402:新たな勢力
近況とか銃器資料アップしたりとか
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建物からは、スールーズの女性と子供が十五名、連れ出されてきた。見たところ、憔悴してはいるものの怪我や虐待を受けたり体力的に衰弱している様子はない。
「……これで、全部だ」
両手を挙げた皇国軍の兵士たちが五名、その後に続いてくる。先に外へ出ていた九名と合わせて十四名。この建物を守る部隊の指揮官らしき口髭の中年男が俺たちの前に立つ。従兵と思われる若い男が抱えていた剣と魔術短杖の束を置く。事前に各員が武器を手放しているが、魔法使いのいる戦場では武装解除の様式として必要なのだろう。
「こちらは条件を呑んだ。上階にある隠蔽魔法陣は、機能を停止した。全員の武装も解除した」
指揮官らしき男の言葉に、ミルリルが俺を見て頷く。
「効果解除は確認しておる。屋内に残った人員も、おらんようじゃの」
「これで、我らの安全は保証してくれるのだろうな」
「わらわたちは、敵対してもおらん相手を殺したりはせん。どこへでも逃げ落ちるが良いぞ」
十四名の兵士たちはそれぞれ迷い、目を見合わす。
「ゆ、猶予は」
「ここは、もうすぐ皇国領ではなくなる。いま俺たちが手を出さなくても、皇国軍として残れば、戦闘に巻き込まれるぞ」
「軍籍を抜けて民として暮らすのであれば、わらわたちと対立することもあるまいがの」
督戦というのか、城塞都市からの脱出を阻止していた湾内の砲艦は撃沈したことを伝える。
「……」
再び目を見合わせてなにやら相談し始めた。船出を考えているようだけど、行く先があるのかどうかは知らない。そもそも冬の海に漕ぎ出せる船があるのかも。
「それでは、皆さんこちらへ」
俺が毛布の上に転移魔法の術式巻物を置き、スールーズの老若男女を誘導する。孤児だという子供たちも五人いるが、彼らは警戒しているようなので後回しだ。警戒しているのはスールーズのひとらも一緒だけど。
「出たぞ」
ミルリルが通信機を持ってスールーズの前に立つ。
“みな、いるか。魔王と魔王妃に、粗相、ないようにな”
「ルーイー?」
“そう。我ら、沖の船にいる。そこから、スクロールで、こちらに送ってもらう”
なんとなく納得してくれたみたいなんで、俺は転移魔法の術式巻物を示す。
「ここで順に転移させる。三人ずつ行うから、そっちに並んでくれるかな」
“魔王、急いで。西で、戦闘”
「西?」
「エルケル侯爵と落ち合うはずだったところじゃの。リンコ、“どろ〜ん”は飛ばせるかの」
“もう飛んでる。ちょっと待って”
なんとなく嫌な予感がして、俺は救出者の転送を急ぐ。こちらの緊迫感を察して抵抗するひとはいない。サクサク進めて最後の最後に孤児の子たち。不安そうに手を取り合い震えてる彼らの頭を撫でてキャンディーの大袋を渡す。
「甘いお菓子だ。向こうで食べな」
転送を済ませたところで、通信機からリンコの声が聞こえてきた。
“うーん、侯爵は無事だけど……なんかおかしなことになってるね”
「それはわかってるよ。どうおかしいのか教えてくれ」
“皇国軍の魔導師十数人と、どこかの魔導師が戦ってる。多勢に無勢なのに、えらい勢いで蹂躙してるみたいだね”
「すぐに向かう。そいつら、何か目印は?」
“赤いマント”
「うぇ?」
俺とミルリルは視線を合わせて首を振った。それは共和国首都近郊で怖れられている偏屈魔導師集団。
「……魔導窟の連中だ」




