400:静寂の街
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「ヨシュア殿、わたしは少し気になることがあるので先に行く。一番奥にある、西側の建物で合流しよう」
「わかりました。護衛はなくて大丈夫ですか?」
「貴殿らほどではないが、これでも自分の身は守れる。念のため、これを渡しておく」
エルケル侯爵は俺に転移魔法の術式巻物を渡して、城壁から飛び降りる。
あれ、飛ばんの? と思って覗き込むと、ひょいひょいと屋根を縫って飛んでいく姿が見えた。有翼族ほどではないが、けっこう機動性もあり速度も速い。チビッ子エルフのヒエルマーも低空を飛んでたけど……
「もしかして魔法での飛行って、高度が取れないのかな」
「高く飛べば、それだけ魔力を消費するのじゃ。しかし、侯爵の低空飛行は目立たんためじゃな。敵地であれば、矢でも射られかねんしのう」
なるほど。元いた世界で軍用機が行う地形追随飛行みたいなもんかね。
「城壁内に、敵兵は配置されてる?」
「いいや、見たところ敵影はなしじゃ。市井の者たちの姿もないのう」
あれだけの砲声が轟いた後で街の中心にある城で塔が吹き飛ばされたとなれば、ふつうは逃げるか隠れるかしかない。そして、いまこの街の人間に逃げる先はないのだ。
「ミルリル、これを頼む」
ミードの祀られた――というか取り憑いたというか――“血盟誓約の剣”を、ミルリルの携行袋に入れてもらう。試しに俺の収納に入れてみたら、声も気配も消えてしまったためだ。いまミードは背負い袋から少し浮いた感じで空中に寝そべっている。
緊張感ねえな。
「兄さん、気を付けてくれ。白壁の建物はたぶん、軍の施設だ」
「わかってる」
いまいる城壁上の砲台は海に面していて、街の中心から見ると東側だ。エルケル侯爵のいってた、“魔力を搾取されているひとたち”のいる建物は北・西・南の三か所。ミルリルとミードの意見を聞いて、最も近い北側の建物から調べることにした。
「砲台に魔力を送るのは、まあ良いわ。しかし、なんであんなに離れた場所からなんじゃ」
「さあ」
「しかも、なんでそれをいっぺん街の中央に集める。真っ直ぐ砲台に送れば良かろうが?」
それもそうだ。なんか理由があんのかね。元いた世界でいう、発電所から変電所を経由するみたいな。
この世界の人間ではない俺やミードは魔法についてイマイチわかってないし、エンジニアであるミルリルから見ても長距離の魔力送出は減衰するので効率的ではないとのこと。
「そもそも、遠くから送って問題ないなら砲の内部にひとを詰める必要もなかろう……む?」
もしかしたら話が逆かの、とミルリルさんは陰鬱な顔をする。
「逆って、つまり……」
「最初は離れた位置にある供給源から魔力を送っておったが、上手く届かんか効率が上がらんかで、砲台に直接“魔力供給源”を詰め込むことになった……とかじゃな」
あり得るかも。そして、嫌な予感がする。具体的にいえば、非効率や技術力や知能の不足を資源浪費で補う未開な解決法。その場合、以前の供給導線を生かしておくか?
皇都では。皇帝の命令でやったか家臣が独断でやったかは知らんが、一般市民は勇者を異世界から召喚するエネルギーになったっぽい。ここでも同様の行為が行われていた可能性はあるし、どのみち“ケースマイアンの魔王”として開城させるなら内情の把握は必要になる。
「俺たちが欲しいのは港であって街じゃないんだけどな。これ、共和国か王国に丸投げした方が良くないかな?」
ちらりと俺を見たミルリルは、曇らせた顔で頷く。
「……同感じゃ。まあ、投げられるものがあれば、じゃがの」




