イライラには、カルシウムよりもビタミンの方が大事
「――――――マジでぶっ殺すぞ、テメェ」
とある教会の一室。吞気にお茶を飲んでいる残念な少年に向かって、ヤクザ風のシスターは蟀谷に青筋を浮かべながら吐き捨てた。
「…………カルシウムが足りてないんじゃないの? 牛乳とか飲んどいたほうがいいよ、不良シスター?」
「……はぁ~……」
まるで気にした様子を見せずに、残念な少年は平気で火に油を注ぐような発言をする。そんな光景を見つめて、教会に住み着くスケルトン(一応人間)は静かにため息をついていた。
「……まてよ。確か、イライラにはビタミンDやセロトニンの方が効果あるって何かで見た気が―――」
「話を勝手に逸らそうとすんじゃねぇ!」
顎に手をやり考え込む残念な少年に、怒りを露わにしたヤクザ風のシスターが詰め寄る。
「大体、いきなり来たかと思えば『ちょっと鬼族の住処の場所知らない?』とかふざけたこと抜かしてんじゃねぇぞ、コラ!」
「ええぇ~……」
憤慨するヤクザ風のシスターを目の前にして、面倒くさそうに声を出す残念な少年。
奴隷の返品方法についてゴブリン爺ちゃんと相談した結果。最良の手段として鬼メイドを鬼族の隠れ住んでいる場所に送り返すことを提案された残念な少年は、その鬼族の住処が何処にあるのか聞き込みを行っていた。
「……あの、質問してもよろしいですか?」
「ん? どうかした、スケルトン?」
「……だから、私はアンデッドでは…………いえ、何でもないです……」
いつものように反論しそうになるのをグッと堪えるスケルトン。ようやく、ただ言っても無駄になるという事と、文句を言えば余計にややこしくなる事を学習したらしい。
「……なぜ、わざわざこの教会に尋ねに来られたのですか? そういった質問なら冒険者ギルドなどの方が熟知している筈ですが?」
「やっぱり、スケルトンだってそう思うよな。俺もそう思って最初はギルドに行こうとしたんだけど、爺ちゃんに止められたんだよ」
「……お爺様に?」
残念な少年の言葉を聞き、不思議そうに目を丸くするスケルトン。
「なんか、別に鬼メイドを連れて行くわけでもないのに、結果的に魔族として街で噂になってた存在をその中心地でもあるギルドに知られる危険は避けるべきだって言って、それ以外から情報収集しろって言われてさ」
「……なるほど、納得しました」
残念な少年の説明を聞き終えて、小さく頷くスケルトン。
「つーか、そういうことを部外者に軽はずみに言ったりするのも問題あんじゃねぇのか?」
「大丈夫じゃない? だってもう、放し飼いみたいな状態なわけだし」
「…………」
ヤクザ風のシスターが横から口を挟んだ後、三人は遠くの方で孤児達と遊んでいる鬼メイドの方を見つめていた。
現在、残念な少年の持っている袋の中に入れられていた鬼メイドは、どういうわけか魔道具店で出されてからずっと外にいた。一応、カジノでもらった角を隠す作用のある魔道具は装備しているようである。