今頃になって、ようやく新たな美女と遭遇する主人公?
「――――――」
「……ん?」
瞬間、どこからか空気の抜けるような音が聞こえてくる。
それに気付いた残念な少年は、音のした方向に視線を向けた。その視線の先には、無骨な鉄格子があった。
「どうかしたか?」
「いや、なんかあっちの方から聞こえた気がして……」
残念な少年の態度を不思議に思ったのか、少年にどうしたのかと尋ねてくるオールバックの男。
それに答えるように、鉄格子のある牢屋を指差す残念な少年。
「……あぁ。もしかするとそれ、例の奴隷かもな。ちょうどあの中にいるんだよ」
「……え? あの牢屋の中に?」
オールバックの男の言葉を聞き、目を丸くする残念な少年。
「貴様! 美女をこんな地下深くに閉じ込めるだけでなく、牢屋にまで入れたのか! 何様のつもりだ!」
「……おい、何キレてんだよ。理由ならさっき説明したじゃねぇか。むしろ、表に出して街の人間にでも見つかってたら、地下に押し込められるよりもっとひどい目に遭ってたぞ」
「…………確かに」
急にオールバックの男の胸倉を掴み憤慨する残念な少年。
少年の突飛な行動に戸惑いながらも、冷静に諭そうとするオールバックの男。彼の説明に納得したのか、残念な少年はすぐにその手を放した。
「ごめんごめん! 何か、最近よくわからないうちに牢屋に入れられることが多かったからさ。ちょっと感情移入しちゃって!」
「……よくわかんねぇけど。……ホント、メチャクチャだなお前」
悪びれもせずに謝罪をする残念な少年。どこまでも慇懃無礼な態度を前に、怒るでもなく襟元を正しながら、ただジトッとした視線を少年の方に向けるオールバックの男。
「つーか、牢屋に入れられる体験ってなんだよ?」
「さーて、そろそろ行こうか!」
「…………話を逸らすにしても無理があるし、地下で響くんだから声のボリューム落とせよ。さっきからうるせぇ」
諦めたようにため息をついているオールバックの男は、楽しそうに先を歩く残念な少年の後を追った。
そんな薄暗い地下空間で騒がしくしながら、三人は牢屋も前にまで来た。
「……なんか、ここだけ異様に暗くないか?」
牢屋の中の方を眺めながら、残念な少年は言った。
「申し訳ありません。この牢は本来ある特殊な奴隷のみを収容するためのもので、どうしても牢の中に光源になるような物品などを持ち込めないのです」
「どういう事?」
「ようするに。中に入れた奴が自殺したり、暴れ出した時に武器にしたりしねぇ為に、周囲に物を置かない様にしてんだよ」
「……え? この中にいる奴隷ってそんなにヤバいの?」
オールバックの男の言葉を聞き、目を見開く残念な少年。
「あくまで外に出せない様なそういうヤバいのを収容している施設ってだけだよ。今入れてる奴隷がそうってわけじゃねぇ」
「……それを何で視線を逸らしながら言うんだよ?」
「…………」
オールバックの男のどこか不審な態度を指摘する残念な少年。
「……とりあえず。奴隷の顔でも確認してくれ」
「……まあ、いいか」
一瞬、ジトッとした視線をオールバックの男に向けながら、残念な少年は鉄格子の前まで近づくと、その中を覗き見た。
パッと見誰も入っていないように感じた牢屋の中を隈なく見ていると、残念な少年はその牢屋の中で最も暗くなっている牢屋の隅のあたりで人の足を見つける。
鉄の枷で拘束された女性のものと思われるその細い足を見つめる残念な少年は、顔を確認しようと少しだけ視線を上にやるも、牢屋の中に作り出されている暗闇のせいで見えなかった。
「―――どうぞ」
「……おぉ。ありがとう」
『暗くてよく見えないな』という残念な少年の内心を察してか、いつの間にか少年の横にいたサングラスのディーラーは、その手に持っていたランタンを鉄格子の方に近づけて牢屋の中を照らそうとした。
そうして照らし出された牢屋の中に視線を戻した残念な少年は、鉄格子を挟んだ向こう側にボロイ衣装をまとい手足を拘束された、角のある美女を目にとめる。
体育座りをしながら、虚ろな目でずっと地面を見つめているその角のある美女を眺めながら、残念な少年は叫んだ。
「…………リアル鬼娘キタァーーーーー‼」
その時、薄暗い地下の牢の前では妙な奇声を上げる一人の少年と、それに白い目を向ける者だけが存在していた。