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【完結&書籍化】スキル『市場』で異世界から繋がったのは地球のブラックマーケットでした  作者: 石和¥
8:帰るべき場所

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394/422

394:アルバイトの神罰

“一番砲は左砲座、二番砲は右砲座……”

「待って!」

 息()き切って艦橋に駆け込んできたのは、スールーズの魔導師少女ルーイー。その後ろには、なんでか名前以外は全然似てない“吶喊(バトルクライ)の脳筋ガール、ルイが一緒だ。そのまた後ろに少し遅れて、ちょっと眠そうな顔のエルケル侯爵を連れた寝間着姿のエイノさん。

「なんだ、どうしたみんなして」

「あたしたちは、ついで(・・・)だ。ルーイーが、艦橋(ここ)の行き方を訊いてたみたいだから案内にな」

「ミード様、ダメって!」

「へ?」

 ルーイーの必死な訴えに、リンコが即座に反応した。

「カレッタ爺ちゃん、砲撃中止!」

“了解じゃ。なにか問題か?”

「たぶん。ぼくもわかんないけど。敵砲台の射程外、距離二千で右に回頭、停止する。ハイマン爺ちゃん、機関そのまま」

“了解じゃ”

 集まってきたのは女性ばかりだが、ルーイーが何やら助けを求めて女性用寝室に飛び込んできた結果なのだそうな。ちなみにエルケル侯爵は巻き込まれたばかりで、まだ状況を理解していないっぽい。

「ミード、様の……声が、何か、伝えようと、されて」

「ぬ? ミードは、おらんようじゃが……?」

「いや、みんなには見えてないようだけど、いるよ」

 ルイが魔力可視化の術式巻物(スクロール)と木箱を抱えて走ってきたせいで――幽霊なのにどういう理屈でそうなるのかイマイチよくわからんけど――途中で激しく振り回されたらしく、床に手足をついてグッタリしている。

 そういやこの禿げた中年幽霊をスールーズの村まで運ぶのが発端だったな。途中からフリゲートやら船旅に興味が逸れて、目的を見失いかけてた。

「すまないが、それを貸してくれ」

 ちょっと寝癖のあるエルケル公爵がルイから巻物を受け取って、床に広げる。木箱を置いたところで魔術短杖(ワンド)がないのに気付いたようだが、そのまま直接指で魔法陣に触れる。魔力を注ぎ込むと光が瞬いて、木箱の上にミードの姿がクッキリと現れた。

 みんなにも見えるようになったみたいだけど、四つん這いでヘロヘロな状態は変わらんのね。

「ミード様、どうされた、ですか⁉︎」

「……これは、お前らがブンブン振るから……いや、それはいいや。それより兄さん、頼みが」

「砲撃は中止したぞ。それのことをいってるんなら」

「ああ、それだ。助かった。でも、まだ……」

 よろけながら立ち上がったミードを見て、俺は心のなかで密かに呆れる。もう身体もないのに、なんで三半規管にダメージ負うんだよ。幽霊なんだから、勝手に飛んだり消えたり現れたりすりゃいいものを、ずいぶんと不自由な常識に囚われているな。

 そんな俺の心の声をよそに、ミードは必死に訴える。

「ああ……くそッ、あの砦な、上にあるあれ、あそこにスールーズが捕まってる」

「え? なんでわかるんだ?」

 思わずミルリルを見るが、彼女は首を振った。さすがに砲台の状況までは視認できていないようだ。となると、ミードはどうやって知った?

 当の幽霊は苦しげな顔で俺を見て、ルーイーを見て、また俺を見る。いや、何なん?

「助けを、求めてるんだ。大勢が、俺に。……ずっと」

「いま捕まってるから、助けてくれって?」

「……いや、そうじゃない。あれは……あいつらの」

祈り(・・)

 いまもその声が聞こえているのか、苦悩しているミードの言葉をルーイーが引き取る。ミードは彼女の言葉に、ビクリと身を強張らせた。

「な……なんで、俺に」

「スールーズ、嬉しいとき、良き(かて)を得たとき、祭壇に、ミード様に感謝し、長き幸せを願う。困ったとき、苦しいとき、救いを求め、良き従僕(しもべ)でなかったことに、許しを、乞う」

「……やめてくれ。俺は神様じゃねえ」

「その話は後じゃ。いま救いを求めておる理由(・・)を知るのが先であろうが」

「そうだな。リンコ、その皇国軍の何だか砲ってのは、どういうものなんだ?」

「“魔導圧縮砲”……ぼくも名前と概要だけ、それも伝聞でしか知らないけど。魔力を充填する大砲みたいなものだと思う」

 ルーイーが、唇を噛み締める。

 何かを察した――もしくは彼にだけは何かが聞こえたのか――ミードが苦しそうに頭を振った。

「……スールーズ、魔力、高い」

「それで十分じゃ。リンコ、砦への攻撃はしばし待て。ヨシュア」

「おう」

 俺が両手を広げると、ミルリルがするりとそこに滑り込んだ。いつも安定のお姫様抱っこで、俺たちは艦橋から外に出る。砦の上までは二キロくらいあるとか、いってた気がする。この距離で俺の視力だと着地地点が目視できん。まあ、いいか。

「ちょっと待ってるが良い。わらわたちが、皇国軍のクズどもにお仕置きを喰らわしてきてやるのでな」

 魔王は、少しお休み。ここは他人のフンドシで相撲を取るか。どのみち、あの港湾都市はケースマイアンが接収する予定なのだ。

「ああ、ヤツらも罪の重さを思い知るだろうさ。ミード様の(・・・・・)、無慈悲な鉄槌でな」

 なんともいえない顔でこちらを見るミードに手を振って、俺たちは港湾城塞の上空に長距離転移した。

挿絵(By みてみん)

オーバーラップノベルスから発売中。

ご購入いただいた皆さん、ありがとうございます!

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