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【完結&書籍化】スキル『市場』で異世界から繋がったのは地球のブラックマーケットでした  作者: 石和¥
8:帰るべき場所

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380(閑話):想いと烙印

 その印に気付いたのは、旅の途中だった。

 食事の後の休憩のとき、キャスパーの後部コンパートメントでミルリルは銃器を分解清掃していた。フンフンとご機嫌そうに鼻歌を歌いながら、使用済みの銃器は順番に分解され清掃され点検され組み上げられる。軽機関銃から拳銃まで、次々と麻布の上に広げられてはあっという間にピカピカになって元の形に戻ってゆく。最初に出会った頃、拳銃を分解したはいいが組み上げられなくなったという微笑ましい思い出も今は昔。作業を進めるミルリルの手は早過ぎて、俺にはもう目で追うことも難しい。

「工具は足りてる?」

「うむ、万全じゃ。それにしても、この“だぶるでー”というのは、ほとんど魔法じゃのう」

 だぶるでー、というのはミルリル愛用のスプレー式防錆潤滑剤、WD-40である。俺なんかはクセでCRCと呼んでしまうが、日本製のそれをサイモンから調達できるはずもなく(できなくはないのかもしれんけど、意味がない)。ほぼ同じような潤滑剤であるWD-40を大量購入して、ケースマイアンのドワーフ技術陣にも使ってもらっている。これが使いやすくて高機能だと大好評のようなのだ。何本かは工具ごと収納に確保してあるので、ミルリルにいわれたら出すようにしてる。

 ちなみに、ケースマイアンのドワーフ技術陣の間で工具類はアメリカ製MACツール派とドイツ製ハゼット派で分かれているらしい。俺にも意見を求められたが、エンジニアとしての能力もセンスもない俺には違いがわからん。インチ工具とミリ工具、という軽い考えで(サイモンに勧められるがまま)冷蔵庫くらいあるツールボックスで買ったのは覚えてるけど、工具箱の色が赤と青で違ってた、くらいしか記憶にない。

「移動は少し待ってくれんか、もうちょっと掛かるのでな」

 ドワーフとしての習い性なのか、彼女は銃をこまめに整備し、清掃し、磨き上げる。まあ、銃に限らずだが。エンジニアの性質として、何事も“キチンとしてる”のが好きなのだろう。綺麗に揃った数字とか、理に適った事象とか、あるべき姿を保った状態とか。

 万全に機能するよう整備され美しく磨かれた機械、というのもそのひとつだ。

「いや、急がなくて良いよ。たまには俺も自分で整備しようと思ってさ」

 個人的に使用しているのが無骨で頑丈なAKMなので手を抜きがちだけれども、当然ながらメンテナンスフリーなどではない。他の武器やら機械類はほとんどミルリル任せなのだから、自分の銃くらい自分で整備せねば……

「ん?」

 分解整備が済み、愛でるように磨き上げられていたM1911コピー(スター・モデルP)のフレームとスライドに見慣れないマークがあるのに気付いた。

「ねえ、これミルリルのマーク?」

「ああ……うむ。ある意味、そのようなものじゃな」

 ということは、厳密には違うと。日本のJISマークに似てるけど、よく見ると細かい線が入ってる。

「これ、魔法陣?」

「そうじゃ。愛しの“すたー”を守るためのな」

「守る?」

 詳しく聞くと、それは状態維持のための魔法陣なのだとか。

「“すたー”には、大元の設計があるのじゃろう? あの、“しゃんしー”やら“あすとら”に似ておる」

 中国製やらスペイン製の、モーゼルミリタリーのヴァリアントね。細部がちぐはぐなところとか、エンジニアから見るとオリジナルではないのが一目瞭然なのだとか。

「この“すたー”も、同じように迷いがあるのじゃ。発射機構に、何ぞ自分なりの改変をしようとしたようじゃ。その目論見は、結果として銃の構造に歪みとして出ておる」

「発射機構……その辺の時代と国情からして、多弾倉化とか全自動射撃(フルオート)化あたりかな」

「そうかもしれんのう。あり得る話じゃ」

 ミルリルが頷く。

「それと、もうひとつの問題は、素材じゃな」

「もしかして、鉄の質が悪い?」

「良いところも悪いところもあるのう。要するに、鋼材の品質にバラつきがあるのじゃ。これは、いくつかの異なる銃から部材を集めて組み直しておるのではないか? その一部が、かなりくたびれた音を立てておる」

 ああ、ケースマイアンの技術陣を率いるハイマン爺さんが、金属疲労を音で判断していたな。

「とはいえ、ヨシュアからもらった宝物じゃ。あまり大きく変更や改造で手を加えたくないのでな。最低限でも支えようと、構造強化と組成固定を掛けたんじゃ」

 それが……このJISマークみたいな魔法陣ね。どれだけの効果があるのかまで俺にはわからないけど、“俺からもらった銃だから”と大事にしてくれてるのを見ると嬉しい。

「ありがとう」

 どう気持ちを伝えたらいいのか迷った俺は、素直にお礼をいうことにした。

「礼をいわねばならんのは、こちらじゃ。“すたー”こそが全ての始まりなのじゃからの。これは……いうてみれば、ひとつの神器じゃ!」

「え」


 知らんうちに、ずいぶん出世したな、スター。しかし、三千ドルの神器て、それはそれで、どうなの。

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