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【完結&書籍化】スキル『市場』で異世界から繋がったのは地球のブラックマーケットでした  作者: 石和¥
7:からまる紐帯

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318/422

318:敵陣見ゆ

出版記念&ご愛読感謝で発売日前後にアフロ商人スピンオフ短編を投稿したいと思ってます。

時期は未定。詳細決まりましたら、また。

「我ら、七人……怪我、ない」

「そうか。それは不幸中の幸いじゃの」

 俺たちはいま、スールーズと名乗る辺境少数民族の戦士たちとぎこちないコミュニケーションを取っているところ。彼らは家族を人質にされて俺たちに斬り掛かるよう強制されたようだが、早々に戦闘が終結して用がなくなった。脅迫していた指揮官も死んだ。彼らは俺たちに刃を向けようとしたことに詫びを入れ、俺たちも気にしないと謝罪を受け入れて、とりあえずの和解が成された。

「これから、どうするのじゃ?」

「村に、戻る。家族を、助ける」

「家族は皇国軍に捕まってるのではないのか? 助けが要るなら手を貸すが」

「皇国軍、魔王が、倒してくれた。村に、残った兵、わずか。我らで、倒せる」

「そうか。武運を祈るぞ。達者での」

 俺は集団のリーダーらしき男に、皇国貨幣と思われる銀貨の入った袋を渡す。生き残りがいないか確認しながら収納で奪った物資のなかにあったものだ。皇国からの賠償金がわりだ。

 スールーズの戦士たちは、もう一度頭を下げ、雪原を駆け去って行った。

「おぬしも、お手柄じゃったの」

「ワゥ」

 白雪狼(スノーウルフ)のワウが、ミルリルに撫でられて、照れたように尻尾を振る。その口元に残った血糊を、俺は雪で拭い落としてやった。ちなみに、ノニャの血ではない。

 長く無様な命乞いの果てに、指揮官は泣き叫びながらワウに首を噛み千切られて果てた。有翼族の少女を人間爆弾にしようと考えた張本人となれば当然の最期だ。

 死ぬ前に喚き散らしていた泣き言と言い訳を統合すると、奴隷ノニャの主人だった村の長は彼女の隷属使役契約を自主的に(・・・・)放棄して書き換えに同意し、消えた村民たちも全財産を自主的に(・・・・)明け渡して皇都に送られたのだとか。

 当然ながら、そんな馬鹿げた話はない。要は、そういう処置を行ったということだろう。

「毎度のことで呆れるけど、皇国では人間の頭を自由に弄れるのか?」

「後のことを考えんで良いなら、じゃがの。だいたい、あれを“自由に”と称するのは(いささ)か無理があると思うのじゃ」

「そうね」

 頭も身体も心も、好き勝手に改変改造できる技術を(まがりなりにも)実現した皇国だが、結果としてコントロールできない狂人的暴走廃人とか、協働できない規格外戦力のゾンビみたいなものしか生み出せてない。どうせ滅びる国なんだから、どうでもいいけど。

 皇都侵攻に必要な情報は指揮官への尋問で得られたが、あのデブは野戦指揮官というには余りにも限定的な情報しか与えられていなかった。皇帝が家臣を信用していない、あるいは実際に裏切られつつあるという予想が当たっている気がする。


「お待たせ」

 俺とミルリルは、収容者が待っているキャスパーに戻った。激しい吹雪は収まり、風も止んでちらほらと雪片が舞っているだけだ。

「ノニャ、目が覚めたか。痛いところはないかの?」

 後部コンパートメントには新しく加わった有翼族の少女ノニャが寝かされていた。外傷はそれほど酷くはなく、それもエルフの少女に治癒魔法を掛けてもらったかげでほぼ完治した。問題は疲労と精神的外傷だ。

「どこか帰る家があるなら送るよ」

 彼女は横たわったままビクリと背を丸め、顔を背けたまま怯えた目で俺を盗み見る。村で虐げられたせいで、大人の男が怖いのかもしれない。ミルリルに代わってもらった方が良かったかもしれんが、いまさらだ。

「のにゃ、いえ、ない」

 俺は有翼族がどういう家族構成で、どういう暮らしをしているのか知らない。収容者たちに意見を求めようとしたが、それぞれ曖昧に首を振るだけだ。

「ノニャ、俺たちは皇都に用がある。一緒に来ると戦闘に巻き込まれるんだ。ここにワウと残れば、危ない目に遭うこともない。君はもう奴隷じゃないんだし」

「のにゃ、どれい」

「違うよ。もう首輪はない。誰にも命令されない。暮らすのに困るようなら、ケースマイアンかサルズかラファンに行くといい。助けてもらえるように、町のひとに話を通す」

「のにゃ、くらす、わからない」

「ワゥウ、ワゥ」

 キャスパーの外で、ワウが何か訴える。当然ながら、俺にはよくわからん。

「ワウとノニャは、皇都まで一緒に行きたいようじゃ」

「いや、それは構わんけど、なんでだ?」

「さあ。あやつら自分でも、わかっておらんようじゃの。面白そうだから、というくらいのもんじゃ」

「さいですか」

 ここに来て、脳筋の上位グループを見た気がする。

「ワゥ」

 俺にも、少しわかってきたわ。いまのは“そういうわけでよろしく頼むね”、みたいな“ワゥ”と思われる。


 キャスパーを走らせること二時間ほどで、遠くの山陰に皇都の城壁が見えてきた。まだ数キロの距離はあるが、転移で飛べば一瞬で到達できる。皇帝だけを殺してさっさと脱出するか、後顧の憂いがないように跡形もなく攻め滅ぼすかだ。どちらにせよ皇国の、国としての機能は失われる。自業自得だ。自分の行いを地獄で悔め、というやつだ。

「いよいよじゃのう」

 弾む声で、ミルリルがいった。

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