あえて言おう、理想と結果は違うのが当たり前だと・・・
「あれ? でも、そんなことが出来るんなら、牢屋の中に入れてる間もずっとその制約を施してたら喉を潰さなかったんじゃないの?」
「いやな、そう上手くはいかねぇんだよ」
「え?」
ふと思ったことを口にする残念な少年に、その思い付きを否定するように声を出すオールバックの男。
「はい。実は、この奴隷契約による制約というのは、それを施される奴隷の精神に多大な負荷をかけるようなものでして、禁止する内容が重く複雑であったり、長期的になったりしますと、その奴隷の精神が負荷に耐えられなくなり、壊れてしまう可能性が高いのです」
「え? そうなの?」
「ああ。何事も無理矢理に圧迫されてりゃ反発も大きいからな。そんなわけで、この方法は便利に思えても、危険だからこうした一瞬の時にしか使えねぇんだよ」
「なるほどなぁ~」
二人の丁寧な説明を聞き、またも感心した様に頷き始める残念な少年。
「ということは、解除したらまた喉をつぶしちゃうし、このまま喋らないようにすることもできないわけ?」
「はい。申し訳ありません」
美しい所作で頭を下げるサングラスのディーラー。それをキョトンとした顔で見つめる残念な少年。
「まあ、正直このまま無言でいられるのも俺の精神衛生上よろしくないから困るんだけどさ。ずっと恨み言を囁かれるのも、それはそれで嫌なんだけど?」
「そこは、とりあえず心配ねぇよ。そんな細かい部分を修正するために魔術による奴隷契約をするんだからな」
「ん? どういうこと?」
首を傾げる残念な少年。
「奴隷契約による制約ってのはその奴隷にとって厳しいものになるほど、精神に負荷がかかっちまうんだが。逆に言えば、制約の内容を安易なものにして精神の負担を軽くしたり、ガス抜きできる例外みたいなのを作っちまえばいいんだよ」
「えぇ? そんな細かくできるの?」
「ああ、できる。ただデメリットとして、一応は特殊な魔術だから内容が細かくなる分だけ、施した後になってその制約を修正するのが難しくなっちまうんだ。元々複雑な魔術だし、その修正だけでも奴隷に多大な負荷がかかっちまうから、うちの店では売る時を除いて、仕入れてきた奴隷に細かい制約を掛けることはしてねぇんだよ」
「なるほど、なるほど」
まるでマフィアのボスのような怖い見た目に反するオールバックの男の丁寧な説明を聞き、腕を組んで頷いている残念な少年。
「ということは、これから生活に支障が出ないように細かいルールを考えていくわけだな!」
「……クックッ。……お前、ホント変なところでだけ頭の回転が速いよな?」
笑いを堪えながら、なんとも微妙な賛辞を残念な少年に贈るオールバックの男。
そうして、サングラスのディーラーとオールバックの男に促されながら、残念な少年は生活に支障が出ないように細かい奴隷契約を施すため、最後の準備を行うことになった。
……そして、冒頭部分へと至るのだった。