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【完結&書籍化】スキル『市場』で異世界から繋がったのは地球のブラックマーケットでした  作者: 石和¥
2:群れ集う者たち

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68:王子と賢者と聖女と脳筋

 わらわは阿呆じゃ。薄情で恩知らずの我儘な能無しじゃ。


「……ヨシュア」


 名を口にするだけで胸が苦しくなる。声を聞くだけで安心できた最愛の男を、自ら手放してしまった。

 あやつがどう思うかは知っておる。どう感じるかもわかっておる。危地に乗り込む場で置き去りにされる辛さは、わらわ自身が何度も経験したことじゃからのう。

 そうして送り出したところで、あやつがどうするかもハッキリしておるというのに、我を張った挙句にこのざまじゃ。


 着実に確実に敵の目玉を穿(うが)つ“うーじ”の咆哮だけが、辛うじてわらわを現実に繋ぎ止めておる。泣き叫びそうな後悔と寂しさは雨が隠してくれよう。これで良かったんじゃ。こうするしかなかったんじゃ。

 あやつひとりになにもかも背負わせて、常に身を挺して守られて、それで平気でいられるほど恥知らずではない。

 そうしてまで成そうとしておる戦がヨシュアから与えられた力に支えられている滑稽さを痛感しつつも、わらわは吠える。


「さあ、掛かって来い! ケースマイアンの魔王が妻、ミルリルはここぞ!」


「おうミルリル、なにちゃっかり惚気(のろけ)てやがんだ!? だいたい、お前は呼んでねえぞ!」

「やかましい! いわれんでも、わかっておるわ!」


「誰も残って欲しいなんて、思ってないのに」

「わかっておるというに、もう黙らんか! わらわは自分の阿呆さ加減にウンザリしておるところじゃ!」


 おかしな甲冑を着込んだ王国の賢者と切り結び、ヤダルの“まちぇっと”が火花を散らす。

 手首も肘も首も腹も膝も、甲冑の継ぎ目から覗く肉はすべて刃が通り溢れ出す血が銀甲冑を赤黒く染めておるというのに、怯むどころかますます激昂しておるようじゃ。

 頭のなかをどこまで弄られたやら、まるっきりの死兵じゃな。


 ミーニャの“えむろくじゅー”が吠えるたびにバタバタと敵兵は血飛沫を上げ、あるいは血反吐を吐いて転がる。こちらもこちらで、いくら削られたところで退く気配はない。

 王国軍もそうじゃ。兵を2割も喪えば撤退が戦の常道であろうに、すべての兵が死に絶えるまで進んできよる。なにがそうまで執着させておるのかわからん。士気も装備も練度も凡庸な兵が怯えながら死に急ぐさまは、哀れを通り越して、不気味じゃ。


 森の奥から風を切る音がして、“はんびー”の車体に鉄の鏃が当たって撥ねる。軌道を辿って撃ち出した“ふぉーてぃーふぁいぶ”が彼方の銀甲冑に当たって甲高い響きを上げる。

 音からして弾丸は抜けてはおらん。魔導障壁か。厄介じゃのう。

 そう考えながら、わらわは口元が綻ぶのを止められずにおる。


 なにせ、あやつが持つ機械弓については、わらわが先達(せんだつ)じゃ。利点を生かす使い方から必死で隠しておる弱点まで、なにもかも知り尽くしておる。

 いずれ広まることもなく廃れて滅びる時代の徒花(あだばな)という既定事実まで含めてのう。


「そやつは血を分けた覚えもない不義の子じゃが、等しく引導を渡してやるのが、わらわの義務であろう?」


 森に向かうわらわを狙うて、いくつもの矢が飛んできよる。咄嗟に飛び退けば二の矢に当たるよう、角度と時間に僅差がつけられておる。

 弓使いの手癖かのう?


 ふむ。複数の矢を順次に撃ち出す機構で連射を可能にしたのじゃな。誰の作かは知らんが、わらわの作った原形からそこまで思い至ったのは悪くないのう。

 わらわがそうしなかった(・・・・・・・)理由には思い至らんかったようじゃが。


 連射と引き換えに重量は上がり、嵩張るわりに1発ごとの威力は下がり、打ち尽くした後の再装填は戦場では出来んようになったと。

 わかるぞ。机上では、わらわ自身が辿った道じゃ。


 しかし、その武器はのう、単純化して安く大量に作って雑兵に(・・・)持たせねば無意味なんじゃ。数が揃わねば(・・・・・・)無価値(・・・)なんじゃ。そこに思い至らん時点で、敗けだったんじゃ。


「……わらわが、そうであったようにのう?」


 機械弓男が姿を消した森に踏み込み、背を低くして突進する。隠れても無駄じゃ。気配を殺したところでバレバレじゃ。吐き出す息が木陰からハッキリと見えておる。

 樹木を縫って駆けてくる矮躯(チビ)を捉えるのは至難であろう? 射ったところで短い矢は樹幹どころか草にすら弾かれ、簡単に軌道が変わる。長弓の矢とは違うのじゃ。

 見失って見渡す男の耳元でわらわは囁く。


「ずいぶんと、息が乱れておるのう?」


 振り返りざま打ち出された鏃は、もう誰もいない空間を抜けて幹に刺さる。

 そんなデカ物をいくら振り回したところで、まともに狙えるわけがないのじゃ。砦の望楼にでも据えれば活躍も出来たろうに、なにを血迷って個兵に、それも森林戦に持たせたのじゃ。阿呆が。


「そのままでは、障壁の魔力が切れるぞ?」


 木陰から笑うわらわの声に、反応はない。打ち出された鏃だけが答えじゃ。


「あと何本、射られるのかのう?」


 腰の剣を抜いて斬り掛かってくるが、こちらが幹を回り込み隣の木陰に逃れるだけで“王子様”は呆気なく姿を見失う。

 息が荒い。怒りや恐怖や緊張によるものではないようじゃ。おそらくは、無理に掛けた身体強化の揺り戻しじゃな。

 捨て駒にしても、使いようはあろうに。

 がくりと膝をついた男の前に、わらわは姿を現す。


「観念せい。盗んだ武器で勝てるほど、戦は甘くないのじゃ」


 近付くわらわに向け手にした機械弓を振り上げ、甲冑のなかの眼が蔑んだように細められた。

 “うーじ”の銃弾に目玉を撃ち抜かれるまで、哀れな元・王子は勝利の夢を見ていたようじゃ。


「しかし、見れば見るほど、ひどい代物じゃな。捨て駒が持つには似合いじゃ……」


 機械弓に銃弾を撃ち込んで振り返ると、樹幹を縫って飛んで来た氷の槍が、危うく飛び逃れた木陰の下草をバリバリと氷結させながら爆ぜる。


 ゆらりと姿を見せたのは、全身甲冑から魔力光を(ほとばし)らせた杖持ち女じゃ。

 他のふたりより魔力量に恵まれていたのが仇になったか、狂化の度合いがキツいように見える。首を傾げながらなにやらボソボソとしゃべってはおるが、まるで要領を得ん。


 “ごうこん”“いけめん”“かちぐみ”……なにをいうておるのじゃ、こやつは。


「……なにが聖女じゃ。貴様はもう、ただの出来損ないの魔女じゃ」


 撃ち出した“ふぉーてぃーふぁいぶ”は弾かれただけでなく、真っ直ぐこちらに返ってきよった。

 嫌な予感がして駆けながらの攻撃にしておらなんだら、危うく自分の弾丸で死ぬところじゃ。

 魔導師相手の戦いは厄介にも程があるわい。


 森を抜け出して“はんびー”の前に出ると、皇国陣地はあらかた壊滅して死体か死に掛けの兵が倒れ伏すばかりじゃ。なにをどうしてミーニャを怒らせたやら、指揮官らしき男は両脚を砕かれ悲鳴と血を撒き散らしながら這いずっておる。


「……ッしゃあッ!」


 吠える声に目をやると、ヤダルが渾身の力でマチェットを振り抜くところじゃ。賢者の首が断ち落とされ、くるくると宙を舞って森のなかに消えた。哀れな末路とは思うが、ヨシュアを贄にしようなどと考えた連中であれば、自業自得じゃな。


 さて。残るは、気の触れた聖女様じゃ。

 森を掛け分けて出てきたその姿には、思わず背筋が寒くなるような(いびつ)さが見え隠れしておる。濃密な殺意を撒き散らしながら、内股をこすり合わせるような歩き方といい、見えない相手に媚を売るような身振りや視線といい、どうにも見ておられん。


「……なに、あれ」

「あやつは撃つでないぞミーニャ、弾丸を真っ直ぐ打ち返してきよる」

「面白い」

「いや、ちっとも面白くはないのう」


 銃座に()るのも飽きたとでもいうように、エルフの娘はひょいと天井から飛び出してきよった。手にしておるのは、愛用の“そうどおふしょっとがん”……?


 ……いや待て、冗談ではないわ!


「だから、撃つのはイカンというておろうが。そんもんをブッ放した日には“さんだん”が四方八方に飛び散ってえらいことになるんじゃ」

「わかってる、大丈夫」


 いや、わかっておらん気がする。ぜったい大丈夫じゃないと、わらわの心が警鐘を鳴らす。

 散歩でもするように歩み寄るミーニャを見て、聖女はこくりと首を傾げる。


「離れよミーニャ! それが魔法発動の予備動作じゃ!」


 バリバリと空気を震わせながら煌めく氷の槍が生まれ、聖女の周囲に後光でも指すように広がる。切っ先がミーニャに向けて傾くと目にも止まらぬ速さで打ち出された。


「ミーニャ!?」


 氷の槍衾が突き刺さった先にミーニャの姿はない。瞬きするより短い間に、あやつは懐にまで踏み込んでおった。聖女の甲冑に手を当て、なにやら囁いておるのが見えた。

 聖女はびくりと身体を震わせると、膝から崩れ落ちる。俯せに倒れた後、ピクリとも動かん。


「……なにをしよった」


 戻ってきたミーニャに尋ねると、彼女はまるで聖女の仕草を真似るように小首を傾げて笑みを浮かべよった。


「返した」

「……わからん、なにをじゃ」

「弾丸が返ってくるのは、魔導障壁じゃない。聖霊(・・)の加護による送還。上位の精霊(・・)なら書き換えられる。悪意には悪意、敵意には敵意、殺意には殺意を、返した」


 甲冑の聖女は横倒しになってビクンビクンと痙攣しておるが、具体的になにがどうなったのかはわからん。わかりたくもない。


「…………おぬしは、何者じゃ」

「精霊の祝福を受けたエルフなら、ふつう」


 絶対にふつうではないと断言してもいいが、あまり深入りしない方が良いとわらわの勘が告げておる。


「ミルリル、ミーニャ。拙いことになったぞ」


 ヘニョリと耳やらシッポを垂らし、ヤダルがわらわたちに告げる。

 敵は一掃したようじゃし、さほどの問題はなさそうなんじゃが。雨だけはますます強くなり、すでに嵐の様相を呈しておる。日も陰ってきたようじゃ。動きを止めた身体に、寒さが染み込んでくる。


「どうしたの」

「死にかけの兵から嫌な話を聞いた。皇国軍の本隊が来る。目的は王都制圧と王国占領らしいんだけどな」

「構わぬ。勝手にやるがよいのじゃ」


「あいつらの認識では、ケースマイアンも、王国領に含まれる」

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[良い点] “ごうこん”“いけめん”“かちぐみ”とボソボソ呟く聖女……想像するだけで寒イボでるw
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