意外と長い、奴隷の購入 パート1
「――――――で、これからどうするんだ?」
とある地下牢。ある特殊な経歴を持つ奴隷を購入するために、カジノのオーナーに連れられてやって来た残念な少年は、何か忙しくしている二人の男に向かって話しかけた。
「とりあえず、奴隷売買にある決まりとして魔術による奴隷の契約をしなきゃいけないんだが、もう少し待ってくれ」
準備を着々と進めながら、律儀にも残念な少年の問いに答える赤茶色の髪をオールバックにしたマフィアのボスのような男。
「何それ? 奴隷を購入するだけなのに何か魔術が必要なのか?」
キョトンとした顔で尋ねる残念な少年。
「あたり前だろ? 奴隷なんてほとんどが罰を受けて投獄された犯罪者なんだ。口減らしとかで売りに出されてんのも、まあそれなりにいるが、童話なんかにある謂れのない罪で奴隷になったなんて奴はまずいねぇよ。大監獄に入れられるほど重い罪じゃないにしても、過去に罪を犯してる奴らなんだ、手枷以外にもなにかしら枷を作っとかないと危ないだろうが」
「へぇ~、そうなんだ」
『大監獄』という不穏な単語を聞きながらも、それをスルーして頻りに頷いている残念な少年。
「……ところで、よくわかんないけど、その難しそうな魔術を誰がかけるんだ?」
またも疑問に思ったことをそのまま口にする残念な少年。
準備をする手を止めずに少年の方に一瞬だけ視線を向けたオールバックの男は、サングラスの男の方を顎で示した。
「アイツはうちの店でも一番器用でな。こうした専門的な役回りは何でもできるんだよ」
「おお! スゴイなグラサンさんの人!」
ニヒルな笑みを浮かべながら、従業員の事をまるで自分の事のように自慢するオールバックの男。それを聞いて妙なニックネームをつけながらも感嘆の声を上げる残念な少年。
「……恐れ入ります」
そんなテンションを上げている二人に対して、どこまでも冷静な態度で接するサングラスをかけたディーラー。その間にも、準備を淡々と進めている。
そうして、いつの間にか準備が整い、ようやく牢屋の中から奴隷を出すことになった。
その奴隷の手に嵌められた鉄枷に一本の鎖をつけると、鎖を引いて牢屋から出てくるサングラスのディーラー。
「おぉ~……」
サングラスのディーラーに引かれる形で抵抗することもなく大人しく牢屋から出てきたその奴隷の全容を目の当たりにして、残念な少年は驚きの声を上げた。
ランタンで照らしながらもまだ薄暗くて見えにくかった牢屋から出てきたことで、その容姿をはっきりと視認できるようになった魔族と呼ばれていた額に角のある女奴隷。
肩のあたりで切りそろえられた紫色のミディアムボブに、前髪をかき分けるようにして一本の角が額から出ていた。しかし、そんな不自然な点等は全く気にならず、その切れ長の目や整った鼻筋という芸術とさえ呼べる程の顔立ちのせいか、寧ろチャームポイントにさえ思えてくる。
そんな見目麗しい鬼の女性を前にして嬉しそうにしている残念な少年とは対照的に、奴隷の方はただ虚ろな目でジッと地面を見つめて立ち尽くしていた。