82:戸惑う者と怯える者
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2年掛けた「オネエ魔王の戦争」の10倍以上、2か月で……(驚き
有翼族斥候のルヴィアさんと別れた俺たちは、ケースマイアンに向かって側車付き単車を走らせる。帰りは会敵もせず障害も問題もなくあっさりと帰還した。
渓谷前に広がる平野は外延部から200mほど内側に、外堀がほぼ完成していた。いまはまだ水が張られていないが、それでも幅と深さが4mはあり、大軍や車両が通れる部分はケースマイアン城壁から見て南側正面、鉄製の橋桁が掛けられている部分だけだ。
出て行ったのと同じ場所だが、入るときは出来立てのトラス橋を渡ることになる。橋を守っていた若い獣人と幼い獣人のグループが、俺たちを見て手を振った。
「ヨシュア、おかえりー」
「「「まおー」」」
「ありがとう、ただいま」
どっかで見た顔だと思ったら、王国イエルケル村からの避難者だ。リーダーのメイファちゃんに、ルクル・ポーン・マイラの仔人狼三連星。その後ろの子たちも見覚えはある。森のなかで隠れていた8人か。避難時に決めたのか頼りになるメイファちゃんの人望か、そのままケースマイアンでもひとつの行動単位になっているようだ。
「そのまま進んでください、部族長が城門前でお会いしたいそうです」
大人びたメイファちゃんの指示で、ウラルを進める。平野部の造成も進んでいて、起伏のある地形と馬防柵と塹壕、機関銃座と迫撃砲座、そして戦車が既に迎撃態勢で配置されていた。
「すごいな。もう、ここまで……」
「さすが魔都ケースマイアン。やる気満々だね」
「いや、勝てると聞いて張り切っておるのも、おそらく事実ではあるがのう。ふつう騎乗ゴーレムの大群が来るとなったら死に物狂いで策を練るもんじゃ。これは、その結果であろう?」
「「そうなのか……」」
「おうふ、もしやリンコ、おぬしもヨシュアのような非常識タイプか?」
「ううん、わりと常識人」
「おまけに自覚もないか。まあ、ヨシュアと同じ国の出となれば、やむを得んというものじゃな……」
「ちょっとミルリルさん? 勝手に納得するのやめてくんないすかね」
先に戻っていたヤダルやハイマン爺さんから話は聞いたのだろう。スロープから上がった城門の前に、エルフのケーミッヒとドワーフのハイマン爺さん、熊獣人のビオーが待っていた。
「そいつがヨシュアの同郷っていう、ああ……と、魔法使いか?」
「そこは建前でも“聖女”って、いってやれよビオー」
「どうでもいいよ。なりたくてなったわけじゃないし、魔法使いの方がしっくりくるかも。治癒魔法以外は、そんなに得意じゃないけど」
リンコもまだ表情は硬いが、体重が3倍近くはある熊獣人やら巨漢のケーミッヒを相手に怯まないだけでも立派なもんだ。
「治癒魔法が使えるなら、教会の診療所を任せたいな」
「待て待て待て、そやつはドワーフの工房に勧誘しようと思っていたんじゃ。なかなか面白いものを作りそうじゃ」
「いやいや、いまは武器より診療所だろ。エルフが頼りだと、射手に回せなくなる」
「ミルカがおるわ」
「なになに~?」
「あの子はまだ魔力量がな。それに精霊魔法って効きは良いんだけど効率が……」
「お、新顔がいるぞ。人間? ハーフか?」
「変な匂い。これ薬品だね。魔女かな? 気配が薄いよ」
「ちっこい」「ヨシュアのともだち?」
「やらかい」「めがねー」
「わふん!」
モテモテだな、リンコ。
獣人とドワーフのリクルートに加えて、野次馬として寄って来た獣人の子供たちにワチャワチャにされてポカーンとしとる。
密かに緊張してたっぽいし、どんだけ警戒されるのか、吊るし上げられたりしないか、くらいは考えてたのかもしれない。一応仮にも交戦中の国の軍属だし。
まあ、俺が事前に最低限の安全確認は済ませておいたし、鑑定はエルフも使えるからな。
「おぬしはどうなんじゃ」
さほど興味もなさそうにリンコを眺めていたケーミッヒに、ミルリルが声を掛ける。
「俺は、怪しいヤツじゃなきゃどうでもいい」
「ケーミッヒの見たところ、リンコはどうなんだよ」
「怪しいことは怪しいが、悪いヤツじゃあなさそうだ。少なくとも、ヨシュアよりいくらかマシだ」
「うむ、なかなかの見立てじゃ」
ちょっと、ひとをオチ要員にするのやめてくれないですかね。
文句いおうとしたら、ミルリルさん通信機を持ってどっか行ってしまった。
「決まったぞリンコ! しばらくは3日おきに工房と診療所じゃ。最初はもちろん、わしの工房からじゃな!」
「もし大変だったら、すぐいってね。対処するから」
「……は、はあ」
技術と知識を見込んでかドワーフの同族扱いしてくるハイマン爺さんと、他種族だからか外見の素っ気なさなど気にも留めず直球で女の子扱いしてくる熊獣人のビオー。
そのどちらも予想していなかった態度らしく、リンコはますますぎこちなく固まっている。
ちなみにこのビオー、名前は最近知ったが、最初にケースマイアンに来たとき俺たちの乗ったクマ顔バスを迎撃に出た獣人部隊のひとりだ。29歳独身、彼女なし。というか、ずっとなしだという。
いいやつなんだけどね、ビオー。
クマ顔バスは獣人を中心に大人気だが、熊獣人はそれほど人気でもなく、さらにいえば暗黒の森に棲む灰色大熊はオーク程度なら戯れに殺すという狂暴残虐な巨大魔獣で、嫌悪や恐怖の的だ。
同じ熊なのに、この辺のメンタリティはイマイチよくわからん。
「ちょっと良いか、ヨシュア。おぬしに代わってほしいそうじゃ」
とかいいながら、ミルリルが通信機のヘッドセットを俺の頭に着ける。
“あっ、魔王陛下”
こちらが話し始めるより早く、俺の耳に声が飛び込んできた。上空警戒中のルヴィアさんからだ。
思ったより感度は良く音質もクリア、なのはいいんだけど……なんか耳元で囁かれているみたいでくすぐったい。しっとり艶のあるボイスなのがまた、困ってしまうのだ。一応いっておくが、下心はない。
「どうしました、何か問題でも」
“いいえ、お伝えしたいことがあったのです。皇国軍のケースマイアンへの到達予測ですが、このままですと最低5日ほど掛かりそうです”
「え?」
ルートにもよるが、皇都からケースマイアンまでは200km弱。バイクだと偵察兼ねて一泊二日、飛ばせば半日でも到達可能な距離だ。
いくら鈍足のゴーレムを連れての行軍とはいえ、5日は掛け過ぎではないか……って、そうか。
“現在の進軍速度は、前の半分以下になっていますね。大型の鉱石質ゴーレムを単独先行させて、後続は四半哩ほど距離を取っています”
「先行した1体は、罠への対応?」
“はい。かなり大型の6足歩行型ですが、必要以上に踏み締めるような動きで、探りながら進んでいます”
「警戒されてるな」
俺の言葉にミルリルが呆れて首を振る。
「当たり前じゃ。落とし穴と“あいいーでー”で騎乗ゴーレム部隊は半壊じゃからの」
「わかりました。ルヴィアさん、ありがとうございます」
“いいえ。妃陛下にも、よろしくお伝えください”
通信が切れて、俺は首を傾げる。
「ひへーか?」
「魔王妃陛下、わらわじゃ」
ああ、そういうこと。気が早いね。……っていうか、なんで鼻フンカフンカしてるのあなた。




