337:トレイルトレイン
貧民窟の前で、俺たちはケースマイアン移住組の用意を手伝う。ヤダルの運転してきたウラル軍用トラックは三十二人の住人を積むとコンテナにほとんど余剰スペースがなかったが、可能な限りの生活物資を載せた。
「いつの間にやら改良が進んでおるのう」
鉄板が剥き出しだったコンテナの内装にはケースマイアン住人の手で内張が貼られ、毛皮の敷物とクッションが置かれている。自らも避難民として長い移動を経験した人も多いから、その苦痛を和らげようという気遣いが感じられた。
ヤダルとミーニャは担当するのが中高年中心の避難民ということもあって、健康状態やコンテナ内部の環境を確認している。内張りで断熱を考慮してはもらったが、完全密閉するわけにもいかないため、ある程度の外気は入ってくる。暖房もないのでコンテナ内部は寒い。ふたりいる老人は助手席に座ってもらい、残りは寝袋と毛布を使ってもらう。
「こんなところだと思うんじゃが、大丈夫かのう」
「あたしたちの方は心配すんなミルリル。ケースマイアンには夕方までには着くし、途中で何回か休憩も取るから」
「帰り道は、来たときの轍を使える。ヤダルも乗員も、少しは楽なはず」
俺は雪のないときに来ただけだけど、ケースマイアンと皇都を結ぶ街道は積雪状態だとなかなか大変なのだそうだ。
「あたしも、前は“えくさーる”で楽に行き来してたから、甘く見てたな。風除けがないから吹き溜まりができて埋まるし、下手すると道を見失う」
「おかげでヤダルの運転も、ずいぶん上達した。性格も、慎重さが出てきた。これは進歩」
ミーニャも他人事のようにいうが、しばらく見ないうちに穏やかさと落ち着きが出た感じがする。
「ヨシュアは、共和国移住組を送ってくんだろ? 足はどうすんだ?」
「それなんだよな」
「どうするかのう」
二十二人なら、ホバークラフトのグリフォンか……いや、現状それ以外ないな。キャスパーは壊れちゃったし。とはいえ往路で通ったのはバイクがせいぜいの狭く入り組んだ道だ。グリフォンの巨体は通れない。通過可能なルートを選ぶなら……北側の港から海に出るか、ケースマイアン近くまで南下してから東に折れて“狭間の荒野”を横断するかだ。
「どっちも、すごい遠回りだな」
考え込んでいるのを見兼ねてか、ドワーフのお爺ちゃんが声を掛けてきてくれた。
「魔王陛下、乗り物が必要でしたら、馬橇をご用意できますぞ?」
「それはありがたいけど、橇を引くだけの馬か代わりの生き物はいるのかな」
「それは……そうですな、難しいかもしれません。皇国馬は軍が根こそぎ持って行ったようですから、いたとしても軍務に耐えられぬ老齢か農耕馬でしょうな」
橇自体はあるわけだ。なんか方法ないかね。二十二人を積むとなれば四台か五台、ウラルのバイクで引くのは無理だ。他には……
「「お?」」
同じことを思い付いたのだろう、俺とミルリルは顔を見合わせてお互いを指差す。
「「「ひゃぁああーッ♪」」」
俺は複合素材ゴーレムの操縦席で、子供たちの歓声を聞いていた。
「問題なさそうじゃな。子供らは、えらく喜んでおる」
肩車状態で跨乗したミルリルが振り返って俺に伝える。多重連結した馬橇を直列に繋いで、列車状態にしてある。馬がいないなら、騎乗ゴーレムで引けばいいのだ。衝突しないように加速減速には気を使うが、単純な話だ。体力はないが、魔力はそこそこある。共和国までならどうにかなるだろ。
「「あははは……!」」
この方法、子供受けも良いみたいだしな。
準備の整った俺たちはヤダルたちトラックの連中に手を振って共和国に向かう。目指すは首都ハーグワイだ。




