345:トライトゥボム
PV1800万(ユニーク300万)超て、スゲーな……
いつもありがとうございます。
5月25日の書籍1巻発売に合わせて「ご愛読感謝ラスタ商人ショートストーリー(仮)」公開予定です。
まあ、まだ書いてる途中なんですけどね。
気になっていた首輪の問題を聞きそびれたまま、投降したPMC戦闘要員は武装解除され首都衛兵隊での預かりになってしまった。そこで、避難民の視察に来たエクラさんを捕まえて聞いてきてもらうことにした、のだが。
「“とらいあんどえらー”だそうだよ」
「は?」
つまり、彼ら召喚者集団は自力で“隷属の首輪”を解除したわけか。トライは、わからんでもないが、エラーって……。
「ヨシュア、“とらいあんどえら”というのは何じゃ?」
「“試して失敗して”、ってこと。ほら、ケースマイアンのドワーフたちが初めて見る機械の分解組立でやるだろ? 試してダメなら、もういっぺん考えてやり直すっていう、あれがトライ&エラーなんだけどさ」
エクラさんは、笑みを消して首を振った。
「一緒に召喚されてきたなかに、“イオディ”とかいう、仕掛け罠の解除を専門にする技術職がいたらしいんだよ」
爆発物処理班か。もちろん俺は詳しくは知らないんだけど、爆弾の専門家だからって魔道具についても対処できるもんなのか?
「なるほど。その“いをでい”とやらが、あやつの首輪の解除に成功したというわけじゃな? さすが異界の技術者じゃ」
「ああ、そしてふたり目で失敗して、吹き飛ばされちまったとさ」
「……」
ひでえ結末だな。トライしてエラーして終了か。本来の意味合いと少し違う気がする。
「解除に失敗したというよりも、最初の成功で術者に解除を悟られたんじゃないのかね」
それで、次に魔法陣に触れたとたん起動されたと。そう考えた方が自然な気がする。結果は同じだったにしても、だ。
「良い腕と度胸だ。まだこちらの世界に“隷属の首輪”を解いた奴はいない。死ぬには惜しい男だったねえ」
俺の収納による解除は、解いたというわけじゃないからな。耐爆スーツもなしに爆弾処理なんて俺なら絶対無理だ。俺たちは、命懸けで仲間を助けようとした名も知らぬ爆弾処理技術者の冥福を祈る。
「そうじゃ、投降したPMC戦闘要員、名前を聞いておらんのう」
「“コルロ”に決めたそうだよ」
「……決めた、とはどういう意味じゃ?」
エクラさんの説明によると、かつて暮らした世界に戻れないことがわかって、本名を捨てる決意に至ったのだそうな。もう妻や娘に会えないなら、彼女たちの記憶につながるものは可能な限り封印してしまいのだとか。俺には無縁の問題だが、その心情だけなら理解できなくもない。
「悪くない名だと思うね。あたしが組んでいたパーティーと同じ名だ」
「ん?」
かつてエクラさんが率いていた伝説の特級パーティー。たしか、“コルロ”ではなく“道化”て聞いてたけどな。召喚者の自動翻訳か。同じ名前として伝達されてるなら、その二語は意味が同じなのかも。要はピエロ的な感じの言葉なのね。そこまで自虐的なネーミングはどうかと思わんでもないが、俺が反対する理由もない。
「ミズ・エッケンクラート」
ノックの音がして、俺たちのいる部屋に、“PMC戦闘要員”改め“共和国市民コルロ”が入ってきた。
「監視の必要はないといわれましたが、良いのですか」
「良いも悪いも、アンタを間者に仕立てようって国は、もう存在しないじゃないか。魔王の見立てだ、信用するさ」
いきなりこちらに振られて困惑するが、何か問題が起きたときに責任を取るくらいのことはするつもりだ。
「それじゃコルロ、とりあえずアンタは評議会傘下の機関で適性を見ながら、色々と覚えてもらうよ。そこの男が直属の上役だ」
「イエスマム」
彼は背筋を伸ばして返答すると、俺とミルリルに頭を下げ、文官らしい男性に案内されて立ち去る。PMC以前にエンジニアとしての経験と軍務経験がある彼は上下関係や場の空気、信頼に値する人物かどうかを読む能力は俺より遥かに高い。
「魔王、後のことは任せておきな。あいつが真面目に生きていこうとしている限り、悪いようにはしない」
エクラさんが政治的に、ローリンゲンさんが商業的に、マッキンさんが物資・人脈的に、それぞれ便宜を図ってくれるそうだ。ありがたいが、共和国の重鎮三人が揃って支援するほどの重要人物ではない、というか救命そのものがなんとなくでしかないのでリアクションに困る。
「そんな顔するんじゃないよ。あたしたちも似たようなもんさ」
また顔に出てましたか。エクラさんは俺を見て笑う。
「これまで会った召喚者は、みな癖が強い上に異常なまでの異能を持ったやつばっかりだけどねえ。コルロは違うようだ。良い人材を拾ってきてくれたと思ってるよ」
含みのあるエクラさんの視線。
「うむ。ヨシュアの人を見る目に間違いはないのじゃ。あまり考えずに行動しておることも多いがの。過去に手を差し伸べ、仲間にした者で道を誤った者はおらん」
「そんなところかね。初めて召喚者と、ふつうに話ができそうだよ」
「いや、ちょっとエクラさん⁉︎ 俺ともふつうに話してますよね? リンコとも、ミユキとかって元聖女とも……」
そういうことじゃないんだよ、とミルリルさんを見るエクラ女史。困ったもんだばかりにふたりで頷き合う。なにそれ。わしメッチャ一般人で常識人じゃん。サイモンから買った銃火器・兵器の力だけでここまで来たけど丸腰なら有角兎にも負ける。
「そうだ、コルロの武器は危ないのでこちらで回収しちゃいましたが」
「それで構わないよ。あの子には、もう必要ない」
“あの子”って、若いとはいえコルロはたぶん二十代後半とかなんですけど。エクラさんは気にした様子もなく俺たちに告げる。
「魔力の流れが素直で、濁りが少ない。少し試させてもらったが、魔術の適性もあるね。それも勘や感覚ではなく、頭で考えて効率的に動かしてる」
なるほど、論理的なタイプか。たしかに召喚者のなかには、いなかったかもな。
「魔力量もそれなりにあって、制御も悪くない。魔術に触れるのが初めてであれなら、少し鍛えれば化けるね」
それは良かった。さすがに鬱々と燻り続ける人生なら、助けた方も微妙に気まずい。じゃあ殺しておけば良かった、ということにはならんにしてもだ。
「では、エクラ殿。丸投げして悪いが、わらわたちは明朝サルズに帰るのじゃ。避難民のなかでサルズに向かう者はおるかの?」
「ああ。家族連れがふた組、小さな町で暮らす方が良いといっていたはずだよ。そちらの移送は頼めるかい?」
「もちろんじゃ。なにやらサルズも久しぶりのような気がするのう?」
そうね。出たり入ったり忙しくて、ゆっくりしたのなんて、ほんの数日だったもんね……。




