399:延焼する砦
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「おつかれ、リンコ艦長。少し街の様子を見てくるので、そこで待っていてもらえるかな」
“了解”
「さて、エルケル侯爵。わたしたちは城塞内の偵察に行ってきますが」
「差し支えなければ、わたしも行きたいところだな。移動は自分で行えるので、そちらの足手まといにはならない」
そうか、侯爵は飛べるんだっけ。点と点を結ぶしかない転移よりも、上空偵察とかも可能な飛行魔法の方が使い勝手が良いような気はする。たぶん、俺には扱えないんだろうけど。
「それは、王国の為政者としてかのう?」
「そうだな。魔王領ケースマイアンの飛地になるか、共和国の統治になるか、自由貿易港になるか、共同統治になるか。干渉も妨害もする気は無いが、いずれにせよ王国にとっても経緯を見守るべき要所だ」
ミルリルは頷く。
「すべては魔王陛下のお心のままじゃ」
「いや、そこで俺に振らないで。ケースマイアンに海岸線を必要としてるのは俺じゃないしさ」
ケースマイアンからは、間に魔獣の棲息域である“暗黒の森”を挟んで三百哩。四百八十キロだかあるので、このままでは使いにくいのだ。というか、無理だな。飛地というにも遠すぎて運用ができない。
「現在ここを制圧している最大勢力がどこかにもよるがのう」
どこからか咳払いがあって、侯爵の懐でモジモジするものがあった。
「ああ、すまない。忘れていたが、これを預かっていた」
侯爵が手渡してきたのは、スールーズがミードを祀った“血盟誓約の剣”。
「何か訴えているようなので、貴殿らに渡して欲しいとルーイー殿から頼まれたのだ」
そっか。俺以外のひとたちにもミードを可視化させる術式巻物は俺が持ってきちゃってるしな。
それはわかるけど、幽霊とはいえ女性の胸元に突っ込まれるというのも、どうなんだ。剣を渡されると俺にしか見えないであろうハゲたオッサンの幽霊が姿を見せるが、激しく照れてるし。
「どしたミード。スールーズの連中は助けたぞ」
「ああ。ありがとうよ、兄さん。頼り切りで心苦しいとこなんだけどな」
「いまさらだ。なんかあるなら、いってくれ」
「砲台内に詰め込まれてた半分くらいに妙な感覚がある。どこかに、紐付いてるみたいな」
“魔導圧縮砲”ってのがどういうものかは字ヅラでしか知らないけど、集めた魔力を弾頭にするもんなんだろう。そのための供給源としてスールーズの三十二人が魔法陣の上に拘束されてた。その生贄に何か紐付いてるとなると、考えるまでもない。
「バックアップの外部電源か。電気じゃないけどさ」
「ヨシュア、どうしたんじゃ」
俺はミルリルと侯爵に、ミードから聞いた内容を簡単に説明する。
「ミード、その……砲台以外で捕まってるひとたちの居場所はわかるか」
「大まかにならな。そこに」
「おい!」
フリゲートからの砲撃で倒壊した塔を指さされて血の気が引く。
「大丈夫だ、兄さん。あの建物にはいねえよ。あそこに繋がってるってだけだ」
それを伝えると、エルケル侯爵が納得したように頷く。
「そういうことか。あの建物を中心にした魔力の流れがある。どうやら集めた魔力を魔導圧縮砲に送る仕掛けがあったようだな」
侯爵が指したのは、城壁近くに配置された白壁の建物。北と南と西の三箇所。そこから中心に集められて、東側にある砲台に送られるということか。
「まずいな。わたしの瑕疵だが、スールーズの者たちに繋がっていた魔力の流れを、船への送出前に遮断してしまった。その“紐付いている”者たちを管理している人間に、砲台内のスールーズが奪い取られたことは露呈してしまった」
「なるほど。しかし、いまさらじゃな。城塞中央の尖塔を吹き飛ばしておいて、敵襲以外のなにものでもないわ」
俺も笑って、ミードに声を掛ける。
「さて、どこから先に行く?」
「助けてくれるのか?」
「当たり前だろ。これはもう、魔王の戦争だ」




