6:蘇る老兵
“白亜の間”を逃げ出した俺は廊下を駆け抜け、階段を駆け上がる。
召喚に当たって一般の兵士は遠ざけられているのか、上階もその上もいまのところ人影はない。M1911の弾倉を抜き、ポケットから取り出した銃弾を装填する。
改めて確認するが、弾頭は鉛が剥き出しでギザギザに切れ込みが入っている凶悪仕様。そら射出孔がミンチみたいになったわけだ。
7発装填して薬室に送り込み、弾倉に減った1発を詰め直そうかと思って、止めた。サイモンが弾倉内を6発にしていたのはフル装弾では装弾不良が起きる可能性でもあるのかもしれない。残りの弾丸は2発。
「7発で終わらなければ、か。終わらねえよ、クソが。世界最大最強とかいうクソ王国とクソまみれの勇者様御一行にケンカ売って、拳銃弾7発で済むわけねえだろうが!」
俺は通路を駆け抜けながら、フロアに飾られていた甲冑らや壁の装飾武器やら絵画やら花瓶やら絨毯やらを手当たり次第に収納してゆく。根こそぎ盗んで換金すればあの業突く張りのラスタマンも少しは交渉する気になるだろう。
一般兵士はともかく勇者やら賢者やらを相手に拳銃一丁なんて冗談にもならない。
更に階段を上がると、窓からフロアに差し込む光が見えた。
地上階に出たようだ。衛兵とでも呼ぶのか、胸甲を着けた警備兵が入り口手前にふたりと、巡回してるのがふたり。玄関から入って正面側の階段上にも見えているだけで3人はいる。
玄関を出た先にもそのまた先にも、城門までの間に兵士がいない筈がないし、そもそも脱出成功と言えるのはこの国を出るまでだ。その間にどれだけの距離と障害があるのか知らんけど、銃声で兵士はどんどん集まってくるに決まってる。
静殺傷法なんていう技術は当然俺にはないし、すでに7発じゃ全ッ然、足りない。
詰んだな、これは。神の声でも聴くか。
「市場」
「おうブラザー、良いトコに来たな」
白い光が消える間もなく、首から頭からアクセサリーをテンコ盛りに盛ったサイモンが俺を見てニヤニヤと笑っていた。
「さっきは悪かったな。鑑定するまで信用出来なかったんで、随分と損させちまったみたいだ。とりあえず貴金属類は、最低でも2万5千ドルになるってよ。急いで捌いたら買い叩かれそうなんで、しばらく手元に置いておくことにしたけどな」
「そら結構。お前がよほどの下手を打たなきゃ、その10倍にはなると思うぜ?」
なにせその宝飾品は王国の秘宝だからな。まさかイミテーションてことはないだろう。
「ちなみに、M1911コピーは、いくらだ?」
「3千。俺の愛用してたチューンナップ済みの逸品だしな」
約30万円? う~ん、市場価格は当然もっと安い筈だが、この状況込みでは高いのか安いのかわからん。まあ、初回取引は言い値で良かろう。俺は肩をすくめて先を促す。
「鎧やら剣やらは美術商に預けて鑑定待ちだ。査定が済んだら、差額はどうする? ドルで返すか?」
「いや、現物で頼む。アサルトライフル2丁と予備弾倉をそれぞれ3個、弾薬も3千発は欲しい。あればハンドグレネードも10」
「いまグレネードはないな。古いので良ければ探しておく。アサルトライフルは、手持ちで数が揃うのはAKMとFALとG3、サブマシンガンでも良ければMAC10とUZIがあるぞ」
うん、ラインナップがアフリカっぽい。そして古い。
「安いのに越したことはないが、整備済みの新品に近いものを頼む。AKだとしたら、カラシニコフ製が欲しい。東欧やアジアのコピーはなしだ」
当然ながら使った経験はないが、資料で読んだ限りコピーはどれもあまり評判が良くなかった。
「……ああクソ、まずい」
会話中の視界の隅で、こちらに気付いた兵士がゆっくりと動き出すのが見えた。
「アンタはいつでも取り込み中だな。AKMなら、いますぐ出せるぞ? 油漬けのままだが旧ソ連製だ」
ゴソッと置かれた2丁の自動小銃と油紙に包まれた弾倉、箱入りの弾薬を収納。代わりに城内で奪ったアレコレを献金皿に乗せる。
「清算は後でな。また頼む」
サイモンは最後にひとつだけ、AKMの弾倉を手渡してくる。
「今回渡したのは新品なんでな。装填済みのはこれだけだ。幸運を祈るぜ」
時間切れなのか、世界が一気に動き出す。クソッ、消音器付きの銃でも頼むんだった。