意外と長い、奴隷の購入 パート3
「――――――おい、ちょっといいか?」
「ん?」
とある地下牢。壁に凭れ掛かろながら奴隷購入の際の注意事項の書かれた資料を読みふけっていた残念な少年は、自分に声をかけてきたオールバックの男の方に視線を向けた。
「最後に細かい手続きだけ済ませるから来てくれ」
「え? もう終わったの?」
「まあな」
目を丸くする残念な少年。先程まで奴隷を購入するために事前に必要となる奴隷契約という魔術を奴隷に施していたのだが、思いのほか早く終わったことに驚いているようだ。
そして、先を歩くオールバックの男に促されるようにして、その後をついていく残念な少年。
「一応そこに書いてある規則は確認できたか?」
「まあ、一通り。……というか、これ読んで思ったんだけどさ。魔術で罰則なんかつけなくても問題ないんじゃないの? この国が出してる規則っていうのだけで注意しなきゃいけない事ほとんど網羅してない?」
読んでいた資料をオールバックの男に渡しながら、疑問を口にする残念な少年。
「確かに、兄ちゃんの言うように、国の規則だけで注意しなきゃいけねぇことは大体網羅してあるから、そこからさらに加えるなんてのは稀ではあるな。ただ、結局は書面だからそれを取り締まる兵が来る前に逃げられたりする可能性もあって元犯罪者たち相手だと心許無いから、すぐに効果の出る魔術による契約みたいな分かりやすい指標は必要になんだよ」
「ふ~ん」
オールバックの男の説明を聞き、なぜか不満そうな声を出す残念な少年。
そうしているうちに、二人は床に妙な丸い模様の描かれた場所にまでやって来た。そこには木でできた簡素なテーブルと椅子があり、残念な少年とオールバックの男はそれぞれの椅子に腰かけた。
「……それが奴隷売買の正式な契約書だ。確認してくれ」
「おぉ、やっとか!」
向かい側に座った残念な少年の方に差し出すような形で、一枚の書類をテーブルに置くオールバックの男。
その書類の横には、既にペンと残念な少年が血を一滴たらしたインクの入った小さな器が用意されていた。
「で、どこにサインすればいいんだ!?」
「……いや、その前にちゃんと読めよ」
契約書を目の前にすると、すぐさまペンを取り書く態勢をとる残念な少年。それにジトッとした視線を送りながら軽くツッコミを入れるオールバックの男。
「えぇ~。どうせさっき読んだ規則と書いてある事おんなじなんじゃないの?」
「……お前、ホント変なところだけ勘が良いよな」
まるで子どものように駄々をこねる残念な少年を前にして、クックッと何故か笑いを堪えるオールバックの男。
「ところでお金ってどうすればいい? 俺、全財産カジノのチップに変えちゃってるんだけど?」
「…………プック! マジかよ、お前……」
残念な少年の唐突な発言に対し、必死で笑いを堪えるオールバックの男。
「……まあいい。必要な分のチップはもらって、後は換金してやるよ」
「ええ! せっかくスケルトンの遺産をすべて手放したのに、そんなのイヤだ!」
「おい、変なところでだけわがまま言うんじゃねぇよ。リアクションに困るだろうが」
わざわざ適正な金額で取引を勧めようとするカジノのオーナーに対し、メチャクチャなことを言い始める残念な少年。
ついにオールバックの男も戸惑いを見せている。
「ていうか、何でそんなに無駄遣いがしたいんだよ?」
「え? 言ってなかったっけ?」
「……ああ。聞いてねぇ」
訝し気な視線を残念な少年に向けながら、オールバックの男は尋ねた。