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【完結&書籍化】スキル『市場』で異世界から繋がったのは地球のブラックマーケットでした  作者: 石和¥
7:からまる紐帯

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315/422

315:餓狼

話数ズレてたようで、修正しました。ご報告ありがとうございました。

白雪狼(スノーウルフ)? これが⁉︎」

 成獣になると、こんなにデカくなるのか。モフ以外のサンプルを知らんから、みんなあんな懐っこいのかと思ってたけど、とんでもない。目の前で牙を剥き猛り狂った巨獣の印象は、狼というより毛深いドラゴンだ。見た目もサイズも性格も気配も、完全に別の生き物じゃん。

 モフの親類かもと少し思うが、だからといって手を抜くというような余裕はない。隙を見せたら食い殺される。見せなくても装甲車ごと齧られそうだ。

「どうしようか」

「刺激せずに、そのままじゃ。こやつ、どうも困惑しておる」

「これで?」

 俺には怒りと憎しみと殺意しか感じられん。いきなり出くわしてこれとは、俺たちが何をしたというのだ。

「なんぞ誤解でもあるのかのう。それとも、殺し合わねばならん因縁でもあるのか。いずれにせよ、少し待ちじゃな」

 おい、この状態でか?

「“きゃすぱー”の外殻であれば、多少の戯れで壊れることもなかろう。ここは……」

 ゴンと轟音が響いて、大きく車体が揺れる。後部コンパートメントで悲鳴が上がった。ボディに叩き込まれたのは前脚の一撃だったようだが、運転席からは死角になった位置から繰り出されたこともあって全く見えん。

「すまぬ、ヨシュア。あやつを殺す前に、一度だけ話させてくれぬか」

「いいよ。俺と一緒なら」

 ミルリルを胸元に抱えるようにして、銃座から白雪狼(スノーウルフ)の前に出る。もし攻撃してくるようなら、俺が転移で飛んで反撃を加える。ミルリルには指一本触れさせない。

「……ゥウウウ……ッ!」

 隙あらば襲い掛かり食い殺そうというような勢いはなくなっているが、いまだ鼻息は荒く視線も鋭い。

「わらわたちは、ケースマイアンの魔王、ターキフ・ヨシュアとその妻ミルリルじゃ。おぬしの名を聞こう」

「……ッガ」

「ああ、先にいうておく」

 自分の爪よりも小さな女の子を前に咆哮を上げかけた白雪狼(スノーウルフ)だが、ミルリルの静かな声に気勢を削がれた。

「おぬしに何があったのかは知らん。そちらの事情であれば干渉はせん。立ち去れというなら、このまま消えよう。困っておるのならば手を貸しても良い。おぬし次第じゃ。……ただし、の」

 背後にいる俺からは見えない、ミルリルの顔。その一点を睨んでいた巨獣の視線が、怯むように揺れた。

「魔王陛下に無礼を働けば、殺す」

 白雪狼(スノーウルフ)の白い毛皮が、ぶわりと総毛立つ。ヒャンと小さく鳴いて、シュルシュルと身体が縮んだ。というよりも、妖獣的な力で大きく見せていたってことなのかな。モフより大きいとはいえ体長三メートルほど。尻尾を入れたら四メートル以上なんだろうけど、その尻尾は股間にクルリと巻き込まれている。

 ミルリルさん、ビビらせすぎです。

「……ワゥ」

 モフより随分と痩せて毛艶も悪いが、そこそこ懐こそうな顔の白雪狼(スノーウルフ)は申し訳なさそうに項垂れる。

「いや、詫びは要らぬぞ。特に怒ってもおらん。なんぞ事情があったのであろう?」

 目線がキャスパーの屋根と同じ高さだった相手が縮んだので、話がしにくくなった。俺たちはヒョイとボンネットまで降りて縁に腰掛ける。

「ゥウ、ワウ」

「おお、それは聞いておるぞ。わらわたちも、幼い同胞と友誼を結んでの」

「……ワゥウ、ワゥ」

 ええと。例によってミル姉さん普通に会話してますけど、俺にはサッパリわからん。付き合いの長いモフの考えてることなら、なんとなくわかるようになってきたけど、この初対面の白雪狼(スノーウルフ)からは漠然としたションボリ感しか伝わってこない。

「ウワゥ」

「ほう。それは難儀じゃの」

「ミルリル、どうしたん?」

 俺を振り返って、ミルリルは首を振る。

「ここ四半世紀ほどで、多くの白雪狼(スノーウルフ)が皇国軍に殺されたそうじゃ。モフの母親もそのひとつじゃな。それで、人里には近付かんように親からキツくいわれておったそうなんじゃがの。この村で暮らす獣人の子供と知り合うて、ついつい深入りしてしもうたそうじゃ」

「ワゥウ」

「それを知った親からエラく怒られたのでしばらく距離を置いて、久しぶりに訪ねてみればこの有様じゃからの。わらわたちがなんぞやらかしたかと誤解したのであろう」

 背後の車内で震えている獣人たちも誤解された一因ではあるのだろう。

「じゃあ、ここの住人が消えた理由は知らないのか」

「知らんようじゃが、攫われたにしては匂いがおかしいというておる」

「匂い?」

「恐怖や動揺や悲しみや怒りを感じた人間は、その匂いを残すそうじゃ。わらわたちには、わからんがの」

「ワゥ」

「四十ほど住んでおった人間たちは、喜びと期待を感じながら村を出て行ったようじゃの。ただし、こやつが仲良くなった獣人の子供だけは……」

 おい、やめてくれよ。何か酷い目に遭わされたとかじゃないだろうな。ミルリルの言葉は俺の不安を半ば裏付け、半ば裏切った。

「“これでお別れ”という感じで感情は平坦なまま、広場にあれを残したそうじゃ」

 ミルリルの指す先、白雪狼(スノーウルフ)が咥えていたのは、粗末なボロボロの貫頭衣だった。

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