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便利な道具には、それに似合うだけの悪用方法があるのは常識


「…………何してくれとんじゃ、お主は……」


残念な少年がギルドにおいて、冒険者として引き起こした過去の所業の一つを聞き、何故かテーブルに突っ伏してしまうゴブリン爺ちゃん。


「どうかしたのか?」

「どうかしたかじゃない! お主、自分がどれほど恐ろしい物を作ったのか理解しておるのか!」

「ん?」


顔を上げて憤慨するゴブリン爺ちゃんを前にして、吞気に首を傾げている残念な少年。小柄な老人の慌てようを見ても、大変な状況なのだとあまり理解していない様である。


「お主の作ったその袋は、この世界の情勢を覆してしまう程に恐ろしい代物なのじゃぞ!」

「あぁ~、それ皺くちゃの婆ちゃんにも言われたけど、大袈裟だって……」

「大袈裟なわけあるか! その袋の異常な性能に関しては婆さんからもある程度は聞いておったが、さらに生物まで入れられるとあっては国宝どころか、もう兵器の域じゃ!」

「兵器! たかが袋に何言ってんだよ?」


とある青い猫型ロボットの持っているポケット並みの容量があり、入れた物の品質の劣化を時間停止によって止める効果のある異常な性能の袋に向かって『たかが袋』と宣う残念な少年。


「……仮に、戦争が起きた時に必要になる大量の物資を、その袋を使って運搬される光景を想像してみい。……管理が難しく、普通なら嵩張るはずの大勢の兵士が数ヶ月の間に消費する食料の全てでさえ、やろうと思えばたった一人で簡単に管理できるんじゃぞ? これほど恐ろしい事があるか?」

「え? いや、まあ、うん?」

「しかも、扱いに困る負傷兵や捕虜、歩けなくなった馬なんぞもその袋に入れさえすれば、どうとでもできるわけじゃ。さらに言えば、軍そのものも袋に入れることが出来るともなれば……もはや兵器としか呼べんじゃろ?」

「……えぇ~……」


普段のスケベ爺からは想像もつかない神妙な顔で語り出すゴブリン爺ちゃん。そんな小柄な老人を前にして、明らかな戸惑いを見せる残念な少年。


「……まさか、これほど恐ろしものを作っておったとは、儂も予想外じゃった」

「俺、別に戦争とか面倒くさそうな事件に関わるつもりないんだけど?」

「そういう問題ではない!」


緊張感を滲ませながらも、怒りを露わにするゴブリン爺ちゃん。


「良いか! その袋の存在を誰にも知られてはならんぞ!」

「……いや、爺ちゃんに言われなくても、他人に話すつもりないし……」

「もし誰かに知られれば、戦争を引き起こすかもしれんから、絶対に気を付けるんじゃぞ!」

「……ええぇ~……」


緊迫感を持たせながら言うゴブリン爺ちゃん。老人のあまりの迫力に押されてか、何故かドン引きする残念な少年。


「……ていうかさ。これ、この前ゴブリン爺ちゃんに見せてもらったアルバムに使われてた魔術も使ってあるから、俺にしか使えないようにできてんだけど」

「……お主、どんだけ高性能な物を作っておるんじゃ……」


残寝な少年の言葉を聞き、怒りが一気に治まったのか、呆れたような深いため息をつき始めるゴブリン爺ちゃん。


アルバムとは、小柄な老人が大昔に魔術師団長として働いていた時に作った魔道具で、最初に登録をした者以外には読むことも使用することもできない様に制限を掛けることのできる魔術が施されていた。どうやら、残念な少年はその魔術を模倣して、袋に加えていたらしい。


「…………もう、今更、儂が何を言っても意味がない気がしてきたわい」

「なんかさ。一瞬の間に老け込んでないか、ゴブリン爺ちゃん?」

「……誰のせいだと思っとるんじゃ。……いい加減、年寄りを労われや」


心配そうに見つめる残念な少年を前にして、ただ静かに本音を吐露するゴブリン爺ちゃん。


「それよりもさ、奴隷の返品方法を教えてくれよ?」

「……はぁ、仕方ない。とりあえず、その奴隷というのを出してみい。話はそれからじゃ」


諦めた様にまた深い溜息を吐くゴブリン爺ちゃん。それを聞き、テーブルに置いた袋の中を漁り始める残念な少年。


この瞬間、兵器とさえ呼ばれた袋を無造作に持ち上げる残念な少年を眺めて、ゴブリン爺ちゃんは今までに感じていた将来への不安を明確なものにするのであった。






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