鬼と悪魔の見分け方? パート1
「――――――お初にお目にかかります、クソ爺」
「…………」
魔道具店の一室。庶民的な家庭の部屋という場違いともとれる空間の中で、優雅なカーテシーを決めながら、小柄な老人に向かって挨拶をする額に角のある美しいメイド。
毒舌を気にしたのか、はたまた見た目に気圧されたのか。角を隠すための魔道具をすでに取り外している鬼メイドを前にして、沈黙してしまうゴブリン爺ちゃん。
「できましたら、ご主人様ともども、今すぐに呼吸を止めていただけると幸いです。汚らわしい皆様と同じ空気を吸っていると考えただけで反吐が出ますから」
「…………なんじゃ、このイカれたメイドは?」
率直な意見を吐露するゴブリン爺ちゃん。同じ気持ちなのか、小柄な老人の横で頻りにうなずく残念な少年。
「……で、どうやって返品したらいいと思う?」
「ちょっと待て! これは、それ以前の問題じゃろうが! こんなの、どこで見つけてきた!」
質問を投げかける残念な少年に対して、声を荒げるゴブリン爺ちゃん。どうやら、小柄な老人の中では、かなり予想外の事態が起きていたらしい。
「どこって、カジノで購入したんだけど?」
「そういうことを聞いとるんじゃない! こやつは間違いなく街で騒がれとった魔族じゃ!」
「え?」
「…………」
老人の発言を聞き、キョトンとした顔になる残念な少年。二人に気付かれないよう、少し俯きがちになり沈黙する鬼メイド。
「それ、なんの話?」
「お主、当事者のくせに忘れたのか! そもそもお主がこの街に来たのは、魔族の目撃情報があったからじゃろうが!」
「……あ」
ゴブリン爺ちゃんの言葉に、ようやく思い出したかのように声を漏らす残念な少年。
「……でも、確かその魔族ってどこかの冒険者がもう討伐したんじゃないの?」
「いや、目撃されとったのは、その魔族とは全く別の存在じゃ。その情報を儂は既に得ておったからな」
「ええぇ! マジで!」
ゴブリン爺ちゃんの発言に、驚愕する残念な少年。その魔族を討伐した本人でありながら、もうすでに他人事である。
「儂の得ておった情報では、どこぞの商人が魔族を趣味で奴隷にしたと聞いておったのだが……。まさか、こんな形で見つかるとはな」
「……あぁ~。そういえば、カジノのボスも魔族と関わってたっていう貴族の家から借金のかたに回収したとか言ってたな……」
「……その話が本当なら、おそらくその貴族というのが、この街に魔族の目撃情報をばらまいた主犯じゃろうな」
「うん。何かそれがばれて捕まったとか、カジノのボスが言ってた気がする!」
「…………そのカジノのボスという単語もメッチャ気になるんじゃが、今は置いておこう」
残念な少年の話を聞いて、まるで頭痛でも押さえるように、一瞬だけ蟀谷のあたりに手を添えるゴブリン爺ちゃん。
そして、二人が話している間もずっと黙っていた鬼メイドの方に歩いていくと、ゴブリン爺ちゃんは手の平をメイドの方に向けて何かを唱え始めた。