406(閑話):遥かな楽園
(´・ω・`)
うん、「また」閑話なんだ。済まない。
でもたぶん明日から急展開になる(なんも考えてないけど)
そして飛行型騎乗ゴーレムに乗った主人公が新宿上空で空自のF 15と空中戦することになるから楽しみにしていて欲しい(嘘
必要最低限のさらにその下、というより他ない人数での操艦でありながらも案外あっさり埠頭に接岸した、我らがケースマイアン海軍のフリゲート。城塞に残っていた皇国軍戦力の無力化を果たした後、俺とミルリルは軽食を取りながらケースマイアン技術陣と今後の計画を話す。
「それじゃ、基本は臨機応変で問題あれば連絡だな」
「それは無計画というのではないかの?」
「ヨシュア、毎回わりとそんな感じだよね」
ミルリルとリンコ艦長からユルいツッコミが入る。お爺ちゃんズは、こちらをそっちのけでケースマイアンの開発計画を話し合っていた。
「そうはいうが、あの立地では開発の余地などないではないか?」
「大丈夫じゃ。暗黒の森の樹木伐採と開墾で、三倍までは行ける」
「全然、大丈夫じゃないわい。そんなに面積が必要なほど人口もおらん」
「面積はともかく、開発の余地がなくなってきておるのは確かじゃの」
いったい何をどれだけ作ったのかとリンコに訊いてみれば、呆れるほどの答えがサラッと返ってきた。
「地上効果翼機は見せたよね。あと高層住宅に居住者用エレベーターとエスカレーター、飛行船に観測気球に動力付きグライダー、雪上車とロープウェイと狭軌鉄道、露天風呂と車両給油施設、あと蒸留釜?」
聞いてるのも聞いてないのもあるけど、相変わらずビックリするほど無秩序で膨大で手当たり次第である。
「……あ、ちょっと待って。いま、蒸留釜っていった?」
ウィスキーとかウォッカとか、サイモンから仕入れた蒸留酒が共和国で評判になっていることはミルリル経由で伝えてもらってある。春以降に大規模な商業生産を考えたいともいった。それが、すでに試験運用されてるってことか?
「蒸留釜の稼働は、一日に三から四リットルくらいかな。一月一ロットが、だいたい大樽ひとつ、いま四ロットまで生産が済んで、順次エルフの魔力による熟成に入ってる」
「えええぇ……」
ぜんッぜん、試験運用じゃなかった。そもそも数字がおかしい。ガチで商業生産されてる。
大樽ってことは、たしか百二十リッター。かける四で……四百八十リッター?
「管理しやすいように、熟成は小樽に移し替えて行ってる。五リッターと十リッターの二本立てで、長期熟成が十リッターね」
なにそれ。そんな大量の樽、ケースマイアンのどこで熟成してるの?
「備蓄倉庫は手狭になったんで、専用の熟成倉庫兼貯蔵庫を建てたの。消費した分を差し引いても三百リッター以上はある。今後は増産も検討中」
いやいやいや……それも数字がおかしいだろ。そら作った功労者たちが自分で楽しむ分には全然かまわんけど、蒸留酒を二百リッター近くも飲むって……スゲエなドワーフ。
「ちなみに、どんな酒?」
「ひとつは食用に向かない野生種の芋デンプンを使った、無味無臭に近いウォッカみたいなの。もうひとつが雪麦っていう雑穀を使ったアルコールを、焦がした木樽に詰めたウィスキーっぽいの。サンプルなら……ええと、どこだっけ」
「艦長の私物なら後ろの木箱です」
話が耳に入ったらしい操舵担当のクマ獣人が、リンコを振り返って指示を出す。
「ああ、これこれ」
木箱を開けたリンコは、酒瓶らしきものを持って戻ってくる。コルクっぽいもので栓をした、手焼きの瓶みたいのがふたつ。沖縄泡盛の古酒でも入ってそうな、雰囲気のあるパッケージ。もしかして、もう商品化を考えてる?
「これがケースマイアン特製の蒸留酒」
あんま酒が強くないので、焦がし木樽で熟成したって方を少しだけ注いでもらって舐める程度に味見。
「あ、美味い」
「でしょ?」
香りは、ほぼウィスキー。甘くて香ばしい香りだけど、焦げた樽の薫香がちょいキツいか。そのあたりは、これから馴染むのかな。商品として考えても、けっこう悪くない気がする。
「口当たりが良くて鼻に抜ける香りがシンプルだ。なんていうの? 詳しくないんだけど、シングルモルトみたいな?」
「うん。ていうか、ぼくも飲めないからわかんないけど」
酒の話は、ドワーフお爺ちゃんズに希望だけ伝えて詳細は丸投げしよう。生活必需品ではないし、代替品の購入ができないわけでもない。いろんな意味で、必須ではないのだ。少なくともドワーフ以外にとっては。
「とりあえず酒の話は措いといて、最優先事項は確保した海岸城塞とケースマイアンを繋ぐ交通路の確保だ」
さすがに暗黒の森を突っ切って三百哩(四百八十キロ)とか馬橇やら車両で行き来するのは現実的じゃない。現実的なところでは飛行船かな。
そのあたりを確認すると、リンコとハイマン爺さん、カレッタ爺さんが目を見合わせる。
「……うん、そうだね」
「待てリンコ、何だその微妙な間は」
「もうちょっと待ってくれたら、高速鉄道か魔導砲の応用でリニアモーターカーをね、開発できると思うんだ」
「う、うん……?」
正直、不安だ。俺がサイモンから航空機を購入しなかったのは、整備や運用の条件が厳しいのも当然あったけれども、最大の問題は小さな事故でも死に直結するからだ。その危険性は、車や船やホバークラフトの比ではない。
高速鉄道やリニアモーターカーも、航空機ほどではないにせよ似たような問題を抱えている。
「低速で安全性優先のものから始めて欲しいな」
「それは、もうできてる」
できてんのかよ。さっき聞いた“狭軌鉄道”てのがそれか。ミルリルに目をやると、資料か映像かを見たらしい彼女は肯定の意思を持って頷く。ナローゲージっていうから勝手にトロッコの親戚くらいのをイメージしてたけど、もしかしてかなりガチな鉄道なのかしらん。
「低速鉄道は試験運用なこともあって地面に近い位置にレール敷設したけど、高速化する場合は安全性確保のために高架化か地下化を考えてる」
「地下……って、簡単にいうけどさ」
「そこは大丈夫。最近ケースマイアンに土魔法の専門家が加わったんだ。ドワーフの兄弟で、土木と建築のエキスパートだよ。彼らを中心に、エルフとドワーフの合同研究チームも立ち上げた」
なんか、スゲーなケースマイアン。もうホントに魔都だよ、魔都。
「むしろ、最も難航しているのが武器や兵器の開発だね」
「いまの在庫以外で、なんか要るものがあるのか?」
「いや、ない……んだけど、問題はそこだよ。不満も不足もないんだけど、それが技術発展の足を引っ張ってる。技術者たちは、ヨシュアの買ってくれたものに頼り切り、っていう状況をどうにかできないかと試行錯誤してるんだけどね。あんまり上手くいってない」
それはそれは。もちろん余裕があって意欲があるなら進めてもらって全然、構わないんだけど。
「例えば、これ。ちょっと見てくれる?」
「弾薬? こっちが30ー06で、こっちが14.5ミリかな」
「そう。銃器の新造や改造も、他の武器兵器の開発も進めてはいるんだけど、それとは別に考えたのが“魔導弾”。現在の完成度は八割ほどで、試射も済ませて実戦での使用に耐えられることは確認した。あとは唯一の問題を解決するだけなんだよね」
「ほう、すごいな。魔導弾って……着弾すると魔法効果がある?」
「もちろん。弾頭に刻まれた起動魔法陣が、衝撃を受けると弾頭内部の小型魔法陣に魔力信号を送る。機関砲弾の魔法版だよ。しかもこれ、推進も魔法で行うんだ」
「すげえ!」
俺は驚いて、思わず声を上げる。ドワーフの冶金技術とエルフの魔法技術、そしてリンコの現代科学技術が統合されて、ケースマイアン特製弾薬が完成した、というわけだ。……けど、あれ?
「威力は通常30ー06弾の二・八倍。同じ技術を注ぎ込めばシモノフの弾薬を最大三・四倍にまで引き上げることも可能。推進力の七割以上が火薬の燃焼によるものではないから薬莢の膨張も許容範囲、薬室や銃身に対する負荷も通常弾程度に押さえられている。これはまさに、夢の弾薬!」
「わかった」
「わかってくれた? いまので? 本当に?」
「リンコがそこまで饒舌になるってことは、実用に至らないだけの大問題があるってことだな?」
「「「一瞬でバレた!?」」」
ドワーフお爺ちゃんズとリンコは声を揃えるけど、そらバレるわ。だいたい、魔法で打ち出して魔法でダメージ与えるなら銃である必要ないじゃん。むしろ小型の薬莢や弾頭に刻むことで無駄に難易度と作業コスト上げてんじゃん。“あとは唯一の問題を解決するだけ”とかいってたけど、逆だ。たぶん、最大の問題を解消できてない。
「なるほど」
同じく技術者であるミルリルは、弾薬を見てすぐ納得して苦笑を浮かべる。
「これは一発ずつに極小魔法陣と特殊装薬を使っておる。生産には高位魔導師の技術と管理が必要。それも専属雇用し続けなくては、まともに生産できないレベルで、じゃな」
「ああ……うん、正解」
「うむ、わかるぞ。これは誰もが辿る道じゃ。まがりなりにも開発に成功したのは褒めるべき大成果じゃがのう。リンコはともかくドワーフの職人であれば、“魔導加速砲”のアホらしさは身に沁みておるであろうが。ヨシュアの力に頼らんとしたら、リンコの“青銅砲”が最良の妥協策、ある意味の“最適解”なんじゃ」
ミルリルが呆れ顔で爺ちゃんズを見る。
「「「……ぐぬぬ」」」
なんかその話はミルリルに聞いた気がする。“龍に芸を仕込む”だっけ。能力やら技術やらの壮絶な無駄遣い。この世界での大砲は、その代表例だとか何だとか。ああ、聞いたな。ミルリルが開発を諦めた理由。
「ちなみに……この弾薬、一発の生産コストいくらだ」
リンコと爺ちゃんズは盛大に目を泳がせた後、視線を逸らしながらボソッと告げる。
「…………30ー06で金貨四枚、シモノフの弾丸だと、たぶん十二枚くらい」
「おい」
四万円の小銃弾て。性能三倍弱とはいっても、そんなん要らんし。対物ライフル弾が一発十二万円なんて論外。そんだけの威力なら二十ミリの対物ライフルとか買った方が早いし、そんだけカネ払うならサイモンに頼んだら対戦車ミサイル買えるわ。
「却下」
「「「ええええぇ~!」」」
「この世界で、少なくともケースマイアンで必要なのはワンオフの高性能・高価格品じゃなくて、安くて扱いやすくて丈夫で長持ちな普及品なんだってば」
「うーん、わかってはいるんだけどねー」
高性能の追及は息抜きというか、技術者の性なんだろうな。ケースマイアンの技術陣も、環境開発やら他の技術開発に関しては、ちゃんとやってくれてたもんな。俺だってオタの端くれではある。そういう心情を理解しないわけではないのだ。技術馬鹿な皆には世話になるのだから、ある程度ならギブ&テイクな部分はある。
そこを伝えて、最後に釘を刺す。
「技術開発部門の長には、ハイマン爺さん。その管理の下でなら、年度ごとに一定の開発資金と素材を援助するよ」
「「「やったー!」」」
「……ああ、うん。ほどほどにね」




