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説明書なしでも、大概の人はゲームを進行できる


「決まったか?」

「……う~ん。それじゃ、ブラックジャックで」


オールバックの男の問いに答えると、残念な少年はタキシードの男にメニューを返す。


「よし。じゃあついてこい」


そう言って席を立ったオールバックの男は、ある方向を顎で指し示すとそちらに向かって歩き始めた。


オールバックの男に黙って付いて行く残念な少年は、ルーレットだけでなく一目では理解できない程ごちゃごちゃとついている緑色のテーブルの前まで来ていた。


「……何じゃこれ……」


異様ともいえるカジノテーブルを目の前にして、思わず本音を吐露する残念な少年。


「見てわかんねぇか? カジノテーブルだよ」

「……なんで、ルーレットとブラックジャックの表示が一緒になってるんだ?」

「その方が分かりやすいだろ?」

「…………」


オールバックの男の物言いに、沈黙してしまう残念な少年。少年の方が押し黙ってしまうというのは、滅多に見られない光景であった。


「そんなことより、そろそろ始めてもいいか?」


いつの間にか手にしていたトランプをシャッフルしているオールバックの男。


「一応、俺がディーラー役をして進行する。ルールの説明はいるか?」

「結構です」

「……そうか」


ルール説明をしようかと尋ねるオールバックの男に対して、片手を上げて断りを入れる残念な少年。


ブラックジャックとは、山札からカードをめくり、出てきた数字の合計を21に近づけた方が勝ちというゲームである。


ただ、それはあくまで地球でのルール。名称が同じとはいえ、元いた世界でもそうだという保証はどこにもない。にも関わらず、残念な少年は最初に読んだメニューの簡単に書かれたルールだけを信じて、答えを出していた。


そうこうしているうちにゲームは進行しており、少年の前には裏向きのカードが二枚、オールバックの男の前には裏向きのカードが一枚とスペードの6のカードがあった。


「で、どうする?」

「…………」


先を促してくるオールバックの男。それに対して、残念な少年は無言でチップの入ったケースを、テーブルに描かれた賭けるチップを置くための枠の中にそのまま置いた。


「……は?」

「セットで」


ブラックジャックでは、これ以上カードを引くかどうかを決める時、ハンドシグナルと共に知らせるルールがある。手のひらを下にして軽く振ることで、カードを引かないということを相手に示す残念な少年。


「ちょっと待て、まだカードを確認してねぇだろ!」

「結構です」

「結構です、じゃねぇんだよ!?」


声を荒げるオールバックの男。


「てか、なにケースごと置いてんだよ! ……まさか、いきなり全額ベットする気じゃねぇよな?」

「はい」

「はいっ!?」


残念な少年の奇行を前にして、動揺を見せ始めるオールバックの男。周囲にいたタキシードの男達までどよめいている。


「……お前、ブラックジャックのルールは分かってんのか?」

「え? カードの合計を21に近づければ勝ちになるゲームだろ?」

「……まあ、分かってんならいいが……」


キョトンとした顔をしている残念な少年に、まるで変人を見るような視線を向けるオールバックの男。


「とりあえず、カードを先に確認しろ。話はそれからだ」

「はぁ~、はいはい」


オールバックの男の言葉を聞き、何故かため息をつきながら面倒くさそうに手元にあった裏向きのカードに手を伸ばす残念な少年。


ひっくり返すと、カードにはハートのエースと、クローバーのキングが描かれていた。


「…………マジか」

「「「「…………」」」」


ブラックジャックでは、キング、クイーン、ジャックの三枚は10を表しており、エースは1か11のどちらかを選べるようになっている。


つまり、残念な少年はこのトランプゲームで『ブラックジャック』とも呼ばれる21という最強の役を作ったわけだ。


始まって早々のあり得ない状況を目の当たりにし、目を見開いたまま硬直してしまうオールバックの男。


そして、静まり返ってしまう周囲。


「………………クソーッ‼」


そんな中、テーブルに拳を打ち付けながら悔しがる残念な少年。


その瞬間、余りにも訳の分からない状況を前に、その場にいた少年以外の者たちは一斉にマヌケな顔になる。そして、奇異の目が残念な少年に一気に降り注いだ。


彼らの目は言葉を発せずとも、雄弁に語っていた。すなわち、

『何言ってんだコイツ‼』


と皆が思っていたことを……。




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