今更だけど、残念な少年に勇者の自覚はないそうです(笑)
「――――――異世界召喚か……」
礼拝堂。街の近くにある小さな森を抜けた先にある今にも崩れそうなボロイ教会の中にある礼拝堂で、残念な少年の話を聞き終えたヤクザ風のシスターはボヤいた。
「……正直、テメェが言ってると全部嘘にしか聞こえねぇーんだが……」
「酷い!」
ヤクザ風のシスターの言葉に、わざとらしいリアクションをとる残念な少年。
教会の中に連れてこられた残念な少年は、ヤクザ風のシスターに自分がこの世界に来た経緯について話していた。
「それと同時に納得する部分もある。……こんな奴が、この世界で今まで何も問題を起こさずに生きてこられたって事実がいまいち納得できねぇーからな」
「酷っ!」
ため息をつきながら言うヤクザ風のシスター。それにまたも反応する残念な少年。
「……ていうか、こんな情報を赤の他人に話しても問題なかったのか?」
ふと疑問に思ったことを口にするヤクザ風のシスター。
彼女の思ったのは当然の事であり、部外者に話していいわけがない。本来なら王国の中で秘匿しておかなければいけない様な機密情報である。
「別にいいんじゃない? 城を出る時にそんな説明されてなかったし」
「……そうか?」
事も無げに言う残念な少年。もちろん、良いわけがない。そもそも、彼はそういった詳しい説明を騎士団長から受ける前に、勝手に城から出ているのだ。
にも関わらず、まるで説明をしなかった相手が悪いような言い方をする残念な少年。たぶんこの場にいたなら、騎士団長は泣いていた事だろう。
「まあ、それでお前が銃を知っていた理由は納得するとして、これからどうするんだ?」
「どうするって、なにが?」
質問を投げかけるヤクザ風のシスターに対して、何故か疑問で返す残念な少年。
「なにが、じゃねぇーんだよ! 元の世界に戻るための方法を探すとか、やらなきゃいけねぇーことが山ほどあるだろうが!」
「あぁ、なるほど……」
声を荒げるヤクザ風のシスターを前にして、腕を組んで頷いている残念な少年。
「……お前なぁ。そんなんで、王国がお前らをこの世界に召喚した目的ってのを達成できんのかよ?」
どこまでも自由に振舞う残念な少年を見ながら、ため息をついたヤクザ風のシスターはボヤいた。
実は、残念な少年は自分達が勇者であり、魔王を討伐する為にこの世界に召喚されたということを話してはいなかった。話さなかったのは何も、王国の機密情報を外部に漏らさない為でも、魔王や魔族という敵に知られない為というわけでもない。
もっとしょうもない理由で、自分達が王国に召喚された目的をすっかり忘れていた為である。
「さあ? わかんないけど、この街に俺を送ること自体その目的の一環みたいだったから、街に着いた後は俺の好きにすればいいんじゃないかな?」
「…………わかんねぇーけど。それ、絶対に間違ってると思うぞ」
肩をすくめる残念な少年に、ジトっとした視線を送るヤクザ風のシスター。
「それで、元の世界に戻るための方法とか探さなくていいのか?」
「別に、この世界に定住することになっても俺としては問題ないし、元の世界に帰る方法とか今のところどうでもいい」
「……えぇ~……」
残念な少年の言い分に、困惑した表情を見せるヤクザ風のシスター。
「じゃあ、マジでこれからどうする気だよ?」
「……う~ん。……とりあえず、このスケルトンの遺産をどうするか考えよう」
腕を組んでから短い時間考え込んだ残念な少年は、別の問題に取り組むことを決めたようである。