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人生が上手くいかないのは、異世界に行っても同じ


「――――――僭越ながら申し上げます。ご主人様はなぜ生きているのでしょうか?」


カジノの一室。肩のあたりで切りそろえられた美しい紫色の髪をした見目麗しいメイドは、優雅なカーテシーを決めながら、目の前にいたご主人様に向かって辛辣な言葉を口にする。


「―――どうしてこうなった!?」


予想外の状況を目の当たりにして、頭を抱えてしまうご主人様。もとい、残念な少年は赤茶色の髪をオールバックにしたマフィア風の男を見つめると再び口を開いた。


「恨み言とかは言えないようにしたんじゃないの!?」

「……いや、まあ、正直な話、俺にもよくわかんねぇよ」


勢いよく喋る残念な少年に対して、戸惑いを見せながら答えるオールバックの男。遠目には、若干笑いを堪えているようにも見えた。


「おそらく、奴隷契約における穴を利用しているものと思われます」

「穴?」


仮説を話し始めたサングラスのディーラーの声を聞き、キョトンとした顔で首を傾げる残念な少年。


「はい。先程設定された制約の内容の一部を要約しますと、奴隷に多大な精神的負荷をかけないためにある『特定の言葉』のみ発言を禁止するというものです。すなわち、その『特定の言葉』さえ口にしなければ、たとえ暴言と思えるものであっても問題なく発言できるわけです」

「ほぉ~、なるほどな。……………え? ちょっとまって。……ということは、『死ね!』とか直接的な恨み言が無くなるだけで、この幼気な少年の心をえぐるような暴言は一生続くわけ?」

「はい」

「はいっ!?」


慇懃な態度で礼を交えながら説明するサングラスをかけたディーラーの話を聞き、目を見開きながら驚きの声を上げる残念な少年。


そして、残念な少年は足にきたのか、若干ふらつきながら前のめり倒れると、その場で膝をついてしまう。


「…………どうしてこうなった?」

「……ぷっ。だははははっははははは!」


地面に両手をついて四つん這いになる残念な少年。そんな少年を指差して大笑いを始めるオールバックの男。なんともひどい光景である。


「ヒィ~、可笑しい。マジで最高だぜ、兄ちゃん!」

「……笑い事じゃないんだよ。……畜生」


目の端に溜まった涙を拭いながら謎の称賛を残念な少年に送るオールバックの男。それに対して、四つん這いのまま、ただ静かに内心の悔しさを吐露する残念な少年。


「あ! そうだよ、問題があるなら奴隷契約の制約を書き直せばいいんじゃんか!」

「申し訳ありませんが、それは致しかねます」

「なぜ?」


良い思い付きをしたとでも言わんばかりに飛び起きた残念な少年。しかし、そんな少年の思い付きを否定するようにサングラスのディーラーが口を開く。


「奴隷契約とは本来、それを発動させるだけでも奴隷に対して多大な精神的負荷をかけることを前提としている魔術です。そのため、一度かけた制約を修正するというのは難しく、可能だったとしてもそれは制約の内容が簡易的なものであることを前提としています」

「…………」

「複雑な内容の制約を施したうえ、魔術を掛けてから期間を開けずに再度、奴隷契約を行うというのは精神だけでなく肉体にも一生ものの傷を残す可能性があります。なので、申し訳ありませんが、問題があったからといって今すぐに書き換えることは不可能です」

「……そうですか。懇切丁寧な説明、ありがとうございます……」

「……恐れ入ります」


サングラスのディーラの話を聞き終えると、意気消沈したように、その両膝に手を置いて項垂れる残念な少年。感情の浮き沈みが激しい。


「……異世界が、俺に優しくない……」


上手くいかない現状と世界を恨むように、消え入りそうな声で本音を吐露する残念な少年。


「この程度の状況になることはあらかじめ予測できたはずです。それとも、ご主人様の頭はそんなことも理解できない畜生以下の脳みそしか持ち合わせていないのですか?」

「……神様。こんな優しさの欠片もない毒舌メイドを、俺は求めてません」


落ち込むご主人様に対して、さらに追い打ちを掛けるように辛辣な言葉を投げかける鬼メイド。


そんな中で、残念な少年はいるかどうかも分からないどこかの神様を思い浮かべながら、まるで願うかのように思った事をそのまま口にする。


「……ねぇ、ボス―――」

「言っとくが、奴隷契約まで済ませた今になって返品なんてのは、無しだからな」

「チッ!」


残念な少年の言い分を先回りするかのように、すかさず釘をさすオールバックの男。それを聞き、隠すこともせず悔しそうに舌打ちをする残念な少年。


「……はぁ~。マジでどうしよう……」


頭を抱える残念な少年。先程までの喜色を浮かべた顔とは違い、まるで絶望的な状況を目の当たりにしたかのような表情をしている。


そんな自分の主を眺めながら、鬼メイドはニコリともせずただ無表情で、静かに事の成り行きを見守っていた。





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