暗い過去のはずなのに、話しててフツーに流されることって意外とある
「……まあいい。それで、勢いで家出しちまって行く当てのなかった俺を拾ってこの教会に住まわせてくれたのが、伯父でもあったスケルト牧師だったんだよ」
「あぁ~、まだ耳がキンキンする……」
怒ったことで少し落ち着いたのか、上を向きながら語り出すヤクザ風のシスター。彼女の話を聞きながら、まだ耳を手で触り問題はないか確認をする残念な少年。
「えっと、その家出の原因って何?」
ようやく落ち着いた残念な少年は、ヤクザ風のシスターに尋ねた。その質問にまた嫌そうな顔をするヤクザ風のシスター。
「別に何だっていいだろうが」
「えぇえぇ~……」
「チッ! いちいち腹立つな。……ただ、親と喧嘩しただけだよ」
悪態をつきながらも、ぶっきらぼうに答えるヤクザ風のシスター。
「ほうほう。……で、その喧嘩の原因は?」
「何でそこまでテメェに話さなきゃいけねぇーんだよ!?」
「ええぇ~……」
何度か頷いた後に再び質問を投げかける残念な少年。それにすぐさま怒りをぶつけるヤクザ風のシスター。
「大体、親と喧嘩すんのなんて当たり前の事なんだから、お前だってその内容くらい想像できるだろ?」
「いや~、そう言われてもな。俺、親いないからわかんないんだけど?」
「…………え」
あっけらかんとした態度で言った残念な少年の意外な発言に、思わず真顔になるヤクザ風のシスター。
「……お前、親がいないのか?」
「う~ん。いないというか、多分世界のどっかにはいるんだろうけど、あった事がないんだよな。俺が物心ついた時には教会に住んでたシスターに育てられてたからな」
「…………そうか」
それなりに重い過去のはずなのに、どこまでも能天気に話している残念な少年とは違い、ばつが悪そうにしているヤクザ風のシスター。
「その、悪かったな……」
「ん? 何が?」
「いや、何がって…………まあ、気にしてねぇーならいい」
ヤクザ風のシスターの謝罪に対して、キョトンとした顔で首を傾げる残念な少年。それを見て、何故か視線をそらしてしまうヤクザ風のシスター。
「……はぁ~。考えてみりゃ、この教会にいる子供達にも親がいないんだよな。俺の方がよっぽどバカだな……」
「不良シスター?」
肩の力を抜いて、深いため息を吐くヤクザ風のシスター。それを不思議そうに見つめる残念な少年。
「まあ、とにかくだ。ちょっと気に入らない事があって親と喧嘩しちまったんだよ。そんで、行く当てもないからこの教会で世話になっているわけだ」
「ふ~ん」
少し早口になりながら言い切るヤクザ風のシスター。それを何事もなく聞いている残念な少年。
「で、俺からも一つ聞いていいか?」
「ん?」
ヤクザ風のシスターの方を見ながら、首を傾げる残念な少年。
「お前さ、何で報酬もないのにこの教会の子供達と毎回遊んでんだ?」
質問を投げかけるヤクザ風のシスター。彼女の疑問はもっともで、お金にもならない筈なのに残念な少年は、ヤクザ風のシスターがいない間もずっと教会を訪れていた。
そのことをスケルトンや子供達から聞いていたヤクザ風のシスターは、残念な少年に尋ねることにしたようである。
そんなヤクザ風のシスターの問いに対して、何故か不敵な笑みを浮かべる残念な少年。
「……ふ。遊んでやっているのではない。遊んでもらっているのだ」
「…………はぁ?」
訳の分からないことを言い始める残念な少年。またも困惑するヤクザ風のシスター。
「だって、この街にいる間、俺の周りにいるのはお子ちゃま達を除けば、ハゲにスケルトンといった汚いオッサンと、ゴブリン爺ちゃんに白髪オーガ、皺くちゃ魔女みたいな年寄りか、二重人格の不良シスターっていう性格に問題のあるやつしかいないじゃん!」
「…………」
メチャクチャなことを言い切る残念な少年。それに対して、肩をプルプルと震わせながら沈黙するヤクザ風のシスター。
この時、シスターの額には既に青筋が浮かんでいた。
「あとはギルド職員のお姉さんとかもいるけど、普段から忙しそうだから仕事以外では話す機会もないし、俺がこの街にいる時に安らげる相手なんてこの教会のお子ちゃま達しかいないんだよ」
ここまでの残念な少年の言い分を省略すると、他に選択肢がなかったからという事だ。なんともふざけた理由である。
「……はぁ~」
また深いため息を溢し、席から立ち上がりながら指をポキポキと鳴らすヤクザ風のシスター。その時、彼女の眼光はまるで殺人鬼のように鋭くなっていた。
「不良シスター?」
「……死ね」
急に席を立ったヤクザ風のシスターを不審に思い、声をかける残念な少年。
そんな彼に向かって、とても短く小さな声で恐ろしい事を言うヤクザ風のシスター。その後、神聖なはずの礼拝堂の中では、少年の悲鳴と乾いた炸裂音が何度も木霊したそうだ。