3:奪い取る力
「はッ!?」
「うッ!!」
「お、おおッ!? なにを……」
剣に続いて騎士たちの腰に残った鞘を収納、目に入るを幸いに鎧や手甲や剥いたなかに着込んでいた鎖帷子や肌着まで全部を一気に収納。王様の服やらマントやらを収納。王冠をヅラごと収納。ティアラとネックレスと指輪を収納。ドレスや椅子や杖を収納。収納。収納。収納。
一応、試してはみたものの、生身の人間は不可能だった。クソが。
「きゃあああああッ!!」
室内にあるわずかな調度品、燭台やらサイドテーブルやらドアやらなんやら、目に留まったありとあらゆるものを収納すると、“白亜の間”には裸の男女が残るだけになった。
王様はハゲ散らかした挙句に醜い太鼓腹で短足でチン○ン小さい。王妃様も王女様もあんま見たくないアレだけど……あ、聖女ちゃんって、意外と着やせするタイプなのね。いや、いまはそういうの、もうどうでもいいわ。
「……ッ! 何やってんだ、てめえ!」
「黙れ、皮被り!」
俺の逆ギレに、ゴリマッチョの顔が赤黒く変色する。小さくはないけど短い。でフルアーマーと。見せんな、クソが。
殴り掛かろうとしたゴリの鼻先に、収納から出した剣を振り抜く。当たる寸前に身を引いて逃れると、油断なく構えて距離を取った。
「ただで済むと思うなよ、オッサン!」
巨体に似合わない器用なステップを踏み始めるゴリマッチョ。ヤバい、こいつ格闘技かなんかやってる。
「足止めしとけヒロキ、俺が仕留める」
「俺に指図すんじゃねえ!」
やっぱお前ら、知り合いか。どうせ聖女ちゃんも中古なんだろなー。いまは、それどころじゃないけどさ。
細マッチョの方も何か狙って回り込もうとしているし、魔導師もブツブツと唱え始めているのが嫌な予感どころではないくらいにヤバい。
ドアは収納したから脱出も不可能ではない、かも。
その目線でバレたらしい。騎士たちは自分の役割を思い出したのか、ふたりは王族のガード、残り3人は出入り口の封鎖に動き出した。クソが。
ろくな運動経験もない中年サラリーマンが剣を持ったところで突破できるとは思えない。転移を試すにもどこに出るかは運次第だし、そもそも残存魔力がヤバい。
名前:タケフヨシアキ
職種:死の商人
階位:01
体力:14
魔力:02
攻撃:12
耐性:43
防御:41
俊敏:34
知力:65
紐帯:01
技能:
鑑定:62
転移:04
収納:91
市場:02
技能は誤差程度に上がってるようだが、他の数値が軒並みゴッソリ減ってる。体力――たぶんHP――はもう風前の灯。浪費した原因が転移か収納か知らないけど、魔力もほぼカラだ。最後の手段に賭けて、俺は小さくつぶやく。
「市場ッ」
その瞬間、世界が止まった。少なくとも俺にはそう見えた。
目の前が光って、視界が塞がれる。光のなかに、何者かが顕現したのがわかる。
そう、俺の救いの天使が。
「……ってオイ、ウソだろ?」
俺はその姿を見て我が目を疑う。俺は自分にこんな運命を強いた神か何かの正気を疑い、そのバカを全力で呪った。