84:開戦の先触れ
俺はハンヴィーで荒れ果てた町に踏み込む。
皇国と王都を繋ぐ街道と、ケースマイアンへの連絡路が交差する三叉路。かつて皇国軍部隊との戦闘があったそこから3哩(5km弱)皇国側に向かったところにある廃墟だ。街道から奥まった場所にあるため、前回の旅行きでは目に入らなかった。ケースマイアンが健在の頃には宿場町として栄えていたらしいが、いまでは街道と街を繋ぐ脇道も藪に覆われ、町自体も森に埋もれようとしていた。
「気を付けろ、ここは荒野のウェスタンだ」
「後半はなにをいうとるかサッパリわからんが、雰囲気は理解したのじゃ」
上空警戒中の有翼族から、皇国軍の先遣部隊が何か作業中と聞いて確認に向かったのだ。
連れは助手席でUZIを構えているミルリルさんと、銃座でご機嫌なミーニャ。
どうでもいいけどサイドミラー本当にエルフっぽい耳付けやがって、見にくいし速度上げると風切り音が出るし鬱陶しいんですけど。外しちゃダメなんですかね。
大体これ形が妙にリアルな上に剣呑な輝きを放ってるんだけど、どんな素材で作ったんだよ。固定が厳重なのがまた不安を煽る。
「なあ、ミーニャ。この耳……」
「いいでしょ、それ。ハイマン爺ちゃんに鋼材から削り出してもらったの。エッジに刃が入ってるから、すれ違いざまに敵を斬り殺せるよ」
「怖ぇえよ! しかもこれ鋼って。こんな近くで敵とすれ違わねえよ!」
「しっ! なんか来るのじゃ!」
なんか、つっても敵以外あり得ないわけで。実際、姿を現したのは皇国軍の斥候らしい騎兵。こちらの排気音を警戒していたのか既に剣を抜いている。
薮を掻き分けた勢いのまま、すれ違った馬体が2m超えの車体と接触してゾロリと斬り裂かれた。馬は短く嘶き兵は甲高い悲鳴を上げる。
「ほら」
ほら、じゃねえよ。脚を大腿部で切断された騎兵は血を吹き上げながら転げ落ち、馬は腹を裂かれて内臓を溢れさせる。ヨタッと歩いてドサリと横倒しになったままピクリともしない。
……おうふ。これ意図してこうしたんだったら鬼畜仕様もいいとこだ。逃げ場がない場所ですれ違ったら脅威だけど、そんな状況が本当にあるとは思ってもみなかった。
悲鳴を聞いて通りに飛び込んできたのは軽歩兵と魔導師の一団。10人近い男たちは固まった瞬間にミルリルさんが放った45口径弾で目玉を撃ち抜かれて倒れる。
ミーニャには甲冑付きとゴーレム以外は撃つなと厳命してある。7.62ミリNATO弾は、剥き身の生き物を撃つには(主にコスト面で)オーバースペックなのだ。
「……退屈」
「戦場で退屈なのは贅沢な悩みじゃ」
歩兵が出てきた方向には教会だったと思われる煉瓦造りの建物の名残があって、その基部に青銅臼砲が3基、斜め向きで据えられていた。狙っている方向はケースマイアンへの連絡通路あたりか。俺たちが兵を出したところで一撃を加えるつもりだったようだ。
王国軍に比べれば、少しは考える頭があるようだ。武器も(原案はリンコが出したとはいえ)用意するくらいのことはできると。その頑張りに応えようと、俺は手榴弾でブービートラップを作る。臼砲に近付くと砲身ごと爆発するようにセットして死体を収納、ケースマイアンへと帰還する。
また橋を渡って平野部に入ると、ドワーフの戦車兵たちが退屈そうにハッチから顔を覗かせる。
「戦車の出番はまだかのう?」
「あと1日2日は掛かるんじゃないかな」
「ヨシュア、有翼族から伝令じゃ。騎乗ゴーレム部隊の先頭が分岐路から3哩のところまで……」
ドーンと、重い音が遠くから伝わって来る。
俺たちの仕掛けに乗ってくれたようだ。
ついでに仕込んでおいたジェリ缶によるものか、遥か彼方でもくもくと煙が上がっているのが見えた。
「総員、戦闘配置!」
いま、待ちに待った巨大ロボット(ゴーレムだけど)相手の戦車戦が、始まる。




