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神魔喰いの人外達  作者: 神食狼
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突然の来訪者

狭い部屋の中に、パァンッと乾いた音が響いた。


音がやんだ後の部屋でものすごくばつの悪そうな顔をしたネオンに、怒りで顔を真っ赤にしたシリルが詰め寄る。


「なんで!なんであんな危険な事をした!!」


「知るかよ!!俺だって願わくばあんなことしたくなかったさ!!」


日がすっかり落ちて暗くなったころ、ネオンはボロボロの状態でなんとか街中にあるシリルの家に駆け込んだのだった。


全身傷だらけで駆け込んできた友人の来訪に始めこそ動揺していたが、手当てをしながらネオンの話を聞いた後に彼女に沸いてきた感情は怒りと不安だった。


「だが、よくディストーションズから逃げきったよな……流石お前だぜ!」


少し離れた所で椅子に腰かけていたコリンが口を開いた。


逃げきったネオンをコリンが称賛し、シリルが憤慨するほどに、ディストーションズと呼ばれる組織は危険な物であった。


ディストーションズ。数年前に突然現れ、7人の権力者に反旗を翻した、W以降初めてのレジスタンス。彼らは自分たちを『Wの子供達』と名乗り、王宮周辺の建物を中心に破壊活動を行っていた。そのおぞましい程の戦闘力から、彼らは人間ではないのではないかと言う噂まで流れていたが、あの巨人を実際に見たネオンにとって、その噂は十分に納得のいく物であった。


だがなんだかんだ言って、ネオンがディストーションズの1人から逃げきった事に最も関心を示したのは、この二人であった。


「どうだった?強かった?どんなやつだった?どうやって現れた?どんな事を話してた?どんな―」


「あ"あ"あ"あ"待て待て待て待て!詰め込みすぎで耳がおかしくなる!」


「興味深いな。あたしにも聞かせろよ!」


コリンとシリルだ。


騎士団への入団が決まった二人に取ってはこれから幾度となく殺り合うであろう相手だ。どんなに些細な情報でも興味があるのだろう。


改めて二人の『王国を守る』と言う決意に深い関心と僅かな寂しさを覚えたのであった。


――――


「ふぅ、到着っと…」


結局ネオンが自分の家に到着したのは深夜1時頃であった。


あのあとコリン達とディストーションズについて話し込んでいたら、結局この時間になってしまっていた。


出会った巨人の事をあらかた話したのだが、二人の追及が激しすぎて、こちらとしてはまるで罪を追及された罪人の気分だった事は言わないでおこうと思った。


街の外れにある、一軒のボロ小屋。そこら辺に落ちていた石や木板やらを無造作に組み合わせただけのボロい小屋。これがネオンの家だ。


昔はこの家にコリンやシリルと集まって遊んだり話したりしていたが、お互いに目標が出来てからはめっぽう減ってしまった。


二人が騎士団に入団が決まったので、会う回数自体が減るだろう。もしかしたら、ゆっくり話せるのは今日が最後だったかもしれない。


分かってはいるが、それでもどこか寂しかった。何度も誘ってくれた二人には感謝しかないが、それでも自分が騎士団に入る事は、どうしても納得が行かなかった。命をかける必要性を感じない王国のために命をかける必要性はない。


だが二人と話した後だからかは分からないが、ネオンの頭には新たな葛藤が生まれていた。


「俺が命をかけても守りたいものって、なんだろうな………」


コリンとシリルには、命に変えても守りたいものがあった。


親を、兄弟を、家族を守りたいと語った。友を守りたいと語った。国中の人々を守りたいと語った。この王国を守りたいと語った。


だがよくよく考えて見れば、自分にはそれがない。


守りたいと思うような家族も居ない。友は守られないと生きていけないほど弱くない。この王国は自分が命をかける価値がないほど狂っていると思っているし、その王国の人間が王国ごと滅んでくれると言うのなら、自分はそれに笑顔で称賛を送るだろう。


それほどまでに自分には守りたいものが存在しない。どう考えてみても、わざわざ騎士団に入って王国を守る意味が見つからないのだ。


だからであろう。あの二人が眩しく見えるのは。


「……疲れた。寝るか。」


そこまで考えて、突然睡魔に襲われた。考えてみれば、今日は1日災難続きだった気がする。主にはあの巨人の登場であるが、その他にも神経をすり減らす出来事はいくつもあった。


うだうだ考えても仕方がないと、思考を打ち切る。自分がこれからどうなるかなど考えていられない。それはまたどこかで考えればいいし、このまま畑でも耕して死ぬまでのうのうと暮らしていくのも悪くはない。若干の心残りはあるが、こんな王国のために命をかけるよりは幾分ましなはずだ!


半ば強引にそうまとめあげ、乱雑に身を簡易ベッドに投げ出した。


視線がボヤけ、それまで見えていた天井が徐々に黒一色に染まっていく。


後はこのまま意識を手放すだけだ。


――――そう考えた直後、天井が暴風と共に吹き飛んでいった。


「うわぁっ!!なんだぁ!!??」


眠気は一気に吹き飛び、ベッドから跳ね起きた。


乱暴に天井を引き剥がされたボロい小屋は、呆気なく崩壊を始めた。


なんだか分からないが、とりあえず逃げなくては。


外に出て被害を確認しようとした時、ネオンの体が宙に浮き上がった。


それも数㎝単位ではなく、二メートル近く。何者かに頭を捕まれて、この高さまで浮き上がったのだ。


ネオンの目線の先に、見覚えのある物が写った。

真っ黒で、重厚そうな鎧。顔を覆う、ガスマスクのような兜。忘れる訳がない。あの巨人だった。つい数時間前に広場を破壊した巨人が、ネオンの頭を掴んで持ち上げていた。


恐怖と混乱で思考が凍りつく。なぜここにいるのか。何をしに来たのか。聞きたい事が山のように浮かび上がっては消えていく。


「迎えに来たぞ、我が兄弟よ!」


「……はぁ!?」


巨人の口から飛び出した第一声に、ネオンの思考が過去類を見ない程にフル回転を始めた。


こいつは今なんと言った?聞き間違いか?兄弟と言ったか?いや待て、俺にこんな狂暴な兄弟は居ないはずだ!いたとしてもお断りだ!


そのうち巨人はネオンを担ぐと、ものすごい速度で走り始めた。


向こうの方で松明の明かりが見えた。騒ぎを聞き付けて騎士団が向かっているのだろう。だが間に合わない。この速度で移動を続けても、巨人の方が圧倒的に早い。絶対に追い付くはずがない。


そう考えているうちに松明の明かりも見えなくなり、巨人はネオンを掴んだまま森の奥地へと消えていた。

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