この作品のヒロインに関しては、主人公への好感度はマイナスから始まるようです
「――――――えっと、もう一度言ってもらえますかね?」
カジノの一室。地下にある牢屋から戻ってきた残念な少年は、赤茶色の髪をオールバックにした男に案内されて、奴隷のいるカジノの一室まで来ていた。
そこで、残念な少年はマヌケな顔を晒しながら目の前にいる者に話しかける。
「――――――畏まりました」
恭しく礼をしながら、残念な少年の前に立っていたそのメイドは静かに口を開いた。
「―――僭越ながら、ご主人様はなぜ生きているのでしょうか?」
表情筋を一切動かすこともなく、そのメイドは残念な少年に向かって言った。
「……聞き間違いじゃなかった! え? どういうこと!?」
混乱する残念な少年。そんな少年を気にも留めず、そのメイドは再び口を開く。
「失礼ですが、今すぐに呼吸をやめていただけませんか? ご主人様と同じ空気を吸っていると考えただけで虫唾が走ります」
「え? なぜに?」
落ち着き払った態度で辛辣極まりない言葉を吐くメイド。さらに混乱して頭を抱える残念な少年。
「ちょっと待って。……どうしてこうなった?」
まさに今の状況を表すかのように言葉にする残念な少年。話は少年がカジノの一室を訪れた頃にまでさかのぼる……
「――――――いよいよか……」
カジノの一室を前にして、その扉を神妙な面持ちで見つめる残念な少年は、腕を組み仁王立ちしたまま、なんとも重々しい空気を出しながら言った。
「―――いや、カッコつけてないで早く入れよ」
少年の横に立ち、すかさずツッコミを入れるオールバックの男。実は、彼らがその場所に辿り着いてから随分な時間が経過している。
何故か扉に立ちふさがるような形でずっと佇む残念な少年のせいで、オールバックの男も部屋の前の通路で立ち往生をする羽目になっていた。
「まあまあ、何事も最初の顔合わせが大事じゃんか」
「いや、お前、顔合わせだったら地下牢で既にしてんだろ?」
「…………」
的確な助言を口にするオールバックの男。思わず沈黙してしまう残念な少年。いつも都合のいいことは忘れているようである。
「……でもさ、あそこは薄暗かったし、目線も合ってなかったような気がするから、実質これからが初対面みたいなものじゃん!」
「……あ~、もう何でもいいから早く入れや」
「あ、はい」
言い訳をする残念な少年に対して、面倒くさそうに返事をするオールバックの男。
怒っているわけではなさそうだが、たまたま眉間に皺をよせ、まるで相手を威嚇しているかのように怖い人相になっていたその男を前にして、残念な少年は相手を刺激しないよう短く答えると、ようやく目の前にある取っ手に手を掛けて扉を開いた。
「…………おぉー!」
部屋に入った残念な少年が目にしたのは、可愛らしいフリルのついたメイド服を優雅に着こなす紫色の髪をした美女の姿であった。




