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高校生にギャンブルを教えてはいけない(色んな意味で)


グルグルと回るルーレット。赤と黒で彩られた数字と溝のあるその盤の前に立ち、ジーッとルーレットの上を転がる小さな球を黙って見つめる残念な少年、青葉春人。


カラカラという音と共に赤と黒のルーレット上を転がり始めた球を、楽しそうに、或いは緊迫した表情で眺めるキラキラと表現したくなるような高そうな服を着こんだ人達と一緒になって、残念な少年は玉が溝に落ちるのをじっと待っていた。


静かにルーレット上を回りながら、溝の一つにあたりカンッという音を出して不規則に動くと、一気に勢いを落とした小さい球は、赤と黒の数字の描かれた溝の一つに落ちた。


見ていた者の何人かは唾を飲み込む。そして、袖のないベストを着こなすスーツ姿の男が静かに動き始め、目の前にあるルーレットと同じ赤と黒の数字が緑色の面に順に描かれた枠の一つに透明な筒、『マーカー』を置いた。


その白い枠の中には、赤い字で3と描かれている。


「…………クソッ!」


緑色のテーブルに向かって悔しそうに拳を振り下ろす残念な少年。ドンッという音を鳴らして、ディーラーの一人に睨まれるが、本人は全く気にしていなかった。


逆に、マーカーを置いたスーツ姿の男は、緑色のテーブルに乗っていたチップを回収しながら、何故か不思議そうな顔をして少年を見つめている。


チップの回収が終わると、何人かにチップを配り始めるディーラー。そして、残念な少年の前にも、一人のディーラーが数枚のチップを持ってくる。


それを、歯を食いしばりながら受け取る残念な少年。彼の手元には異常ともいえる数のチップが揃っていた。


カジノ。普通の生活をしている人間がまず関わることのない、金持ちの遊び場ともいえる場所で、残念な少年は何故か大勝ちをしながら不満そうに舌打ちをしていた。







残念な少年がなぜこんなところにいるのか。その理由は、カジノに来る少し前の時間にまでさかのぼる……







「は? 金をドブに捨てる方法?」


魔道具店の一室。椅子に座っていた小柄な体躯の老人は、残念な少年の問いに対してキョトンとした顔で声を上げる。


「そう。何かいい方法知らない?」

「また唐突におかしなことを言い始めおって。今度は、どうしたんじゃ?」


変な質問をしてきた残念な少年に、訝し気な目を向ける老人。


「いや~、実は使い道のない臨時収入があってさ」

「ほう」


顎に手を当てて声を出す老人。


「どうしようかなぁ~と思ってさ」

「それじゃったら、儂にくれ」

「……え?」


両手を前に出しながら言う老人を見つめて、戸惑うように疑問の声を上げる残念な少年。


「いらないんじゃったら儂にくれてもええじゃろ? こうして寝食の世話をしてやってるんじゃから、その礼くらいあってもええと思わんか?」

「えぇ~。何かスケルトンの遺産をゴブリンにあげるのって嫌だな~」

「誰がゴブリンじゃ!」


嫌そうな顔をする残念な少年に、いつものように的確なツッコミを入れるゴブリン爺ちゃん。


ゴブリン爺ちゃんは、王国から召喚された後、本人は完全に忘れているが魔王討伐のために旅に出た残念な少年の面倒を見てくれている者の一人である。


見た目は魔物であるゴブリンのようで小さな体躯をしているが、正真正銘の人間である。


「というか、スケルトンの遺産ってなんじゃ! お主、今度は何をやらかした!?」

「別に、何もしてないけど?」

「何もしてない奴の口から、スケルトンの遺産などという珍妙な単語が出てくるわけ無いじゃろうが!?」


興奮したように大声を上げるゴブリン爺ちゃん。確かに、清廉潔白な人間の口から出てくる単語ではない。


そんなゴブリン爺ちゃんを前にして、変わらず能天気でいる残念な少年。


「ただ、教会に住み着いてるスケルトンの墓の中にあった迷宮で、迷子になった孤児達を探してた時に見つけただけなんだけど?」

「ほれ! また不吉な単語が出て来とるじゃろうが‼」

「えぇ、不吉ってどこが? 別にアンデッドの大群も、魔族を自称するスケルトンの仲間の事も言ってないのに?」

「お主、ホント何して来たんじゃ!?」


頭を抱えてしまうゴブリン爺ちゃん。それを他人事のように眺めている残念な少年。


「それでさ、なんか呪われてそうだし、かといって捨てても呪いが飛んできそうだからすぐ使いたいんだけど、何かいい方法ない?」

「本当に、お主は目を離すと問題しか起こさんな……」


平然としている残念な少年を前にして、諦めた様にため息をつくゴブリン爺ちゃん。


そして、少し考えたゴブリン爺ちゃんは席から降りると戸棚の一つに近づき、そこから一枚の紙きれを取り出した。



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