僕がさよならをつたえる日
えっ…私死んじゃったの?
気が付くと病院の霊安室の天井から自分を眺めていた。
えっどうしよう?
まだ子供5歳なのに。
なんでこんなことになっちゃたのよ。
記憶をさかのぼると、私交通事故で死んじゃった。
これから、どうしよう。
そうだ。まーくんに会いに行かなくちゃ。
幽霊になって飛んで家に帰るとまーくんはお父さんに抱きしめられて泣いていた。
「お母さんはもう帰ってこないの?お母さんはどこに行ったの?」
「お母さんはね。まーくんとこれからずっと一緒にいるんだよ。まーくんの心の中にお母さんはずっと生きているの。だからまーくんはお母さんが怒るようなことはしちゃダメだよ。お母さん死んでからも悲しんでしまうから。わかる?」
「うん。ぼくいい子になる。でもね。お母さんに謝らなきゃいけないこと沢山あったのに謝ってない。」
「お父さんもお母さんに謝らなきゃいけないことあったのに言ってない。一緒にお母さんに謝ろうか。」
「うん。じゃあ、まーくんからお母さんに謝ってみようか。」
「わかった。お母さん、死ぬ前にお母さんのことなんか嫌いって言ってごめんなさい。本当はお母さんのこと大好きでずっと一緒にいたくて…死んじゃうなんて…ごめんなさい。僕がしっかりしてなかったから。」
まーくん…お母さんこんなおっちょこちょいで早く死んじゃってごめんね。
私もまーくんのこと大好きだったよ。
もうぎゅーって抱きしめてあげられなくてごめんね。
ちゃんとお父さんのいう事聞くんだよ。
お母さんはまーくんのこと見守っているからね。
「お父さんは?お母さんになんて謝るの?」
「お父さんはね…お母さん浮気しててごめんなさい。実は外に子供がいます。それと借金もあります。生命保険大切に使わせてもらいます。」
はぁ?こいつなに言ってんの?
「お父さんってダメ人間だったんだね。」
「うん。お母さんには内緒な。多分バレたら呪い殺されるから。」
あの人は…浮気だけならず、外に子供がいるってなによ!しかも借金!?
どうやって子供食べさせていくつもりなのよ!
本当に!!私本当に死ぬんじゃなかった。
その日の夜。
お母さんは僕の夢の中に入ってきた。
いつもと同じ優しい笑顔のお母さん。
「まーくん。最後までごめんね。もし、私が今日死ぬことがわかっていたらば、私はまーくんに伝えたいことがたくさんあったの。
まーくんがとっても大切だってこと。
まーくんが生まれてきてくれてありがとうってこと。
まーくんのことを心から愛しているってこと。
まーくんを生むことができて本当に幸せだったってこと。
まーくん。私のもとへ生まれてきてくれてありがとう。
お母さんはずっとそばにいるからね。」
「お母さん…僕もごめんなさい。
もし、お母さんが今日死んじゃうってわかっていたら幼稚園のお菓子お母さんにあげたのに。
お母さんに肩もみだってしてあげたのに。
お母さんに抱っこしてもらうといい匂いがして気分がいいんだよ。
お母さんひどい事言ったけど、でも本当は大好きだったんだよ。
いつも驚かせたり、悲しませたりしてごめんなさい。
お母さんともっと一緒にいたかった。」
「まーくんちょっとだけ夜の空を散歩しよっか。」
「うん。」
そういうとお母さんはまーくんの手を繋いで空へのぼっていった。
夜の街は光輝いていて足元に星をちりばめたようだった。
「お母さんきれいだね。」
「うん。」
「お母さんはずっとこれからも側にいてくれるの?」
「そうよ。お空の上からまーくんのこと見てるからね。いたずらしたらわかちゃうよ。」
「えっ~じゃあいたずらしてお母さんにお怒りに来て欲しいな。」
「ううん。もう怒りにはきてあげられないんだ。だからね。お父さんのいう事聞いていいこにしてて。元気に楽しく遊んでいるまーくんを見てるのがお母さんの楽しみだから。」
「遊んでいればいいの?うん。わかった。僕いっぱい遊ぶね。」
「うん。そろそろお母さん行くね。」
朝気が付くと僕はベットで寝ていた。
頬から涙がすっーと流れ落ちたけどそれの意味はわからなかった。
家の中をお母さんがどこかに隠れているんじゃないかと思って探しまわったけどどこにもやっぱりお母さんはいなかった。
お父さんが朝ご飯を作ってくれたけど、卵焼きは焦げてて、味噌汁はしょっぱかった。
「お母さん僕がんばるよ。」
お母さんに届いて欲しい。そう心で願いながらお母さんへ誓いました。
おなじくその日の夜。
お母さんに正座させられながら怒られるお父さんは泣きながら笑ってお母さんのことを抱きしめていました。