憂鬱博士
部屋の中心には円がある。静寂の部屋。
天井から吊るされた灯りは赤い絨毯に丸い影を映す。
建付けが少し緩んだ窓は風に揺られカタカタと音を立て
時刻は0時、予定の時間である。
深いため息とともに、円に男が手をかける。
麻縄で作られたありきたりの円。
彼は今、終わらせようとしていた。
再び深いため息をつく、憂鬱であった。
「憂鬱だ、憂鬱だ」。
全てに憂鬱な彼は今、憂鬱な世界と離れるため円を首にかけて飛びおりる。
ばたり
丸い影が揺れる。
地面には倒れこんだ男。
彼は世界とさよならをしなかった。
彼には頭がなかった。
「憂鬱だ・・・」
時刻は0時3分。
彼の憂鬱な原因は頭がないこと。
そして今、頭がないことによりさよならが出来なかったことが加わった。
しばし地面と向き合った後、立ち上がる。
窓からは外を見る、雲はないようだ。
結論は簡単だ、彼がこの世界と離れるには頭が必要だ。
彼は憂鬱博士、毎日が憂鬱で、憂鬱で仕方がない。
憂鬱な世界と離れるため、彼は頭を探さなくてはならない。
入口扉まで駆け寄り、コートハンガーから黒い外套と黒い帽子を掴み取る。
早くしなければならない。手早く羽織ると、履きなれた革靴に足を通し、飛び出していく。
「早く頭を探さなければ・・・」