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金髪リア充と情緒不安定な人形姫

「東様」


城の食堂。普段は王族のみが使用している部屋。使用する人間が限定しているためか、召喚された日に勇者達が食事をした広間より狭いが、移動しやすいよう動線を考えられた理想的な広さで、広間に比べ内装も遥かに豪華なものだった。


午前中の礼儀作法の訓練が終わり、東正義は、食堂で昼食をとっていた。


「姫様。ご機嫌麗しゅう」

「ふふ、慣れない挨拶はなさらなくて結構ですよ」


慌てて立ち上がる金髪リア充の不慣れな言葉遣いに朗らかな笑みで答える美少女。この国の第一王女、リナリス・ペンドラゴン。王様の五人いる子供の一人だ。


太陽の光の様に眩しい金色の髪、宝石の様に澄んだ青い瞳、陶器の様な白い肌をした美少女。その類まれな容姿から城の家臣達からは『人形姫』と呼ばれている。


「申し訳ありません。先程まで礼儀作法の訓練をしていたもので」


現在、城の食堂には、東正義と第一王女の二人しかおらず、恐縮してしまう東正義。


仮にも一国の姫。それも、自分達勇者を召喚した張本人ともなれば無理もない。


「そんなに硬くならないでください。言葉遣いももう少し砕いていただいた方がわたくしは話しやすいです」

「はい。善処します」

「……」


隣の席に腰掛ける第一王女の表情に陰りが見え始める。


「わたくしの事を恨んでおられますか?」

「……え?」

「自分達の勝手な都合で連れてきて、平和な世界での生活、ご家族やお友達と離れ離れにされ、あまつさえ、魔王を倒してくれなどという無茶なお願いをしてきたわたくしの事を恨んでおられますか!」


突然、涙ながらに言葉を紡ぐ第一王女。実は、東正義達勇者を異世界から召喚したのは、この第一王女なのである。


彼女は類まれな魔術の才を持ち、禁術とされ、発動に優秀な魔術師が数百人以上必要な勇者の召喚をたった一人で行った天才なのである。


「いえ、別に姫様の事を恨んだりはしていませんから。落ち着いて下さい」


慌てて慰める金髪リア充。事実、東正義達を召喚したのは第一王女だが、理由はただ王様に命令されただけで、姫自身の意志ではなかった。


第一王女の名にふさわしい淑女の鏡のような人なのだが、箱入り娘で城外に全く出たことがなく、何の疑問も持たず親の言う事を聞き入れてしまう素直すぎる人なのだ。


城の家臣達の間では父親の言う通りに動く様からも『人形姫』と呼ばれていた。


「わたくしが召喚される皆様のことを考えていれば、こんな事にはならなかったのに。本当に申し訳ありません」

「いやいや。本当、大丈夫ですから、頭を上げてください」


涙を流して頭を下げる姫を全力で慰める金髪リア充。何とか話を逸らそうと考えを巡らせる。


「そういえば、この世界の事はまだよく知りませんけど、僕達がいた世界の物が多いですよね」

「はい?」

「ほら、えっと、先代の勇者様でしたっけ。彼らから伝え聞いた文化を取り入れているんですよね?」

「ええ。先代の勇者様方から伝え聞く文化はわたくし達の知る物より発展していて、我が国はそれらを取り入れることで発展してきました」


何とか話題を逸らすことが出来、一安心する金髪リア充。


「食事や勉強部屋にも驚かされましたが、何より衣服に関しては予想外でしたよ。まさか、ジャージやジーパンなんて物が異世界にあるなんて」


東正義達が召喚された異世界は、見た所、中世のヨーロッパを想像させるが、妙な所で元いた世界の文化が取り入れられていた。


例えば、小物。一般の兵士が使う紙は羊皮紙が多いが、白い紙も存在し、本は全て白い紙で作られている。筆記具には鉛筆だけでなく、普及していないがボールペンが存在している。流石に車などの機械はないが、魔術の応用により、原理や材料は微妙に違う、再現可能なものは殆どあった。


因みに、東正義達が訓練の時着ているのはジャージで、制服は個人で用意された自室に仕舞い込み、この世界の服を普段着にしていた。


「衣類に関しては我が国に拠点を置いておられるキャサリン様が世界全体の服飾文化の水準を引き上げられたのが要因ですね」

「キャサリン?」

「はい。服飾の世界では知らぬ者はいないと言われるカリスマです」


喜色満面に答える第一王女。姫の顔に笑顔が戻り安堵する東正義。


「へぇ。そんなにすごい女性なら一度会ってみたいな」

「男性です」

「……え? 何か言いました」


思わず聞き返す金髪リア充。


「キャサリン様は男性ですよ」

「キャサリンって名前で?」

「はい」

「…………へぇ、そうなんですか」


第一王女の答えに、思わず顔が引き攣る金髪リア充。目の前にある空になった皿と並べられたナイフとフォークを見ていると、ふと、あることを思いつく東正義。


「そうだ、姫様。よろしければ、今度買い物に付き合ってもらえませんか?」

「え、買い物、ですか?」

「はい。正直まだこの世界の事は詳しくないので、案内してもらえないかなと思いまして」

「……申し訳ありません。わたくしはあまり城の外に出たことがないので、東様のご期待に沿えないと思います」


申し訳なさそうに頭を下げる姫。


「でしたら、今度のパーティでダンスのお相手をしてもらえますか?」

「ダンスですか?」

「はい。近いうちに行われる貴族の交流会です。確か姫様もご参加されますよね?」

「ええ、まあ」

「一応、ダンスも今教わっている所なので、ある程度は出来ると思いますが、やはり人前だと緊張してしまうので、手助けしてもらえませんか?」


謙って頼む金髪リア充。


「はい。わたくしでよければ。喜んで」

「ありがとうございます!」


誰もが見惚れる爽やかな笑顔を浮かべる東正義。


「それでしたら、わたくしからも一つお願いをしてよろしいでしょうか?」

「ええ、構いませんよ」


ほんのり顔を赤らめた第一王女が告げる。


「これからはわたくしのことをリナリスとお呼びください」

「…………はい?」

「駄目ですか?」


瞳を潤ませて懇願する第一王女。


「あ、えっと、大丈夫です。分かりました。姫様」

「リナリス」

「あっと、リナリス、様」

「…………まぁ、それでいいです。それでは、ごきげんよう」


嘆息する第一王女は、席を立つと、見本のような礼儀作法を見せ、食堂を出て行った。


「藪蛇だったかな」


退出する姫を見送りながら、東正義は、か細い声で呟いた。



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