33:遠い雷鳴
30-06で使用弾薬を統一するといったな?
あれは嘘だ。
つうか、無理だった。さすがに自動火器がないと、300倍以上もの敵が押し寄せる前線に人員を出せない。かといって崖の上からの攻撃だけでは有効打を与えにくい。そのための機関銃座なのだが。
渓谷入り口の両側に、離して配置したM1919重機関銃の銃座は、いっぺんそこに入ると開戦後の帰還が難しい。最悪、なにかあったら俺が転移で飛んで回収するつもりではいるんだけど、銃座にはドワーフの射撃手と装弾手の他に、獣人の護衛を付けることにした。
問題は、彼らに渡す武器だ。
機関銃と同一弾薬を使うM1ガーランドは、8発ずつ固定されたクリップの数が揃わず断念。BARは状態の良いのがなく、手持ちの6丁は城壁側で対空火器として使用しているので無理。
そこで、やむなく弾薬を分けることにしたのだ。
ここだけの話だが、ブラックマーケットではなくアメリカの銃砲店にでも繋がってくれていれば今頃ふつうに30-06無双だったのでは、と思わなくもない。まあ、ないものねだりだ。
俺が持っているのと同じAKMを追加で4丁、AKMと同じ弾薬・弾倉を使用可能な軽機関銃、RPKを2丁、調達した。
AKMのようなアサルトライフルというのは、連射出来るように弾薬の威力を弱めた小銃、ではあるが、機関銃のように弾幕を張って連射し続ける使用法を想定してはいない。出来なくはないが、すぐガタが来る。
交換可能な肉厚の銃身で過熱に備え、大型弾倉やベルト給弾によって頻繁な弾倉交換の手間を軽減したのが、軽機関銃とアサルトライフルの中間のようなカテゴリーだ。現在では分隊支援火器なんていわれるもので、RPKは実質、これの先祖にあたる。
AKMと共用可能な弾倉を多めに確保。40発装填可能な予備弾倉を20本、AKMと同じ30発装填の弾倉を60本。75発装填可能なドラム式弾倉もあったが、装弾の信頼性とコストの問題で4本。
それと、7.62×39弾、緑色の鉄薬莢で安かったのでこれを2万発追加。追加分は、すべてふたつの銃座に分配する。
ついでにM1903の装填用クリップを、あるだけ頼んだ。分離式の弾倉を持たないM1903では、クリップのあるなしで給弾の手間と速度が段違いなのだ。その分、開戦前の作業は必要になるのだが。
いっそM14にしとけば良かったかな、と嘆いた俺にサイモンは冷静に返す。
「7.62ミリでもNATO弾規格の武器なら、収められる装備数は半分以下だったな」
まあねー。ほとんどの銃が現役だもんねー。お値段は張るだろう。ホントに2倍以上なのかは知らんけどな。
別途カネは出すから戦車とか手に入らないかとサイモンに尋ねてみたんだが、返答は芳しくなかった。
「状態を選ばなければ、調達できんことはない。ただ、渡すのは無理だと思うぞ。親父の代で、取引相手に歩兵戦闘車を送ろうとしたんだが、ダメだったらしい。手を変え品を変え、いろんな装甲車両を送ろうとしたが、上手くいかなかった。重量なのか容量なのか金額なのか装甲車っていうのが問題なのか……」
「いや、装甲板は受け取れたし、マイクロバスも受け取れただろ? 重量制限じゃないかと思うんだけど、バラせばどうにかならないか?」
「やれといわれればやるが、刻んで試して失敗だったからといって金貨は返せないぞ」
「それは構わない。そうだな、あの車が大丈夫だったんだ、2トンくらいまではいけるはずだ」
「バラして送って、それをどうやって結合するんだ。俺の聞いた限り、そっちに溶接の技術はないらしいぞ」
さすがにボルトや釘での接合は不安だな。シャーシやエンジンをバラして送られても組み立てられる気がしない。どうしたものか。
「それよりも限界重量ギリギリの車両を試してみるってのはどうだ?」
「……それもありか。最軽量の装甲車って、なんだっけ」
「フェレットなら手に入る。砲塔がないタイプだから、3トンそこそこだろう。それか、ハンヴィーを渡した後で、追加装甲を別に送るか」
フェレットというのは2人乗りのちっこい装甲車だ。サイズはたしか、軽自動車に毛が生えたくらい。外径がそれなので、車内は軽トラ以下だ。たぶん獣人とか、乗れない。逆に、ハンヴィーは装甲車ではなく、米軍のデッカくて平べったいジープみたいな車だ。大量に生産・配備されたので、追加装甲も武装もアホほどオプションがある。
少し迷って、ハンヴィーにした。流通数が多いので状態がそれなりに良いのを選べたのと、なによりオートマが決め手だ。
マイクロバスを動かせるようになってもらおうと獣人やエルフで試したのだが、マニュアルミッションで難航したのだ。自分以外が運転できるとなると選択肢が増える。
ちなみにミルリルさんはペダルに足が届かないので無理でした。牛乳飲みなさいな。
結果からいうとハンヴィーはちゃんと届いたし、追加装甲も付けられたんだけど、これは後方地のない前線では使いにくいことがわかった。
いや嘘、ホントはわかってて買った。幼稚園のクマ顔付きマイクロバスよりマシな足が欲しかっただけだ。
スタックしたりガス欠なったり重装騎兵にでも囲まれたりしたら戦国自衛隊状態になりかねんので、基本的に戦闘中は出さない。行けるとこまで行って玉砕ってのも、俺ひとりなら嫌いじゃないけど。
あと、なんでかミルリルさん、ハンヴィーよりあのマイクロバスの方が好きみたいなんだよねー。
まあ、いいか。
そして、最後の調整(という名の悪あがき)を進めている俺たちのもとに、とうとう太鼓と笛の音が聞こえてきた。見ると、王国軍陣地のあちこちで、旗が振られている。
王国軍が、動き出したのだ。宣戦布告も降伏勧告も名乗りも何もない、この世界の、戦争。
ミルリルが、俺を見て笑った。なんだかとても、幸せそうに。これからヴァージンロードに向かう花嫁みたいに、輝くような笑みを浮かべて、いった。
「……さあ、狩りの時間じゃ」




