58:魔王の眷属
俺はドワーフの工房にいた。ケースマイアンの城壁東側の外れにあるそれは、かつて住民の生活用金物を扱う鍛冶工房だったものだ。完全に廃墟化していた建物を再建したのだが、まだ住民が少数ということもあって、かなり広く作り直してある。
建築やその後の営業に必要な物資や機材の調達は俺がサポートした。かなりの額が飛んだが、まったく気にしてない。これは必要な投資だ。ハイマン爺さんの手腕で、これからは銃器や機械を全般に扱ってもらいたいと思っている。
いま爺さん連中は手製の台で黒クマ号を持ち上げ、下回りを分解しているところだ。指揮しているのはミルリル。みんな見たこともない技術と部品構成に、あちこち調べては目を輝かせている。
ミルリルさん、ツナギみたいな作業服の裾を折ってる感じも可愛いな、うん。
壊れたショックアブソーバーは完動品との比較で修復の方向性が決められ、素材の選定に入っている。ドライブシャフトは分解してみたものの、日本の工業レベルとドワーフの金属加工技術との差異が議論され、再生するか新造するかで意見が分かれているようだ。
正直、俺には判断できないのでお任せするしかない。
最悪、部品の取り寄せも出来なくはないのだが、サイモンは車屋じゃないから、そんな骨董品のパーツ発注するくらいなら新しい車を買ってくれっていわれるだろう。実際、たぶんその方が安く済む。
経理と管理の担当として、ミルリルの妹、ミスネルが雇われることになった。もともと数字に強く書類仕事が得意な彼女は事務方としてかなり優秀な人材らしいのだ。
ちょうどいい機会なので、俺はミスネルに尋ねてみることにした。
「諸部族連合に避難した獣人やエルフやドワーフは、どのくらいいるんだ?」
しばらく考えて、ミスネルは答えた。
「……そうですね。陥落当時はわたしも姉も生まれていませんでしたから、どこにどう逃げ落ちたかまでは把握していませんが、最盛期のケースマイアンの人口は1万前後だったはずです。その後の戦闘や事故や人間からの攻撃、逃げ延びた後の差別や虐待で死んだ者も大勢いると思いますので、最大でも4千人といったところでしょう」
横で聞いていたハイマン爺さんが、静かに頷く。当時を知る爺さんの記憶と照らし合わせて、概ね正しい数字なのだろう。
ふたりとも、聞いてどうするのかは尋ねてこない。そんなもん、答えは決まっているからだ。
「救出に向かうんじゃな。人手は要るか?」
「いや、今回は……」
「ヨシュアと、わらわとで行くのじゃ!」
決定事項だといわんばかりに、ミルリルがこちらに向かって笑みを浮かべた。作業中だったのに、会話はしっかり耳に入っていたらしい。ミスネルは困ったように首を傾げて俺を見る。
「大丈夫、ミルリルは俺が守る。暴走させないようにするし、ムチャなことも……出来るだけ、しない。必要な安全策や事前準備も、入念に行うつもりだ」
「はい。危なっかしい姉ですが、どうかよろしくお願いします」
「あ、危なっかしくなどないのじゃ!」
どっちが姉だかわかったもんじゃないが、頭を下げられて俺も礼を返す。
「各人の所在や出生・死亡は、各部族長のところに行かなければわかりませんが、亜人についてはコミュニティごとにある程度の情報共有がなされていますので、聞いて回れば把握は可能だと思います」
「ミスネルがいたのは、連合領東部の町と聞いたけど」
「はい。タランタレンという、諸部族連合領の国境線で唯一、外部との行き来が可能な町です」
人間の住民は7千ほどで、部族長は王国貴族の血を引く人間。そこには獣人50、ドワーフとエルフがそれぞれ15人ほどのコミュニティがあり、ミスネルも下級官吏として住民の管理や相談役を務めていたのだとか。
「ミスネルたちを王国軍に売ったのは、その族長の指示?」
「わかりません。連合領を守る領兵団という組織があるのですが、わたしたちを捕えた者たちは、その制服を着ていました。人間という以外に特徴はありませんでしたので、どこの者なのかはわかりません」
諸部族連合の場合、各部族の自治は政治・経済に限り、兵は警察力としての衛兵を私有しているだけ。対外的な派兵は連合全体で予算と人員を持ち寄り、合議制で意思決定し、作業分担するそうだ。となると、却って責任の所在が不明瞭になる。
どうでもいい話だけど、その形式だと強い兵や軍は生まれにくい。バラバラのところから兵を抽出して合議制で動かすなんて、迅速な統一行動の邪魔になる要素ばかりだ。たぶん士気も練度も低い。
「もうひとつ質問なんだけど、北部のなんだか魔導師同盟の長で、タサハックという名前に聞き覚えは? 顔が傷だらけの、魔導師というより剣士みたいな印象の男だ」
ミスネルはすぐに顔を上げた。
苦笑するような顔を見る限り、そこそこ名の通った男だったのだろう。
「その同盟というのは知りませんが、タサハックはタランタレンの魔導師団長だった人物です。“炎刃”タサハック。魔導師に剣を持たせて最強の兵士を作る、というような計画を進めていました」
「へえ。その計画は、成功したの?」
「いいえ。中隊規模の予算で生まれたのは分隊、戦闘能力もせいぜいが小隊規模、ということで連合の上層部と揉めて除隊させられました。その後は故郷に戻ったはずですが」
それだな。魔導剣士団とかいう連中は、面構えも態度もただの私兵集団だった。
宗旨替えしたにしても、なんでまた魔王をお迎えという発想になったのかがよくわからん。
「ヨシュア、頼まれておった車両の整備は済んでおるぞ。もう、いつでも行けるのじゃ」
「ありがとう、ミルリル」
「しかし、ふたりで大丈夫かのう? ……いや、嬢ちゃんとヨシュアなら心配ないか」
「ああ。その代わり、留守の間のことは爺さんたちとエルフに任せる。事前に必要なものがあれば、なんでもいってくれ」
「特にないのう。弾薬も工具も工業油脂も調達してもらった。食料や生活物資は、王国軍から奪ってきてもらったもんで、もう十分以上に賄える」
ハイマン爺さんのコメントは、事前に確認したエルフたちの意見と同じだった。
どのくらい掛かるかわからないが、不在の間は防衛も生活も不自由はなさそうだ。
「これは、驚くべき技術ですね」
工房の見学に来ていたメレルさんが、ドワーフたちの作業を興味深そうに見つめていた。
「わかりますか」
「詳しい機能や用途などは、もちろんわかりませんけれども、こんなにキレイに揃ったものは、生まれてこの方いっぺんも見たことがありません。皇国や王国を遥かに超えた水準にあるのは確かです」
あんまり翻訳されてない気がするけど、工業規格をいってるのかな。
目で見て手で叩いて出している手工芸品の直線と、工業製品のそれは違うと。手書きの線と定規で引いた線の違い、みたいなものだ。
「これは、わたしたちが乗せていただいたのと、少し違いますね?」
「俺のいた世界の乗り物で、マイクロバスといいます。こっちでいう、中型馬車みたいなものですね。前に見た2台はディーゼルという形式のエンジンなのですが、これはそれとは少し違う種類の、ガソリンという精製された油を燃やした力で走ります」
「でぃーぜる、と、がそりん……」
「説明がわかりにくくてすみません。こういう機械は専門ではないので」
工房の隅には、エンジン整備の練習用に購入した小排気量バイクが並んでいる。使い捨てるならともかく、じっくり弄り倒してもらうのだからと、部品精度や丈夫さ、整備性から日本製にしたのだ。ホンダの、たぶん日本では見たことのない車種だったけど、同型で何台か見つけてもらった。
いくつかは分解され修理や整備や研究の途中で止まっているので、一見するとどういう機械なのかわからない状態になのだが……
「これは……これも乗り物ですか?」
メレルさんはホンダと黒クマ号と交互に見て首を傾げる。
「そっちはバイクといいます。動力は、それもガソリンエンジン。ふたり乗りの、馬みたいなものですね」
「馬と同じくらいの速度が出るのですか?」
「いいや、そいつは馬の2倍は出るぞ。わしらが走らせたが、危うく飛んでくところじゃったわ」
「……馬の、2倍? こんな小さなものが?」
ハイマン爺さんの解説にメレルさんは目を白黒させている。
そこにあるのは安定の日本製とはいえ、ひと山いくらで買った古いバイク、それもオフロード用なので、そんなにスピードは出ない。高性能なバイクや車だと馬(時速40km前後)の4倍から5倍は出るのだが……この世界にそんな速度を出せるほど整備された道路もないし、そんな高性能車両を買う予定もない。
話がややこしくなるだけなので黙っておく。
「すごいものですね。わたしにも動かせますか?」
「動かすだけなら可能ですけど、けっこう危ないですよ?」
俺がそういうと、運動神経にはあまり自信がないのか、メレルさんはわかりやすく怯んだ。
同型式の空冷単気筒エンジンをいくつか分解して基礎的な構造を把握したことで、ドワーフたちの知識と経験は飛躍的に高まった。まだハンヴィーやスクールバスの巨大なディーゼルエンジンは無理だとしても、近いうちに黒クマ号の水冷4気筒ガソリンエンジンくらいは整備や修理が可能になりそうだ。
ディーゼル燃料の他に、ガソリンの入った密閉式携行缶も手に入れた。
追加給油用のいくつかを収納した以外は、危ないので教会地下の保管場所に収めてもらっている。そのうち大型の給油設備も必要になるかもしれないが、いまは20リットルずつ小分けにしてストックする方式にした。
燃料も弾薬も種類が増えてくなあ……管理や調達を考えるとあんま良くないんだろうけど、定期消費する訳でもなければ定期供給されるわけでもないし、利便性を無視してまで統一するのもどうかとは思う。
うむ、今後の課題だ(問題先送りともいう)。
「しかし、まさかヨシュアさんが商人とは思いませんでしたよ」
「実は商人と名乗れるほどの技術も経験もありませんが」
「いいえ、とんでもない。その手腕と人望でケースマイアンの民を率いて、3万の軍を破ったのですから、他国で小商いを重ねていただけのわたしとは比較になりませんよ。さすがは……」
「魔王じゃありませんからね」
「無論、承知しております」
絶対わかってないよな。このひとが承知しているのは“俺が魔王じゃないこと”ではなく、“俺が魔王であることを口止めされてること”の方だ。
「ところで、ヨシュアさん。王国経済が急速に傾いてるという話は、聞きましたか」
「いいえ。でも、内乱状態ですから当然じゃないですか?」
「そうなんですが、事態はもう少し深刻なようです。内乱が終息しても経済は回復しない、あるいは終息すらせず王国自体が亡びるのではないかとも噂されています」
皇国からケースマイアンに来たメレルさんが、なんで王国の台所事情を知ってるのか。俺の質問に彼は指先から淡い魔力光を発する。商人には魔力を使った独自の情報網があるのだとか。説明されても理解し切れなかったが、要はSNSみたいなもののようだ。情報には匿名性があるので真贋の判断は自己責任。駄法螺や市場操作目的の偽情報も多く、また悪意や嫉妬に満ちた場なので、下手に情報を流せば不利益をこうむる可能性も高い。
亜人の避難民を助けたいので所在を教えて、とかは無理そうだ。残念。
「それで、王国が滅びるのは戦争でも内乱でもなく、経済破綻で? なんでまた?」
「最も大きい原因はふたつ。ひとつは貨幣の流出ですね。なぜか王国市場から、かなり大量の金貨が消えています。銀貨で補完するにも足りないほどの量で、いまでは銀貨までもが枯渇気味なのだとか」
金・銀の流出か。うん、あったね。鎖国時代の日本でも問題になったとかならなかったとかいう話を本で読んだことはある。詳しくないから、流し読みだったけど。
でもそれ、俺がブラックマーケットに流した金貨がかなり影響してるんだろうな。王国は金本位制みたいだし。トータルで60から80リットル分くらいの金貨をサイモンに渡しちゃったもんな。容積換算だから、それがどれほどの量と影響力なのかは知らんし、そもそも知ったこっちゃないけど。
王国経済って、あんなもんで傾くのか。世界最強最大の国じゃなかったんか?
「あ」
……ヤバい。思い出したわ。
俺がサイモンに流した金貨はそのくらいだけど、俺が手に入れた金貨はそんなもんじゃない。未分類で収納されたままになっている金貨はその数倍はある。銀貨はさらに数倍。その他にも王宮で貴金属から王冠まで、ごっそり奪ってるしな。
「ヨシュアさん、どうされました?」
「……ど、ドウモ、シナイデス」
「?」
しかし、国の経済が傾くほどの金貨銀貨を持って、軍が蛮族の討伐に来るかね?
王がアホ、ってだけでは考えにくいんだけど。なんか他に目的でもあったのか?
「ヨシュア、メレル殿は“ふたつ”というておったであろう? 経済が傾いたのは貨幣流出だけが原因ではないのじゃ。むしろ、それは二次的な問題でしかないぞ」
「じゃあ俺は関係ないか」
「それこそ、おぬしのいう“そんなわけねーだろ”、なのじゃ。おぬしが当事者に決まっておろうが」
「……俺?」
首を傾げている俺に、ミルリルが苦笑する。
「おぬしは、ときどき賢いのか阿呆なのかわからんところがあるのう?」
ふと見るとドワーフの爺さんたちも休憩にするらしく、黒クマ号はさらに解体が進んだ姿で布が掛けられようとしていた。
「え? どういうこと? ……っていうか、また俺の考えを読んだ?」
「おぬしの考えは、みんな顔に出ておるのじゃ。それでよく商人が務まるのう?」
「いや、それはいいから。なにか教えてくれるんなら、続きをお願いしたいんだけど」
「王国軍は、3万の将兵が戻らなかったであろう?」
メレルさんの視線が、ついっとミルリルに向けられる。
顔は静かに笑っているが、その目は油断ならない商人のものだ。王国経済の衰退に関わっているであろう俺と、そこから発生した疑問を、氷解するようなミルリルのコメント。それは聞き逃せまい。
よくわからんけどミルリルを黙らせるべきか迷ったところで、それも顔に出ていたらしい。
「大丈夫じゃ。メレル殿はもう答えに至っておる。この御仁が求めているのは、答え合わせだけじゃ」
「はい。裏付けには至っておりませんでしたが、ケースマイアンに来て確信しました」
なんじゃー! ぜんぜんわからん! 俺だけ蚊帳の外みたいになってンぞ!?
「経済と戦死者……って、あ!」
「ほれ、おぬしも考えればわかるはずなのじゃ。思い至らなかったのは、おそらく考えたくなかったからであろう?」
そうかもしれない。わざと考えようとしなかったのかも。
知ったこっちゃねえ、とか無理に意識を棚上げして。
「3万の兵士が消えたら、その家族や一族や関係者が揃って食い扶持や働き手を失う。それに支えられていた人や商売や産業や地域経済ごと破綻する」
「その通りじゃ。幸か不幸か、今回は当該地域が王都だったわけじゃな。暗愚な王の統治とはいえ一国の政都にして商都。それは、傾きもするわ。おそらく、路頭に迷うた者どもの数は、死者の3倍から5倍にはなろう」
……そん、なに。
「ちなみに、恩給とかは?」
「なんじゃ、それは」
「職務で命を落とした兵士の家族に国から払うカネだよ」
「見舞金か。ないことはないが、多くて金貨が数枚じゃな。いまの有様ではそれも出るまい。だいたい、3万人の将兵遺族が食うに困らんだけ出せば、どんな大国でも破産するしのう」
「……ひでえな」
まあ、俺のせいなんだけどさ。
顔も知らない特に恨みもない、一般市民……かどうかは知らんけど、9万から15万の人生を狂わせたか。当然兵士の人生もそうだから、20万近い相手の。あるいは、それ以上の。
「王国の人口って、どのくらい?」
「さあのう、80万には届かんと思うが」
おう、王国民4人にひとりの人生を潰したか。
ぜんぜん、実感はない。
……待てよ、前に王国の総兵力20万とかいってなかったか?
戦時に徴兵される農民とかも含めるのかもしれんけど、4人にひとりが兵士って、ずいぶん歪な社会だな。
もしかしてこの世界、俺が思っている以上に文明化が進んでない……?
「加えて、おぬしが意識しておったかどうかはわからんが、輜重の馬車800両は全てが軍の所有ではない。王都近郊から根こそぎ掻き集めたものじゃ。その半分以上はケースマイアンで奪われるか壊されるかしたわけじゃな。それだけの馬車が消えると、流通も止まる。生産地から遠く大量の人口が消費するばかりの王都では、干上がるのもあっという間じゃ」
「……ああ」
「ようやく理解したか? いや、理解する気になったか? わらわたちが奪ったのは命やカネや物資だけではない。やつらの全部じゃ」
どよんと、腹の底に重いものが広がる。
俺を見るミルリルの視線は優しかったが、それに縋る気はない。そんなことは出来ない。
これは俺が、自分で決めた結果なんだから。
「……ふん、自業自得だろ。俺の身内に手を出す者には、そのくらいは当然の報いだ」
「まったく、おぬしは……いい加減その“守るべき者”に自分も入れんか、阿呆」
メレルさんは、感心したような納得したような笑顔になっていた。
「さすが鍛冶王カジネイル様のご息女、ご慧眼でいらっしゃる」
「褒めてくれるのは結構じゃが、父の名は出さんでいただきたいのう?」
「え? 王様?」
「勘違いするでないぞヨシュア、ケースマイアンは、いまも昔も王政ではない。鍛冶王というのは、立派な鍛冶師の称号みたいなものじゃ。わらわの父は一介の鍛冶師として国を支え、民を救おうとした。……ただの、頑固な職人じゃ」
ミルリルがえらいひとの娘なのは事実だけど、想像していたのとは、ちょっと方向性は違っていたようだ。貴族か王族かと思ってた。でもまあ、たしかにケースマイアンには、そんなのいないみたいだしな。
「わたしが皇国で聞いた話によれば、ケースマイアンでの大敗戦が伝えられた後、サリアントの王は大量の兵や物資や貨幣が奪われた失われた原因を、“魔王降臨による災禍”と発表したようです」
「……ほう? その愚王にしては天晴じゃ。もしくは、“嘘から出た真実”、というやつじゃな?」
やめてミルリルさん、ぜんぜん天晴じゃないし、だいたい真実でもないから。
しかし、“亜人の残党に殲滅された”よりはマシかもしれんけど……それ、いっちゃダメなんじゃないの? 逆に厭戦感情、つうかパニックになんだろ。
「とはいえ、愚王にとっては自殺行為じゃな」
「ええ。民にも貴族にも、いくぶん受け入れやすく、外敵に対して団結を促す効果があるとでも思ったのかもしれませんが、結果的には完全に裏目に出ました」
王家の……あるいは、勇者たちの影響力を過信していたのかもな。
勇者、死んだけど。内乱と皇国の進攻が行われているなかで、賢者と聖女はどうなったやら……。
「皇国軍で拘束されていた間に耳にした情報では、どうやら王国はいま、3つの勢力、地域に分断しているようです。王都を落ち延びた王と王妃、それと賢者と聖女を中心にした“王族派”、内乱を主導した叛乱軍の“ルモア公爵派”、そして国外勢力、特に皇国と手を結んで生き残りを図る“皇国派”です」
「諸部族連合は……ああ、そういうことじゃな」
「彼らは、降臨した魔王を自分たちの支配圏拡大に利用しようと考えています。あるいは、本当に魔王の配下にでもなるつもりなのかもしれませんね」
ふたりして俺を見るな。知らんし。いやマジで、やめてくださいお願いします。
俺は小金を稼いで早期リタイアして可愛い“のじゃロリ”と静かに暮らしたいだけなんです。
「いよいよ、おぬしの出番じゃな。いまこそ諸部族連合領に乗り込んで、魔王の覇権が始まったと勇名を轟かせてくれようぞ!」
「絶対イヤや!」




