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筋肉を売りにするキャラは脳みそも筋肉で出来ている


「……ちっ」


城の中庭。手入れの行き届いた中庭には、季節の概念がないのか、元いた世界では見たことのない色とりどりの花が咲き誇り、草や芝の緑で覆われた空間を綺麗に彩っている。


読んで字のごとく華やかと呼べる空間で、一人仏頂面を浮かべる少年、西場拳翔。


午前の訓練が終わり、言い争いをした後、彼は昼食を取らずにずっと木造のベンチに腰かけていた。


「俺はこんなことをしてる暇はないんだ」


一人頭を抱えて、鬱憤を吐き出すように声を出す西場拳翔。


「あ、マッチョ君」


馬鹿みたいに明るい声音で、頭の可笑しい少年、青葉春人がやって来た。


「何だ、お前か」

「何だとはなんだ。せっかく可哀想なボッチ君に気を使って話しかけてるのに、その態度は良くないんじゃないかい」


何時もの様にふざけた態度をとる青葉春人。


「誰がボッチだ」

「あっれー、気付かなかったのかなー。……それは、お前だー‼」


気遣い零の悪口を平気で言う残念な少年。


「うぜぇ。悪かったな、ボッチで」

「そうそう。わかればいいのだよ、わかれば」


青葉春人の態度に心底イライラするマッチョ君を尻目に、隣に座ってくる残念な少年。


「寄るな、気色悪い」

「酷! まるで人のことをゴキブリみたいに、失礼だよ…………ゴキブリに」

「お前じゃないのかよ‼」


思わずツッコミを入れるマッチョ君。


「本当に何なんだよ、お前。頼むからちょっとほっといてくれよ」

「え~。そんな邪険にしないでよ。俺とマッチョ君の仲じゃない」

「俺とお前が何時そんな仲になった」

「……え。こんな所で言っちゃってもいいの?」

「キモイし、話を捏造すんじゃねぇ‼」


華やかな空間の中で、西場拳翔の怒号が響き渡る。


「しぃー! 近所迷惑になるよ、マッチョ君」

「誰のせいだと思ってるんだ、てめぇ」


額に青筋を浮かべて睨むマッチョ君。


「それで、何を悩んでんの?」

「何が?」

「だって、ずっとここ座って難しい顔してたじゃない」


あっけらかんと悪びれる様子もなく尋ねる青葉春人。


「お前には関係ない」

「うん、わかってる。で、何を悩んでるの?」

「人の話聞けよ!」


へらへらと笑う残念な少年に目を向け、深い溜息を漏らすマッチョ君。


「わかったよ。話せばいいんだろ話せば」

「うんうん。人生諦めが大事よ」

「お前は少し黙ってろ」


獣のように鋭い眼光で黙らせる西場拳翔。


「俺は今すぐ元の世界に帰らなきゃいけないんだ」

「なんで?」

「待たせてる奴がいるからだよ」


生い茂る草花に目を向けながら、西場拳翔は淡々と語る。

俯く彼の肩にそっと手を置く残念な少年。


「俺も求婚したまま待たせてる人がいるから。気持ちはわかるよ」

「お前と一緒にすんじゃねぇ‼」


突然肩を掴んできた残念な少年に憤慨するマッチョ君。


「えぇー、付き合ってる彼女の事じゃないの?」

「…………いや、それもちょっとあるけど」

「ほらぁ!」

「うるせぇ! お袋だよ、お袋!」


誤魔化す様に声を荒げるマッチョ君。


「え、何、マッチョ君って、マザコン?」

「ちげーよ! いちいち話の腰を折んじゃねぇ!」


残念な少年の言葉に対して、再び怒号を発する西場拳翔。


肩で息をする彼の姿は、残念な少年とは対照的に、最初の頃より若干やつれている。


「本当、いい加減にしろよ、お前」

「ドンマイ」

「ああぁ、もう!…………病気なんだよ」


諦めたように肩を落とす西場拳翔は、絞り出すような声で言った。


「病気?」

「ああ。昔から体が弱くて、入退院を繰り返してるんだよ」

「病名は?」

「言ってもわかんねぇだろ」


苦笑いを浮かべて嘆息するマッチョ君。


「変に心配かけると、また体壊すかもしれないだろ」

「お父さんは?」

「俺が生まれる前に亡くなってる」

「……そっか」


表情に影を落とす西場拳翔。


「家は二人だけの母子家庭だし、頼れる親戚もいないから、もしお袋に何かあったらやばいんだ。ただでさえ、俺がいなくなったせいで心配かけて、体調が悪くなってるかもしれないだろ。だから、俺はすぐにでも元の世界に帰らなきゃいけないんだ」


淡々と語りながら、両手を組む西場拳翔。指の先が赤くなる程強く握られた手から、現状を何とかしたいのに、何もできない歯痒さから思い悩んでいる様子が見て取れる。


「……もう、帰っていい」

「今言うことかそれ! ていうか飽きてんじゃねぇよ‼」


残念な少年の物言いに逆上するマッチョ君。


「無理矢理話させといて、励ましの一つも無しかよ」

「元気出せ」

「投げやりに言うんじゃねぇ‼」


激しい怒号を放つと、今までの疲れを現すようにベンチに凭れるマッチョ君。


「今日一生分叫んだぞ。疲れた」

「お疲れさま」

「お前に言われたくない」


今迄の凝り固まった態度が嘘の様に、肩の力を抜いてだらける西場拳翔。


「何か悩んでんのが馬鹿馬鹿しくなってきたな。考えてみりゃ、悩んでたって帰れる方法が見つかるわけじゃねぇしな」

「そうそう」

「お前本当にちょっと黙れ。……でも、やっぱり交流会とかは納得いかねぇ」


ベンチから立ち上がる西場拳翔。


「俺達は魔王を倒すために呼ばれたのに、何で貴族のご機嫌取りみたいなことしなきゃいけねぇんだよ。一刻も早く魔王の所に乗り込むのが先だろ」

「そもそも魔王の所に行けば帰る方法がわかるのかな?」

「……はぁ?」


少年の物言いに思わず首を傾げる西場拳翔。


「魔王の所にあるかもしれないとは言ってたけど、確定はしてないし、それに、帰る方法がこの国にないだけで、他の国にあるかもしれない」

「……」

「貴族の交流会って、予定では何回かあったと思うけど、全部がこの国の貴族だけで行うのかな? 他の所から来る人とか、遠くに知り合いがいる人とかも参加してると思うけど。そういう人達から情報を引き出した方が魔王を討伐するより、よっぽど帰れる可能性が上がると思うけど」

「……お前、頭良いな」

「マッチョ君以外皆気付いてると思うよ」


目を丸くする西場拳翔を前に、事も無げに言う青葉春人。


「じゃあね。脳筋君」


ベンチから立ち上がり、ゆっくりとした足取りで中庭を後にする青葉春人。


「……綽名変えてんじゃねぇ‼」


ワンテンポ遅れたマッチョ君の怒号が中庭に悲しく響いた。


 

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