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【完結&書籍化】スキル『市場』で異世界から繋がったのは地球のブラックマーケットでした  作者: 石和¥
6:灼熱のソルベシア

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275/422

275:嵐を越えて

 夕刻近くになると日が陰り出し、次第に天候が荒れ始めた。台風の通り道にでもなっているのか、気圧の変化が激しい海域のようだ。王子たちも旅路の半ばあたりで激しい嵐や海の怪異に襲われて何隻か沈没したといっていた。

 地面効果翼機(エクラノプラン)とはいっても海面近くを飛んでいては機体を損傷するだけなので、推進器に魔力を注いで高度を取る。回転を上げた状態を維持するのであれば、ガソリンを燃やし続けるよりエンジンの過熱が抑えられるとの判断だ。

「ヨシュアがいれば、機体強化と魔導防壁に振ってもお釣りがくるから助かるよ」

「燃料を焚くより静かじゃしのう」

「機体正常、この高度であれば問題なさそうじゃの」

 飛行が安定してケースマイアンのエンジニアたちは満足げだけれども、そんなことよりも気にしなければいけないことがあるのだ。

「「「うう……」」」

 王子と双子は、激しい揺れが続いたせいで乗り物酔いを起こしてダウンしてしまった。雲の上にまで出れば天候も関係ないのだろうが、そこまでの高度を維持するほどの推力はない。高高度飛行を想定されていないので、機体の機密性も完全ではない。酸素の供給もできないし暖房もない。

「治癒魔法、掛けてみる?」

 リンコの提案で双子がお互いに治癒魔法を試し、ある程度の体調回復が見られたので王子にはリンコが掛ける。ポンコツとはいえ元聖女だけあって、王子も顔色が戻った。

「……ありがとう、ございます。……ずいぶん、楽になりました」

「「……あぅ」」

 なんとか落ち着いてきた王子たちを気遣いながら、雨のなかを飛行すること二時間ほど。大荒れの海域を抜けることはできたが、今度は夜の闇が辺りを包み始める。

「ここから先は、計器飛行だね」

「いまさらだけど、大丈夫なのか? 危ないなら船かホバークラフトに乗り換えるけど」

「ホバークラフトは乗ってるの見かけたけど、船なんて持ってるんだっけ?」

「いや。必要なら買う」

「……う〜ん。でもそれ、共和国に着いた後はどうするの?」

「さあ。どっかの港を奪うまでは海賊砦にでも繋留しとくさ」

 リンコはハイマン爺さんと何やら話し合い、しばらく考えて結論を出す。

「いや、このまま行けるところまで行こう。最悪、ホバークラフトを出してもらうってことで」

「なんじゃ、おぬしら船は嫌いか?」

「ぼくは好きじゃないかな。でも、いまの問題は好き嫌いじゃなくてね」

「この先は岩場が多いんじゃ。船の墓場みたいなもんが広がっとる。ほれ」

 リンコが少し機体の高度を下げると、ハイマン爺さんが指差す方にポツポツと朽ちた木立みたいなものが見えた。薄暗闇のなかで擦れ違いざま、それが難破船のマストだとわかる。帆も破れ帆桁も折れて船体も砕け荒れ果てた残骸になっている。

「……あれで沈んでないってことは、この辺は水深がかなり浅い?」

「そうでもない。暗礁っていうのか、隆起した地形とかサンゴ礁が水面下に点在してるんだよね。で、そこの周りは深海への断崖絶壁(ドロップオフ)になってる」

「水のなかのことを、なんでそこまでわかるんじゃ?」

「この辺り、来るとき通ったのは昼間だったもん。凪いでて透明度が高いもんだから、エクラノプランの飛行高度だと、よく見えるんだよ。鯨か魔物か知らないけど水中を巨大な影がウヨウヨしてた」

「水が澄んどるってことは、海が痩せとる(・・・・)んじゃ。あんな大物を養うほどの餌はないわ。おそらく、船乗りは皆そいつらに食われたんじゃろな」

 ……船は、やめよう。うん。飛べるとこまで飛ぶのが良い。

「しばらく自動操縦に入るよ」

 リンコは計器盤(コンソール)のスイッチを入れると、操縦桿から手を離して休憩に入る。なにそれ、いきなりハイテク? 操縦桿は勝手にフルフルと動きながら、高度と方角の微調整を始める。

「……すげえ。なにこれ、どうなってんの?」

 興味津々で見る俺に、リンコとハイマン爺さんが笑う。

「この機体、基本は魔道具というより木の魔物(・・・・)みたいなもんだからね。ヨシュアに魔力供給してもらったから、しばらくは自律稼働で飛べるよ」

「いうたら、樹木質(ウッド)ゴーレムの親戚じゃ」

 なるほど……って、あれ? なんか嫌な予感がするぞ。

「「おうじ」」

「だ、だいじょうぶ、だいじょうぶ、だ」

「む? おぬしら、どうしたんじゃ」

 後部操作卓のカレッタ爺さんが王子と双子に声を掛けている。彼らは客室最後部で丸まって、何かに怯えているようだ。

「なんじゃ、魔物に乗るのが怖いというわけではあるまい?」

「……違い、ます。……でも、ここでもし“恵みの通貨”が暴発したら」

「「「え」」」

 リンコと爺さんたちが一斉に青褪める。

「ぷはははは、そのときは“えくらのぷらん”に、食われかねんのう?」

 ちょっと、ミルリルさん。なんでそんなに平然としてるんですか。

「呪文も詠唱もなしに発動することは……ない、はずなのですが。基本的には、でも」

 ミアンを前にした瞬間の発動は、詠唱も前触れも無しのいきなりだった気はする。

「お、落ち着け王子、大丈夫だ。興奮しなければ、発動しない……よな?」

「……たぶん」

「ね、寝てたら、どうかな? あと十時間……五刻くらいだし、ね?」

 リンコの提案に王子が首を振る。

「ダメです。意識がない状態だと逆に、どうなるかわからないので」

 双子の護衛が、アワアワと慌て出した。

「「で、でも王子、夜更かしできない」」

「待て、待て待て待て。それじゃ、あれだ。お茶でも飲んで、落ち着こう」

「コーヒーとか……でも、こっちの世界にそんなのないよね?」

「ある」

 豆もコーヒーミルもある。カップもある、けどフィルターとポットがない。お湯もか。ダメじゃん。

「ああ……ちょっと待っててな」

 俺は収納に入っていた雑多な軍用レーションをポイポイと出して、付属の粉末コーヒーを探す。効果のほどは定かじゃないけど、ないよりマシだろ。後はFRヒーターに水を注いで……

「あ、ヨシュアそれダメ!」

「え?」

「それ、ヒートパックって水素ガスが発生するから、密閉された機内だと使えない。この機体、強度は上げてるけど素材は布と木なんで、引火したら普通に燃える」

 詰んだ。ガックリした俺に、ダメ押しでミルリルさんが首を振る。

「こーひー、というのはあの苦いやつじゃな。それは子供には飲めたもんではないぞ?」

 それは、ミルリルさんが子供舌なだけではないですかね。

「繊細な舌には苦行じゃ」

 まあ、いいか。さすがに水溶きじゃ可哀想だし。コーヒー飲んだからって眠気がクリアになるわけでもないしな。

 ここは、ひと休みして今後のプランでも考えよう。


「……とりあえず、みんな。飯にしようか?」

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