324:衝突
短いか…
ミルリルの放った14.5ミリの重機関銃弾は廊下の先で外壁を派手に撃ち抜いていたが、それによる敵の被害は不明。敵部隊の規模と総数がわかっていない以上、何人殺そうとも警戒は解けないのだが。
「最低でも十人以上は仕留めたのじゃ。まだ何人か残っておるが……」
「そちらは俺がやる。ミルリルは後ろの警戒を頼む」
「了解じゃ」
背後から、廊下を塞ぐキャスパーの車体を硬いもので叩く音がしていた。そんなことで装甲兵員輸送車に損傷を与えられるわけはないので、突破しようとしているというよりも仲間を潰されて逆上しているのだろう。それは不幸(かつ自業自得)な事故なので俺を責められても困る。
気を取り直して前方に意識を向ける。微妙にグラフィカルな目盛りの入ったドラグノフのスコープに、伏せた姿勢でこちらを窺っているPMC戦闘要員の姿が見えた。いきなり重機関銃の洗礼を受けて混乱状態から回復していないのか、しきりに首を振り仲間に声を掛けている。周囲に広がっている血糊が彼ら自身のものかは不明。
「四……いや六名か」
「右側の二名は、おそらく瀕死じゃ」
左側にいる四名は反撃に移ろうとしている。武器は俺の方が射程も威力も優位に立っているが、距離が二百メートルほどなのでこちらも思っきりM4の射程内だ。セミオートを生かして、探りながらの狙撃。腕も経験も劣勢だったが、武器の差でなんとか相手より前に射殺することができた。右の二名は、被弾しても反応はなかった。もう死んでいたのかもしれない。
「脅威排除。ミル、いっぺん廊下の端まで飛ぶ」
ドラグノフ狙撃銃とKPV重機関銃を収納し、AKMに持ち替える。PPSh-41装備のミルリルが、俺の首に腕を回した。
「ヨシュアは左、わらわが右じゃ。“きゃすぱー”の収納は、その後で良いかの?」
「おう、前方の脅威排除を確認次第、戻って背後を対処する」
「了解じゃ」
身振りで示しつつ、大事なところや確認すべきところはちゃんと口にも出す。以心伝心をコミュニケーションを怠る理由にはしない。この辺はミルリルのエンジニアらしいところだ。
「転移」
念のため声に出してタイミングを合わせる。ミルリルはすぐに降りて右方向の敵を警戒、7.62ミリの拳銃弾で俺には見えない何かを仕留めてゆく。左手に目を向けた俺は薄暗い通路に転がる死体と負傷者に戸惑う。収納で死体を選別し、残った男たちにAKMでとどめを刺した。負傷して動けない者も死んだふりで反撃の機会を窺っていた者もいたようだが、向こうの都合など関係なしに射殺しては収納する。
「脅威排除じゃ」
「こちらも脅威排除。キャスパーを収納する。準備はいいか?」
「いつでも良いぞ」
距離が二百メートルちょっとあるが、個別指定を掛けて収納。なんとか上手くいった。その奥でたたらを踏んだ男がミルリルの放ったトカレフ弾で棒立ちになり、崩れ落ちる。
「脅威排除じゃ」
「銃を持った兵士が相手なら、開けた場所で様子を見るか」
KPV重機関銃で派手に崩落した壁の大穴から下を覗く。地面からの高さは、五十メートルほどか。いつの間にやらずいぶん上がってきたもんだ。
皇宮の裏手に当たるらしく、眼下には数百メートル四方の練兵場と、城壁近くに並んだ厩が見えた。
「ううむ……馬は居らんようじゃの」
「まさか国民ごと贄にされたか?」
「わからんが、それはまあ良い。流れ弾で馬が傷付く恐れがないのであれば、一度あの先で布陣じゃな」
「了解」
転移した練兵場の先でキャスパーを出して乗り込むと、相手の出方を探る。装甲兵員輸送車を破壊できるほどの武器を持っているとは思えないが、少しは情報を得ないと対処に困る。
「KPVの弾薬は、まだ余裕があるかの?」
「焼夷榴弾は四十発入りの弾帯が四箱、焼夷徹甲弾は十以上ある。必要なら追加購入するぞ」
「とりあえず一箱ずつ頼むのじゃ。もう少し後で良いぞ」
ミルリルはキャスパーの銃座から双眼鏡で何かを確認している。PKM軽機関銃を構え、足下で見守る俺を振り返った。
「見ておれ、すぐに“ぴーえむしー”の親玉を、炙り出してやるのでな」




