリフを平気で吐きながらサムズアップを決める残念な少年。


その瞬間、表情を変えずに沈黙していた鬼メイドは、そこはかとない不安を感じていた。











「――――――わりぃけど、今その海域に入るのだけは勘弁してくれ」


もう何人目なのか、数えるのも馬鹿らしくなっている頃。残念な少年はまたも屈強な船乗りの男からお断りの言葉をもらっていた。


離れていく船乗りの背中を目で追いながら、そのまま首を垂れる残念な少年。


「チクショウ! 何で、誰も船に乗せてくれないんだよ!」

「…………はぁ」


膝を叩きながら悔しそうに歯ぎしりをする残念な少年。その横で、予想通りの結果を前にして、小さなため息を溢す鬼メイド。


「ていうか! みんな島の場所を言った瞬間に反応が変わり過ぎなんだよ!」


思った事をそのまま海に向かって叫ぶ残念な少年。どういうわけか、最初は好意的だった船乗りたちでさえ、残念な少年が行きたい島の場所を説明した瞬間に渋い顔となり、必ず最後には断られていたのだ。


「……このぐらいで、諦めたらどうですか?」

「ん?」


その時、ずっと黙っていた鬼メイドが唐突に口を開いた。


「私の目から見て、知性のない馬鹿の割には、ご主人様も十分に奔走されたものと思われます。なので、この辺りで切り上げてもよいのではないでしょうか?」

「…………」


残念な少年の方を真っ直ぐ見つめながら、一応、労っているようにも感じる毒舌を吐く鬼メイド。


そんな言葉を、メイドの方をじっと見つめ返しながら、黙って聞いていた残念な少年。


「……ご主人さ―――」

「シャラップ!」


瞬間、話し出した鬼メイドの発言を遮るようにして大声を上げる残念な少年。


「どういうつもりかは知らないが、お前を返品するという俺の目的は達成されていないのだ! とにかく、俺が鬼ヶ島に着くまでの間、余計な口を挟むんじゃない!」

「…………はあ」


奴隷本人を目の前にして返品するという宣言を平気でし始める残念な少年。ご主人様の奇行を前に、思わずその表情を崩し、キョトンとした顔になる鬼メイド。


「この港にいる全ての船乗りにあたったわけじゃないんだ。それまでは…………ん?」


その時、視界の端の方で何かを発見したのか、途中で話を止めて、遠くの方を見つめ始める残念な少年。


「どうかされましたか、ご主人様?」

「……いや、なんか見覚えのある人がいた気がして……」


一瞬だけ見えた人相の悪い男の姿を想像しながら、腕を組んでから過去の記憶を思い出そうと試みる残念な少年。


その間、う~んと偶に唸るご主人様を眺めながら、鬼メイドはその美しい見た目通りの優雅な立ち姿を見せながら、その場でじっと待ち続けていた。




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