幕間 カジノの裏側
「――――――何者なんだ、あの小僧は?」
カジノ。二階のとある部屋の小窓から、一階にあるルーレットなどの緑色のテーブルやスロットの並ぶ遊技場を見下ろすその男は、今も勝ち続けている残念な少年を眺めながら声を漏らす。
「……見た所、イカサマをしている形跡はないが……」
赤茶色の髪をオールバックにした少し老け顔の男は、顎に手をやって考えこみ始める。
「――――――嘘だろ、また勝ちやがった」
ジッと階下でルーレットを続けている残念な少年を見つめて、オールバックの男が吐露する。思わず少し後ずさってしまう男。
どうやらまた勝ったようで、ディーラーからチップを受け取っている残念な少年。しかし、何故か毎回、物凄く嫌そうな顔をしていた。
「……おい、あの小僧の身元は分かったのか?」
その時、後ろの方に向かって話しかけるオールバックの男。
それに反応して、部屋の隅にいたタキシードの男が若干肩を震わせた。
「はい。どうやら、昔、王国の人間に発行していた紹介状を持っていたそうです」
「……まさか、あのなりでペンドラゴン王国の関係者とはな……」
ディーラーと思われるタキシードの男の説明を聞き、再び視線を残念な少年の方に戻すオールバックの男。
残念な少年は、いつもと変わらず貧民にしか見えない様なボロイ服を着こなしていた。正直、カジノで着ていく格好ではなく、周囲と比べても明らかに浮いている。
「それで、直に見ているディーラーの意見は聞けたか?」
「はい。ボスの仰っていたように、イカサマをしている様子はないそうで……。正直、現場の奴らは戸惑っています」
ボスと呼ばれたオールバックの男の質問に、言葉を濁しながら答えるタキシードの男。
「……小僧の持ってる額はどれぐらいになってる?」
「……チップを計測していたやつの報告では、既に、去年トップで稼いだ客の三倍は稼いでいるそうです」
「…………そうか」
冷や汗を流して居るタキシードの男の答えを聞き、短い返答と共にまた考えこみ始めるボスと呼ばれた男。
「……とりあえず様子を見て、あと数回勝ち続けたら、小僧にVIPカードを渡してやれ」
「っ! 初見の人間に渡してもいいのですか!?」
「……ああ」
『VIPカード』という単語を聞き驚きの声を上げるタキシードの男。それに対して、冷静に答えるオールバックの男は、また小窓から階下を眺める。
「ペンドラゴン王国の関係者なら下手なマネはできない。小僧がいくら稼ごうがウチに損はねぇんだから、少しでもいい思いをさせておくのが得策だろう」
「……はい。わかりました」
返事をしたタキシードの男は、お辞儀をした後、素早く部屋を出て行った。
それを、視線を動かすだけで確認したオールバックの男は、静かに遊技場を見つめる。
「――――――魔族の次は、これかよ……」
静まり返るカジノの特別室の中で、一人になったボスと呼ばれる男は、ため息をつきながらボヤいていた。