379:朝飯前の地獄
「喜べおぬしら、朝食は地龍が喰い放題じゃ♪」
屋敷に戻って第一声がそれですか。
「「「「冗談じゃねえ!!」」」」
「お前ら、さあ……ふつう喰われる心配の方が先だろうよ⁉︎」
俺は色々と麻痺しているのか、あまり危機感は抱かなかったけれども……まあ、たしかにそうですわな。吶喊常識人チームのコロンやエイノさんまで珍しく殺気立っている。当たり前だといわれれば返す言葉もないが、今回ばかりは俺たちのせいじゃないと思うんだよね。
着地したテラスにそのまま陣取って、ミルリルは俺を振り返る。
「ヨシュア、“けーぴーぶい”を頼めるかのう?」
同じことを考えていた俺は彼女の言葉とほぼ同時に三脚付きの巨大な重機関銃を据えていた。嬉しそうに俺にハグすると、ミルリルは箱入りの弾帯を確認して薬室に初弾を送り込む。
「装填したのは焼夷徹甲弾が四十発。足りなければ、すぐに出す」
「いや、弾帯交換は不要じゃ。おぬしは、群れへの対処を頼む」
「了解」
「あたしたちは」
ルイとティグはすぐにでも飛び出す構えだが、ミルリルは地龍を見据えたまま手で制する。
「地龍を仕留めるまで、少しだけ待ってくれんか。タマが流れると危険なので、な」
「全員、耳をふさげ!」
慌てて手で押さえるの同時に、ドンドンと腹に響く轟音が上がって14.5×114ミリの弾頭が次々に着弾する。こちらにもたげた地龍の頭が巨大な足に蹴りつけられたかのように首ごと吹っ飛んで呆気なく転がる。仲間を殺したのが俺たちだと知ったもう一体が瞬時に姿勢を下げ突進へと切り替えるが、始めの数歩を踏み出すより早くKPVの第二射が叩き込まれた。初弾は首を振り身体を捻って躱したかに見えたが、すぐ弾雨に捕まり貫かれた巨体はつんのめるように斃れて動かなくなった。
「済んだのじゃ」
「「「「「「え」」」」」」
思ったより弾薬が残ってたのでついでに、とばかりにいくつか目標を撃ち倒して振り返る。
「ミルリルさん、いまのは?」
「大岩熊か灰色大熊か知らんが、デカいクマがおったのじゃ」
俺の目には見えんけど、岩のように硬いロックベアなんていたら面倒なことこの上ないので大変ありがたい。残るは数十の群れだが、メインはゴブリンで十前後の森林狼が混じっているだけだ。だけ、というほど生易しい相手ではないんだろうけどな。
「やっとあたしたちの出番か」
脳筋ガールのルイが耳を引っ張って口を開け閉めしている。KPVの威力と轟音にはさすがに驚いたようだが、そう動じた様子はない。彼らも色々あり麻痺しているのだろう。
「よーし、ルイは俺と来い。エイノはターキフたちとここに残って援護、マケインとコロンは建物の入り口を守れ」
「「「「応」」」」
ティグとルイの脳筋コンビは潤沢な魔力を身体強化に回しているせいか、テラスから飛び降りた勢いのままゴブリンや狼を拳で蹂躙してゆく。剛腕が振るわれるたび跳ね飛ばされカチ上げられ、群れは面白いように数を減らす。怯む間もなく殲滅され残りわずかとはいえ、いくらかは死角から外周を回り込んでティグたちを襲おうとする。
それをエイノさんが弓と攻撃魔法で着実に仕留めてゆく。
「おーい、マケイン、コロン!」
「大丈夫だ、こっちは森林狼が何頭か来ただけだ」
うん、今回は……というか今回もというか、俺の出番はなかった。
「……なあ」
声に気付いてテラスから室内を見ると、スールーズの面々が――そして彼らの後ろではミードの幽霊も――ドン引きした顔で俺たちを見ていた。
「お前、たちは……いつも、そうなのか?」
どうだろうね。返答に困る俺の横で、ミルリルが笑った。
「そんなわけはなかろう。今回は特別じゃ」
「そ、そうか」
「肉を食うために丁寧に殺したからの。普段であれば、魔王の怒りに触れた者は木っ端微塵に吹き飛ばされて肉片も残らん」
ちょっとミルリルさん、止めてくださいその魔王ジョークみたいなの。通じてないから。スールーズの皆さん真に受けて全員チビりそうになってるから。




