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輝夜様はファザコン?


「程々にしときなさいよ」


城の広間。勇者達が召喚された日に食事をした部屋。現在は食事の殆どを城の食堂、王族と同じ席で食事をしていたが、ある者の打診で、勇者への特別措置として自室とは別にこの広間の使用だけ自由に許可されていた。


そんな中、つい先程まで、高身長で色素の薄い美男子に囲まれて食事をしていた北見梨々花に対して、南里輝夜は眉間に皺を寄せて話しかけた。


「あ、輝夜様。ごきげんよう」

「そう言う猿芝居はやめてくれる。気分が悪くなるから」


可愛らしい笑顔を浮かべて答える北見梨々花に辛辣な言葉を浴びせる輝夜様。


「酷いです、輝夜様。私、何かしました?」

「……だからやめてって言ってるでしょ」


吐き捨てるように言う南里輝夜。


「貴方の化けの皮は剥がれてるの、いい加減やめてくれる。百人切りの梨々花さん」


広々とした広間に、何故か冷たい空気が流れる。


「化けの皮はどっちの事ですかね」

「はぁ?」


顔を俯け、今迄の明るい声音が嘘の様に冷え冷えとした声を出す北見梨々花。


「驚きましたよ。輝夜様ってファザコンだったんですね」


北見梨々花の発言に目を見開く輝夜様。


「貴方、なんで?」

「なんで? 輝夜様のご両親が離婚問題で揉めていて、母方の祖父母がいる南里神社で暮らしていることなんて皆知っていますよ」

「そんなわけないでしょ」


苦しそうに胸元を押さえながら絞り出すように答える輝夜様。


「でしょうね。ただ私こういうことが昔から得意なのですよ。それなりに、修羅場ってやつもくぐっていますから」

「誰から聞いたの?」

「別に誰でもないですよ。輝夜様がお父さんのことが大好きで、自分の奥さんほったらかして他の女に手を出すような糞野郎なのに、輝夜様がお母さんに黙って連絡を取り合っていること位すぐにわかりますよ」


顔面蒼白になる南里輝夜。


「貴方に関係ないでしょ」

「はい。でも、輝夜様が私に言っている事も関係ないですよね」


過呼吸になりながらも何とか反論する輝夜様に、淡々とした調子で語る北見梨々花。


「無断で人の周りを嗅ぎ回る事やめてくれません。正直ウザいんで。いい加減にしてくれないとこっちにも考えがありますからね」


満面の笑みを湛えて言う北見梨々花。


暗い空気が室内を支配する中、突然、外から謎の奇声が木霊した。


「――――ぎぃやあああぁぁ、人殺しー‼」


残念な少年の奇声が響き渡り、室内に妙な静寂が訪れる。理由は分からないが、耳に届いた声に押されるように顔を上げる南里輝夜。


「貴方に言われたくないわね。でも、分かったわ。確かに、私には関係ないしね」

「流石、輝夜様。決断が速い」


何とか持ち直した輝夜様は、気持ちを切り替えるように北見梨々花を睨む。


「でも、貴方も気を付けるのね。その言動も、馬鹿な男共を手玉に取る貴方の態度も、碌な結果を呼び込まないから」

「わぁ、凄い捨て台詞。もしかして、実体験ですか?」


広間に響くはっきりとした舌打ちを残して南里輝夜は部屋を出て行った。


「別に、そんなこと。言われなくてもわかっていますよ」


輝夜様が出て行った広間の扉を暫く眺めながら、北見梨々花はぼんやりとした調子で口にした。









「それで、貴方は何をしてるの?」


回廊。中庭を望める通路には大きな窓が備えられ、中世では考えられない様な透き通ったガラスが嵌められている。


通路の曲がり角、死角となる洗練された作りの石柱の陰で、残念な少年は柱を背にして蹲っていた。


「見てわからないのか。逃げてるんだよ」

「何から?」

「人殺しだよ」


額から汗を流し緊迫した空気を纏う青葉春人に対し、南里輝夜は淡々と言う。


「馬鹿じゃないの」

「誰が馬鹿だ!」


嘆息する輝夜様。


「どうせ、また騎士団長から逃げているのでしょ?」

「あいつは人殺しだ。笑いながら俺を殺そうとしてるんだぞ!」

「ただ訓練がきついだけでしょ」

「途中から抜けたくせに偉そうなこと言うな!」


切羽詰まっているように言う残念な少年を見て、輝夜様は言う。


「ほんと貴方の人生は平和そうで羨ましいわ」

「ふざけるな! 俺は現在進行形で修羅場の中にいる‼」

「あっそ」


苦笑いを浮かべる輝夜様。


「そもそも間違っているわよ」

「何が?」

「害虫を殺しても人殺しにはならないでしょ」

「誰が害虫だ! 害虫さんに謝れ‼」

「意外と自己評価低いわね」


残念な少年のいつもと変わらない態度を前に、思わず口角を上げる輝夜様。


「取り敢えず、お礼だけは言っておくは、ありがとう」

「……え。何か変な物でも拾い食いした?」


普段の態度からは想像できない、意外過ぎる彼女の言葉に目を丸くする青葉春人。輝夜様の額に青筋が浮かぶ。


「騎士団長! お探しの馬鹿はここです‼」

「ちょ、馬鹿、やめろ」


突然叫び出す南里輝夜を、必死で止める青葉春人。


「それじゃ、私はもう行くから。せいぜい頑張りなさい」

「結局、何しに来たんだよ。見つかったらどうしてくれるんだ」

「問題ないでしょ。とっくに見つかっているのだから」

「…………え?」


残念な少年の肩に鎧を着た男の手が乗る。


「訓練、頑張りなさい」


振り返らず、その場を後にする輝夜様。

回廊には、残念な少年の悲鳴が木霊した。



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