9:ギブ&テイクアウト
「貴様」
生き残りの男は、俺を見てわずかに眉を潜めた。見慣れない服を着て見慣れない髪をして見慣れない顔の形をした見慣れない男。怪しいといえばこれほど怪しいものもないのだが、そんなことで俺を責められても困る。
「ああ、俺のことはお構いなく。少し休んだら消えますんで」
「助けて、欲しいのじゃ」
痛みと苦しみでくぐもった声。女の子が顔を伏せたまま、手探りで俺にすがりつく。
おう、やっぱこれ“のじゃロリ”だ。初めて見たわ。頭のなかでは場違いな感嘆が浮かんで、消えた。
正直なところ、あれだけの大立ち回りが可能な体力と筋力をお持ちなのであれば、むしろ俺が助けてもらいたいのだが。ダメだろな。さっきの一撃で短剣は吹き飛ばされている。どこか怪我したのか、手足もだらんと放り出されたままだ。
「まさかこの国に、ドワーフひとりのために命を掛けるバカがいるとはな」
「それは大変な誤解ですね。俺はここで、ちょっとだけ休んでいるただの商人です」
自分でもバカみたいだとは思うが、男が見逃してくれるかもしれないというわずかな可能性に賭けた。
さて、賭け金提示は終了。だが、男は両手に短剣を構えてズンズンとこちらに近付いてくる。殺意に満ちたその表情は完全に賭けが俺の負けだということを示している。
「ギブ&テイクだ」
俺が女の子に話しかけると、彼女は声に反応してゆっくりと顔を上げた。
間近で見ると目鼻立ちは整っていて、また予想していたより表情に幼さはない。くしゃくしゃの巻き毛は艶々していて、若さと育ちの良さを感じさせる。
ドワーフ、と言っていたようだから、この子は見た目に反してただの幼女などではなく小柄な種族なのかもしれない。
ただ、キョトンとしたその顔は、俺の言葉がイマイチ通じていないようだ。
「ギブ、なに?」
「助けてやるから俺を助けろ。それで良ければ、手を貸してやる」
「わかったのじゃ」
交渉成立。
だが、それを待たずして、男は全身の力を溜めて斬撃を開始していた。俺は懐から取り出したM1911コピーを男に向け引き金を引く。
バンと轟音が響いて、男の動きが止まる。胸の中心に吸い込まれた弾頭は血と肉片を背後に撒き散らす。男は不思議な現象でも観察するように――まさにその通りなのだろう――自分の胸に手を当て、俺を見て、両手から剣を落とした。
「なに、ヴぉッ」
声は湿っていて、口から血が噴き出す。眼球が宙を向き、男は仰向けに倒れたまま動かなくなった。
「え? いまのは、なんなのじゃ? それって、一体……」
「頼む、いま俺は動けない。ここから……この街から、出来ればこの国から脱出したい。手を貸してくれたら教える。条件次第では、これを譲ってやっても良い。お前次第だ」
残り1発となったM1911コピーにセイフティを掛けると、収納に戻す。そこで俺の意識は途絶えた。